3045/05/01 バスと馬車
走れ! といったものの車いすはうんともすんとも進まない。仕方なしに、これまで全て自動で動いてくれた車いすの車輪を掴み初めて自分で進もうとしたが、そこで私はどこにバスが来るのか知らない事を気づいて、全く動くことが出来なくなった。
―お待ちください。多田様は車いすのまま乗車されますから、こちらの方にバスが回るよう手配いたします。
「え? ああ、出来るの、そんな事?」
ーはい。問題ございません。バスの到着までこのままお待ちください。
そんな間抜けなことになった私に一番初めに言葉を返したのはやはりアガ-トラムであった。
きっとこれは性分なのだろうが、先ほど聞いた時間が15時52分、バスが出るのが16時、あと八分という微妙な時間が私の心をくすぐる。もうすぐバスが出ると言われるとそれに遅れてはならないという気持ちが湧いてくる。そのことに反省の気持ちを抱くと今度は後ろから声がかられた。
「おい、タダサン、どうしたんだ?」
「タダサン、どこに走ればいいの?」
「いきなり走れって、何かあるんですか?」
声の主はいつものセン達三人であった。
走れといきなり叫び、その後全く動かない私の事を彼らはどう思ったのだろうか、その声には不安と焦りのような色合いが見える。恐る恐るそちらに目を向けると、セン達はこちらを困惑した表情で伺っている。ついでに彼ら以外の子どもたちも、私の突然の大声にどうすればいいのか大いに困った表情を浮かべていた。
「タ、タダサンだっけ? なあ、なんか、ヤバいのか?」 「何か来るのか? それ、なんか言ってたけど大丈夫なのか?」 「逃げたほうがいいの?」 「どこに、逃げるの?」
子供たちの方はそのままざわざわと騒ぎ始めている。明らかに、またマズいことになりそうな気がする。私の先ほどの行動が彼らの目から見て何かから逃げるような動きに見えてしまっているらしい。
「い、いや、落ち着いて、ごめん。もうすぐ、ここにバスが来るから……」
その様子を落ち着かせようと口を開いて、閉じられなくなった。
「何かが来るって?」 「バス?」 「バスが来る?」 「何だそれ?」
子供たちの多くは私の説明、バスという言葉に明らかに不安な反応を返した。ところどころで知らない、分からないという言葉が聞こえる。
(失敗した? バスを知らない? どうせ説明すれば、ええい、クソッ!)
「えーっと、バスというのは、く、車の大きな奴で、多くの人が乗って移動する……、そう、乗り物で」
「乗り物? 馬車?」
「え? ああ、そう、馬がいない乗り物!」
何とかバスを説明しようと言葉を口にするが上手くまとめられず、単語単語を並べていると、アールがふと馬車という言葉を口にした。その言葉の響きがバスに近いこともあり、私は全力でそれに乗っかた。
「馬がいない乗り物で、それがもうすぐここに来るからみんな危なくないようにここに一か所に集まってちょうだい」
そのあと何とか、言葉をつなげて説明を終える。子供たちはその説明に納得したのか分からないが大きな混乱なくそれに従った。




