3045/05/01 接触①
アガートラムの言葉に嘘はなく、そのすぐあと、バスは何もない空中でピタリと止まった。そしてシューっと何かガスが抜けるような音を立ててゆっくりと高度を下げ始める。その間、窓に貼りついた子供たちは手を振り続け、声が枯れるまで叫んだ。
地上に近づくにつれて、ロックが町の人だという灯りの正体が徐々に見え始めた。それは手に灯りを持った人の集団で、見える範囲にいる人は全員が馬に乗っていた。
明らかに向こうはこちらに気づいている様子で、うろうろと落ち着かない動きを見せる馬をそれぞれ巧みに操ってその場に留まる。さすがにこの距離、この暗さで向こうの顔、表情までは判断できないが、馬を操りながらこちらを警戒している様子は何となくわかった。
(しかし、馬? なんで、馬? あれ、本物だよね?)
私は一人、心の中で考え始めた。
馬を一匹育てるのにいくらかかるとかそういったことは知らないが、明らかに車やバイクを持つよりも高くつくだろう。馬しか、移動する手段が馬しかない? そういえば、馬車とか誰かが口にしていたような……、あれ? ほんとに、それしかない?
変幻自在に空を飛び、様々な会話が可能な高度なアガートラム、十数人を乗せて空を飛ぶバス、1000年後の世界といわれて納得しかけたそれらと比べて明らかに文明のレベルが違うそれに戸惑いを覚え始めた。
そんなことを考えているとガツンと何かが当たった音、小さな揺れがした。
「やめて!」 「危ないから、それ、やめて!」 「おじさん! 駄目! やめて!」 「きゃああああ!」
窓に貼りついていた子供たちはいつの間にか呼びかける声を止め、外に向かって違う色合いの声で絶叫するように訴える。何人かの子供は窓から離れ、体を丸くして悲鳴のような声を上げた。
―緊急停止、降車予定位置での停車は危険と判断します。浮上しますので、何かにおつかまり下さい。
天井からの放送はいつにもなく緊迫したものとなり、ガスが漏れるような音は止まる。再び、バスは垂直に動き始めたが、ゴン! ゴン! ガツンっと音は続けて聞こえた。一つ一つ揺れは小さなものであったが、それは何度も何度も続いた。
「え、なに? なにがあったの?」
―車体に向かって石やモノが投げつけられました。予定の位置への降車は危険と判断しました。申し訳ありませんが、このまま一番近い停留所まで向かいます。




