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第八十一話『竜王の封印。神竜の騎士』

 俺の下半身がきれいさっぱり無くなっていた。

 もはや生きているのが不思議なくらいだった。


 ……ああ、なるほど。

 あまりに一瞬のことだったから痛みを感じる間もなく、なおかつ傷口が焼かれたことで出血も最小限で済んだから、まだ俺は生きているらしい。

 俺は冷静にそんなことを考えていた。


「ごしゅんさま……ごしゅじんさまぁ……!」


 一方でルゥはこれ以上ないくらいに取り乱していた。

 錯乱してこちらに向かって来ようとするが、がくがくと手足を震わせるばかりで全く進んでいない。

 俺は自分のことよりも、ルゥにそんな顔をさせてしまっていることの方が悲しかった。


「ぐううっ!!」


 ルゥは自分の足を抓って奮い立つと、無理矢理に歩いて俺の側までやって来る。

 そして近くに落ちていたマジックポーチから、先程拾ったばかりのエクスポーションを取り出して俺に飲ませてくる。

 徐々に意識は遠のいているが、それでもまだエクスポーションを嚥下するくらいの力は残っていた。

 でもこれ、トイレどうすればいいんだろう? などと益体のないことを考えながらもエクスポーションを飲み続けるが、しかし全く回復している気がしない。

 やがて全て飲み干したが、俺の状態は変わらなかった。

 それどころか一歩ずつ死が近付いて来ているのが分かる。


「そ、そんな!? どうして……!? どうして……!?」


 ようやく気を保ったばかりのルゥだったが、再び取り乱していく。


「無駄よ。そんなチャチな薬で治るような傷じゃないわ」


 そう言ったのはリエルだった。

 空中に浮きながらこちらを見下しているので、パンツが丸見えなのだが……。

 でも……あれ? 何色か分からない?

 それどころか段々と視界が暗くなってきているような……。


「ご主人様! しっかりして下さい! やだ、やだ! わたしを残して死んじゃやだ!」


 ルゥの泣き叫ぶ声が聞こえるが、やがてその顔も見えなる。

 このまま彼女を残して死ぬなんて、心残りもいいところだ。

 何よりリエルが健在な状況では、俺以外のみんなも殺されてしまう……。

 何か手は……何か手はないのか?


「どけ」


 クルーエルの短い声が聞こえた。

 その後すぐに俺の上半身がルゥの胸の中からクルーエルの胸の中に移った感触があった。

 さらにはガリッという音と共に、口の中に何かを垂れ流される。


「バカね。神竜の血は他の竜たちにとっては蘇生薬になるけど、人間には猛毒にしかならないわ。あなたにだってそれは分かっているはずだけど? まあ、どうせ放っておいても死ぬから、藁にもすがりたい気持ちは分かるけどね」


 リエルのそんなセリフが聞こえる。

 どうやら俺の口に入って来ているのはクルーエルの血らしい。

 だが残念なことに俺にはもう飲み干す力も残っていなかった。


「今、わしが飲ませてやるからな」


 そんな言葉と共に、ややあって唇を温かい何かが覆った。

 そして口の中に何かが入って来たかと思うと、ぴちゃぴちゃと艶めかしい感触が口の奥へと液体を流し込んでいく。


「あっははは! 滑稽だわ! まさか竜王のそんな姿を見ることが出来る日が来るなんて! あー、長生きはするものねえ!」


 リエルが哄笑している。

 しかし、俺の意識はまだ繋ぎ止められていた。

 口の奥に入って来た何かは、腹の奥で熱く燃えたぎっていた。

 やがてそれは全身へと漲り、体中にパワーが溢れる。

 俺は目を開けた。

 先程まで何も見えなかった視界が開ける。


「良かった……! ご主人様ぁ」


 ルゥが涙でぐしゃぐしゃの顔で抱き着いてきた。


「バ、バカな! な、何故神竜の血を飲んだ人間が助かるのよ!?」


 リエルの狼狽える声。

 見れば俺の下半身も復活していた。

 俺は自分の身に起きた状況を何となく理解する。


 ――クルーエルが助けてくれたのだ。


 しかしそこで俺の記憶がフラッシュバックする。

 あれ……? 何か前にも似たようなことがあったような……?


「お前は二度も儂を救ってくれた……」


 ふと、クルーエルが言った。

 彼女が俺に二度救われた? 

 一回目は先程の件だろう。

 では、もう一回は……?


「だから今度は儂がお前を助ける。切り札を使ってでもな……」


 クルーエルの横顔は決意に満ちていた。

 彼女は立ち上がると、キッとリエルを睨みつけながら呪文を唱える。


「我が内に封印されし力よ 今我が呼び声に従いその力を解放せよ レリースエンゲージ!!」


 途端、クルーエルから凄まじいエネルギーの奔流が巻き起こり、暴風が辺りを支配した。


「な、なんなの、この力は!?」


 リエルが警戒して離れていく。


「喜べ。魔王と戦うためにとっておいた力をお前のために使ってやる……」


 クルーエルはそう言うと、一瞬にしてリエルの後ろに回り込んだ。

 変身せずに、生身で、だ。


「なっ……!?」


 驚くリエルの背中にクルーエルは容赦なく蹴りを叩き込む。


「ぐあっ……!?」


 それでリエルは吹き飛ばされ遠くの壁に激突した。

 クルーエルはそれを追っていく。

 それは俺の知っているクルーエルとはまるで違うスピードだった。

 神竜に変身している時の速度とまったく変わらないではないか。


「な、なめるなぁっ!!」


 リエルは壁に埋まった体を無理矢理剥がすと、衣装を破きながらクルーエルへと突っ込んでいく。

 二人は空中で激突した。

 それだけでここまで衝撃波が伝わってくる。

 そこから二人は互いに拳や蹴りの応酬を始めた。

 俺はその様子をじっと見つめる。

 が、そこに、


「竜騎士さま……今の内に逃げましょう」


 その声に振り向くと、いつの間にかローシェが近くまで来ていた。

 その姿はぼろぼろで、立っているだけでやっとに見える。


「竜騎士さま、今の内に逃げるのです」


 ローシェはもう一度そう言った。

 しかし俺は首を横に振る。


「何故ですか!? ここは竜王様が自由に戦えるよう、足手まといのわたしたちは引くべきです……!」


 ローシェはそう言うが、俺は従うことは出来なかった。

 クルーエルを置いていきたくないとか、そういった類の感情論ではない。

 一見して彼女たち二人の戦いは、クルーエルが押しているように見える。

 が、俺には分かっていた。

 クルーエルの顔に焦りがあることに。


「くっふふふ……! 最初は驚いたけど、それでも昔に比べたら全然じゃない!」


 リエルがクルーエルの拳を頬にめり込ませながらも楽しそうに笑っている。

 奴も気付いているのだ。クルーエルのパワーアップが短時間限定である事に……。


(このまま長引けばこちらが不利じゃ。仕方がない。もう一つ封印を破るしか……!)


 実際クルーエルはそのように考えていた。

 そして不思議なことに、その考えは俺にも伝わっていた。

 ――クルーエルの考えていることが分かる?

 それはきっと先程クルーエルが自分の血を俺に分けてくれたことに起因しているのだと思う。

 ……いや、違うか?

 もしかしたらその前から……。

 とにかく、もう一つの封印……それを破らせてはいけない。

 だから俺は叫んだ。


「クルーエル!!」


 俺の叫びにローシェが驚いた顔をする。

 それはそうだろう。多分俺、彼女の前で初めて喋りましたからね……。

 一方、クルーエルは俺の方を見ると、俺の考えを理解したかのようにこちらに向かって転進した。


「なっ!? 逃がさないわよ!」


 リエルがその後を追ってくる。

 しかし、その目が見開かれる。

 何故ならその視線の先――俺の右手の甲に金色の紋章が浮かび、光り輝いていたからだ。


「なっ……どういうこと!? 竜騎士は一匹の竜としか契約出来ないはずじゃ……? ど、どっち道、やらせないわ!!」


 リエルが紫色の魔力球をこちらに向かって投げつけてきた。

 クルーエルがこちらに着くのと魔力球が直撃するのは同時だった。

 激しい爆発が襲い、辺りに爆炎が舞い上がる。


「ご主人様!」

「竜王様!」


 ルゥとローシェの叫びが聞こえた。

 でも大丈夫。

 リエルがニヤリと口元を歪めた時、爆炎を晴らすように光が爆発する。


「なにっ!?」


 光と同時に飛び上がったのは白い竜だった。

 言わずもがなそれは竜王クルーエルである。

 そしてその背には俺が乗っていた。


「バカな……竜王に竜騎士が乗るなんて……!?」


 リエルの唖然とする顔と俺たちは対面する。

 向かい合う俺たち。

 ……よし、取りあえず今の内にズボンを穿こう……。

 下半身を吹き飛ばされた時にズボンも一緒に吹き飛ばされて、そこから下半身だけが復活したから丸出しだったんだよね……。

 場が緊迫していたから誰も突っ込む暇もなかったみたいだけど、恥ずかしいったらなかった。

 俺はマジックポーチからズボンを取り出すと、クルーエルの背中でいそいそと足を通すのであった。







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