第四十六話『ルゥ』
翌朝目を覚ますと、奴隷竜の少女は既に起きていた。
俺の側で遠慮気味に座っていた彼女と目が合う。うん、おはよう。
一応目であいさつしたけど、伝わったかどうか超不安。
今思えばマリーさんとディジーさんがどれだけコミュ障の考えを汲み取るのか上手かったのか理解出来る。
あれが普通ではなく、これが普通なのだ。
段々と分かってきているが、この少女もかなりのコミュ障だと思う。
そりゃコミュ障が二人いれば何も伝わらないわ。
まあとにかくこのままコミュ障同士で見つめ合っていても何も進展しないので、今日の予定を進めていくことにしよう。
今日は彼女をダンジョンに連れて行く。
俺は昨日決意した。彼女に生きる自信を与えると。
だから彼女に強くなって貰おうと思ったわけである。
そのためにまず彼女のステータスを調べておかなければならない。
それによって育成方法が変わってくるからな。
そう思って俺は目に力を入れ、『生物鑑定スキル』を発動させる。
すると、
「ひゃ」
彼女の悲鳴とともにレジストされた気配があり、俺はスキルを中断してしまう。
……そう言えば他人に向けて『生物鑑定スキル』を発動させたのは初めてだったな。
なるほど、こうなるのか。
彼女の方も俺が何かしたことが分かったらしく、
「あの……すいません。次は抵抗しませんから……」
そう言うと彼女は両手を後ろにやって顔を逸らした。
……なんかエロい。
……どうしてこんなに背徳感をそそられるのか……?
い、いや、とにかく鑑定しよう。
もう一度スキルを発動させると彼女はまた短く吐息を漏らしたが、今度は抵抗なくステータスを読み取ることが出来た。
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名前なし 12歳 竜人族 女 レベル1
職業:火竜(上級職)
筋力:3
魔力:3
体力:3
防御:4
敏捷:3
魔耐:4
成長率:人形態5
:竜形態39
ジョブスキル:竜化(無効)・炎のブレス レベル7(無効)・ドラゴンクロウ レベル3(無効)・ドラゴニックパワー レベル1(無効)
個人スキル:なし
ユニークスキル:孤独の証(無効)・刹那の衝動
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……あれ? 意外と凄くない?
少なくても俺の予想より遥かに良い内容だ。
確かにステータスの数値はかなり低くパッと見は弱いが、ユニークスキルを二つも持っているし、信じられないことに竜形態の時の成長率(才能)が39もある。
これほどの潜在能力を持っていて何故ラザロスなんかに虐げられていたのかと一瞬思ったが……そうか。ラザロスの奴も、恐らく彼女をラザロスに売った奴隷商人も彼女の力を知らなかったに違いない。
冒険者ギルドのステータスを測る石版はステータスの数値しか出て来ず、スキルや成長率は出てこなかった。だから彼女の成長率とユニークスキルには気付かなかったのだろう。
それとさすがコミュ障と言うべきか、俺と同じユニークスキル『孤独の証』を持っている。
多分これは褒められるようなスキルじゃない気はするが、それでも互いにこのスキルが解放される日が楽しみでもある。
……しかし炎のブレスは無効になっているな?
だとしたらあの時、リザードニードルから俺を救ってくれた炎はなんだったんだろう?
あの炎は多分これのことだと思うけど……。
その疑問はユニークスキルの『刹那の衝動』を調べてみて判明した。
『刹那の衝動』のスキル効果は『想いが思考を追い抜いた時、眠っている全ての力が発揮されステータス値が大幅に上昇する』とある。
『想いが思考を追い抜いた時』なんて、ふわっとした説明ではあるが、恐らくこのスキルの効果であの時、炎のブレスのリミッターが外れたのではないだろうか?
多分これ物凄く強力なスキルだと思う。羨ましいな……。
それと『竜化』のスキルは恐らく竜に変身するスキルのことだろうと思う。
無効になっているということは、今は竜状態になれないということか……。
しかし、これは育成のしがいがあるのではないか?
『竜化スキル』が無効になっているから最初の内はかなり苦労しそうだが、レベルが上がって何かの拍子に『竜化スキル』さえ解除されれば、恐らく彼女はどんどん強くなっていくような気がする。
そうすればきっと自分に自信を持ってくれるに違いない。
うおお、育成楽しみ過ぎる……。
そんなわけで早速ダンジョンに行こうと思ったのだが、その前に一つ気になることがあった。
ずっと彼女の名前を知りたいと思っていたのだが、まさか『名前なし』とは……。
最初から名前が与えられなかったのだろうか? それとも名前を失った?
いずれにせよこのまま奴隷竜の少女と(心の中で)呼び続けるのも不便だ。
一応、彼女自身に本来の名前があるのかどうか聞いてみよう。
「……ナマエ……」
……こんな単語しか喋れなかったよ。
でも頼む、通じろ。
しかし俺の意図が分かったのか、彼女は少し考えた素振りを見せた後、このように答えた。
「るぅ……ルゥとお呼びください」
……ん?
……『るぅ』って、まさかラザロスから彼女を買い取ろうとした時に俺が言ったアレか?
いや、あれは久々に喋ったせいで噛んだだけなんだけど……。
『竜』を『るぅ』と言い間違えてしまっただけですが何か……?
しかし彼女は真剣な目で訴えてくる。
「どうか……どうかルゥとお呼びください、ご主人様」
ご、ご主人様? それって俺のこと?
なんかこそばゆいな……。
で、でも、ルゥか……。
まあ彼女がそう呼ばれたいのならそれでいいだろう。
俺は頷いて彼女の名前が『ルゥ』であることに肯定の意を示した。
すると彼女――ルゥは久々に笑顔を見せてくれる。
「ありがとうございます、ご主人様」
……やっぱりこの子、笑ったら鬼可愛いわ。
でも、そのご主人様っていうのやめない? なんか得も言われぬ感覚に包まれてヤバいんだけど……。
ただそれを言えない俺でした。
……まあいいやご主人様で。
その内、俺が喋れるようになったら訂正させよう(不確定未来)。
そう決めつつ、俺はルゥを連れて『風の迷宮』へと向かった。




