11. ハーブ売人の捕縛
「はいはいはい、退きゃあいいんしょ? 退きますよ!」
見事なドレッドヘアーが目立つ日焼けして痩せた男が、商品ごと敷物を丸めだした。
「勝手に行っちゃダメだからね、ちょっと来てもらいますよ。いいですねっ」
「オイラってば~、な~んも悪いことしちゃいないっすよぉ」
「それは後でちゃんと聞かせてもらいますから」
「オイ、何しゃあがる!! テメエ人の商品に手ぇ出すんじゃネエぞゴラッ!!」
警官が落ちている脱法ハーブの箱を手に取ったことで、ちょっとした乱闘が始まった。
俺はすかさずスマホを取り出し動画を撮り始める。
売人の男は、その痩せた体躯に似合わず、かなりの力があるらしい。
ちょっと小突かれた警官が、勢いよく突き飛ばされて体勢を崩した。
しかし、すぐに立ち直り、取り押さえようとして間合いを詰める。
「クエエエエエーーー!」
男はいきなり奇声を発っした。
腕を翼のように広げ、荷物を守るかのようにその周囲を跳ね回り出したのだ。
かなり異様な光景に、人も遠巻きにしてだが集まってくる。
警官たちも最初は戸惑っていたが、やっと二人掛かりで同時に飛びかかり、押さえつけた。
だが直後、すごい勢いで二人して弾き飛ばされてしまう。
野次馬最前線に居た俺の足元に、お巡りさんの片方がドドドッと転がってくる。
「うぁっと!」
思わずジャンプして回避成功。動画も臨場感溢れるものになったに違いない。
にしても、ハーブキメるとこんなに力出るもんなのか?
しかしさすがは警察官、受け身がしっかり取れていたらしく、すぐに起き上がって前後から男を挟み込もうとする。
「大人しくするんだ!」
「やめなさい、話しを聞くだけだから」
しかし売人の男は敷き布にくるんだ商品を抱えると、ドレッドヘアを振り乱し、警官を華麗なステップで切り抜けて駅の方にダッシュ!
そこに応援に駆けつけた警官二人が進行方向を遮った。
今度は四人がかりで前後から挟んだ。
男は「キェエエエエ~~」とか「クゥエエエエ~~~」とか甲高い奇声を発して、カンフーっぽい動きで突きや蹴りを繰り出して抵抗する。
しかし、さすがに多勢に無勢。
ついにはあえなく取り押さえられ、被疑者……じゃないな、これは立派な公務執行妨害、現行犯逮捕となった!
「おおおおおーー!」
周りからは思わず歓声と共に、拍手が沸き起こった。
手錠を掛けられた男が、警官にキリキリ歩かされて去って行くと、我が眷属たる野獣魔一族たちも散っていく。
そして俺はTReEに動画をアップだ。
[過浪レフター:
脱法ドラッグ売人、警官と乱闘の上タイーホ@高円寺パル]
これは絶対ウケル!
ちなみに過浪レフターってのは、俺のハンドル・ネームだ。
ふと見ると、俺の足元に煙草の箱みたいなものが転がっていた。
拾い上げるとどうやらそれはさっきの商品のひとつらしい。
これは返さなくてはと見回すが、すでに警官は去った後だった。
とりあえずこれも撮影してアップした。
[HEAVEN‘S DOOR]
(ヘブンズドア……)
パッケージにはそう書かれていた。
天国の扉か……ドラッグに付けるにふさわしいのかね。
箱絵も確かに二体の子供天使が、雲の上に置かれた扉を囲んでいるものだ。
たぶん古い絵をネットで拾ってきて貼り付けたかしたんだろうか。
これは後で交番に届ければいいやと、ジーンズのポケットに突っ込んだ。
「ひぃっ!」
と、そこで思わず叫びそうになるのをギリこらえた。
いや、ちょっと声漏れたけど―――ポケットの中にゴリッとした何かが!
恐る恐る取り出すと、じっとりと汗ばんだ手に握られていたのは、果たしてあの不気味人形だった。




