12. 不気味人形
「ひぃぃぃぃ……」
小声だけど、再び歯の間から情けない音が漏れる。
ダメだ、完全に呪われてるぅ!
神社かお寺に収めてナンとかカンとかするしかなくなくない?
イヤイヤイヤイヤイヤ、ちょっと待てよ、ここで待つんだ俺さま踏みとどまれ。
(いいか、よく聞け俺……オチケツ(死語)だ、オチケツ~……いいか? 分かるか? これはすんげえオイシイネタなんだぞ!)
俺は、まずは呼吸を整え手の震えを抑えた。
そしてスマホで不気味人形を撮影、TReEにアップすることにした。
[過浪レフター:
不気味人形。棄てても棄てても、何度も戻ってくる憑いてくる。誰か助けて]
そしてもう一度自分に言い聞かせる。
(これはガチで呪われてる………ヤバすぎるときこそ、マジで落ち着け俺!!)
もう一度深呼吸をする。
(………吸って、吐いて~~吸って~~吐いて~~~~~……)
――さて、どうする?
壊したりしたら、さらに呪われそうだ。
でも、もうこれを持って歩くのはもはや玻璃心臓が保たない。
俺は衝動的に商店街の端っこの看板の下に人形を置いてダッシュ!
だがしかし、すぐに戻り回収してその場を離れた。
もしまたこいつがポケットに入っていたりでもしたら、もう死ぬ。
呪われて死ぬわ。
イヤイヤイヤその前にだ、お寺にでも神社にでもすがりつこう。
なにせここは高円寺という街だ。
由緒があって大きい寺のひとつやふたつはあるに違いない。
いや、ひとつは少なくともちゃんとある。
中央線にない寺院駅名、国分寺、吉祥寺とは違って、古刹高円寺は駅近に現存するのだ。
しかし、まずは今日の目的だ。
それはもう目と鼻の先にあるのだから。
足早に商店街の緩やかな坂道を降りていく。
事故現場の少し手前、夢の中にあった神社はこの辺りだったかと探してみたが、現実の方にはそんな神社は見当たらなかった。
まあ、夢ってのはそんなもんだ。
坂を降りきったところの十字路――事故現場にはまだ立ち入り禁止のスタンドやコーンが立てられ、黄色と黒の警告テープが張られていた。
花束やお酒、人形などが手向けられた現場。
街灯の鉄柱はひしゃげ、少し離れた電柱もへし折れていた。
かなりの猛スピードで突っ込んできた状況が見て取れる。
どうやら駅前のバス通り方面から暴走して、この十字路を突っ切って電柱にぶつかってようやく止まったみたいだ。
まだ細かいガラス片も散らかっており、血痕も黒く染みを残している。
生々しい事故現場は、そこだけ切り取られた非現実的な暴力を表現している現代アートのようだ。
いや、これこそが現実なのかも知れない。
そうだ、ここに人形を供えよう。
ちょうどテープが貼られて結界のようだしな。
もしかするとここから出てこられないとかを薄く期待。
俺は不気味人形を花束の傍らに置いて、静かに手を合わせた。
「うっ……」
その時頭がずきんと痛んで、一瞬周囲の景色が歪むように見えた。




