第18話:魔力の水
その後も馬車に揺られながら移動を続けた。
気づけば日も落ちてきており空が暗くなってきている。なお、あれ以降戦闘になることはなかった。
意外と平和なもんだ。
「フレミナさん、馬の体力消耗具合ってどれくらい?」
「そうだね…そろそろ必要かもね。ホルンまで大体あと3割だろうし」
ネヒトの質問にフレミナが答える。
今日だけでそんなに行けたのか...丘上で見たときは結構離れてると思ったんだけどな。
やっぱ乗り物ってってすげぇや。
「なにかするんですか?」
「あぁ、野営場所の確認だ。馬の体力が限界そうなら休ませた方が良い。その時はなるべく見晴らしの良い場所か開けた場所を探すのが基本だ」
「ネヒトは場所探すの得意だからね、こういうことはあいつに任せた方が良いのさ」
索敵を得意とするネヒトさんの判断の方が安心出来るってことか。
そして今は依頼主であるフレミナと相談してるという訳か。
「みんな!ここで野営をするよ、んでもって明日は日が出る前に出発だ!何事もなければ予定通り早朝に着くよ」
ネヒトの指示に各々がうなずく。
馬車から降りて各々野営の準備を始める。
守備旅団はテントを立てたりフレミナは馬の世話をしたりしている。
そんな中俺とリンは枝を拾っていた。というのもキャンプ道具を何も持ってないのでやることがない。
そこで何か手伝えないか聞いたところ焚火用の枝拾いをお願いされた。
ちなみに枝はいくらあってもいいらしい。バックにしまっておいてまた野営の際に使うのだとか。
ここには森っぽいので枝はすぐに集まった。
野営地に戻るとアックがテントを建てており、近くには昼間倒したボアが転がっていた。どうやらマスカとハーミトが解体していたらしい。
「戻りました。あれ?ネヒトさんは?」
「あいつなら…お、ちょうど戻ってきた。おーいどうだった?」
振り向くとネヒトが歩いてきた。
「ダメだったよ。近くに水源はなかった」
「そっかぁ」
どうやら水の確保をしようとしていたらしい。まぁ旅での水源確保はかなり大事だからな。
生き物は体内の水分が減ると危険だってよく聞くし。
「ねぇシン…アクアバルーンやる?」
「う~ん、そうだね。今からやれば結構水溜まると思う」
そういえばさっきリンも使えるって言ってたな...。
それなら、
「リンも一緒にやってみるか?」
「手伝う」
よっしゃ!それじゃ早速始めるか。
「なんかやるのか?」
「あぁ、アクアバルーンって魔術があってな。飲み水はこれを使えばいい」
っとおや?
アックとネヒトが少し嫌そうな顔をしている。
「どうした?」
「いやぁ、魔術で作った水ってさ…」
・・・あぁ、理解した。
「「「不味い」」」
やったことあるからその気持ち、すっごくわかる。
魔力で作った水ってなんかすっごい不味いんだよなぁ。
「シン、二人と同じ顔してる…」
しょうがない、共感しかないんだもん。
だが安心してほしい。
「アクアバルーンで作った水は普通だから問題ない!」
「ほ、ほんとか?」
後で試してみてくれ、多分驚く。当時俺は嬉しすぎて泣いた。
「それじゃリン、行けそ?」
「大丈夫、出来るよ」
なら始めようか。
俺とリンは手をかざし詠唱を始める。
「「〈風水よ、風を纏て、恵みの水を保ち給え→アクアバルーン〉」」
空中に小さな風の塊が2つ発生した。どうやらリンも成功したらしい。
「これが…水?」
「いや、正確にはこの中に水が出来る。」
「駄目だ素人にはわからん、ネヒトわかる?」
「いや、無理。ハーミト呼ぼう」
「あの、これからフレミナさんと料理をするんですが…。」
「もしかすると死活問題だから!」
「覚えてお願い!」
「・・・あの、シンさん?どうしてこうなってるんですか?」
いやぁ…どうしてだろうね?
とりあえず経緯を説明する。
「なるほど…確かに死活問題ですね」
・・・あんたもか。
「水が出来るまで維持する必要があるのとこれ、正確には魔法術だから、見た目より大変だぞ?」
「やってみます。フレミナさんすみません!こっちにいて良いですか?」
そういえばフレミナさんと料理するっていてたっけ…。
向こうで「いいよー」と声が聞こえる。
「許可も出ましたので、教えてください」
ハーミトさん思ったより自由だなぁ。てっきり真面目キャラだと思ってたんだが。
まぁいいや。俺はアクアバルーンについて構成術式と原理などを教え始めた。
大体30分後・・・
「シャボン玉?台風?ろ過?えいちつーおー?」
あ、パンクした。
「そろそろ飯にしようか・・・ってハーミトはどうしたんだ?」
どうやら夕食の準備が出来たようでマスカさんが俺達を呼びに来た。
「アクアバルーンって魔術をシンさんから教えてもらってたんだけど…意味が分からな過ぎてこうなっちゃった」
「ハーミトが攻撃魔術以外で苦戦するなんて珍しいな」
多分、魔術じゃなくて魔法術だからかもしれない。
「後で紙貰える?多分絵があった方が解りやすいと思う」
「分かった。とりあえず、明日も早いし一旦飯にしよう」
そういえば出発前に買った干し肉とか食ってないな。
そう思うと腹が減ってきた。
「はい、さっき解体したボアの串焼きとパンだよ」
「ありがとうございます」
礼を言いつつ受け取る。
なんか復活してからずっと肉しか食ってない気がする。そろそろ野菜とか果物とか食べたい。
「シンさん!例の水試してみていい?」
アックが聞いてきたのでアクアバルーンの中を確認する。俺とリンのを合わせて結構な水量が溜まっていた。
「いいですよ。コップ出してください」
バルーンを操作して出されたコップに水を注ぐ。
「何だいそれ?」
「魔術で作った水です」
あ、フレミナさんとマスカさん同じようになんだか嫌そうな顔してる。
味は保証するよ?
「では…いざ!」
アックさんなんか覚悟決めた言い方だな…。
みんなが彼の方を注目している中、そういって一口飲んだ。
・・・え?なんか言えよ?
「も、もしかして不味かったか?」
この魔術は失敗したことないんだぞ?昨日だって上手くできてたし!
「ま…」
「不?」
え?マジで不味い?
「まずくなぁああい!」
いや、反応わかりにくいな!!
「すげぇ、すげぇよこれ!魔術の水なのに不味くない!」
「ば、馬鹿な・・・」
全員が信じられない顔をしている。
そこまで驚くことかね?いやまぁ気持ち分からなくはないけど。
「よし、全員試してくれ。そうすればわかるだろう」
全員のコップに水を注ぐ。身構えつつも皆一口飲んだ。
「「「ま、不味くない!」」」
なんで頑なに美味いって言わないの?美味いって言え!
「ハーミト、これやっぱ覚えようよ!絶対便利じゃん!」
「が、がんばります。でもあの原理を理解するのはちょっと…」
頑張れハーミト、君なら出来る。
適当にそう思っとく。
「お二人はすごいですね、魔法術なんて高度なことを平然とやってるなんて」
・・・あれ?リンってアクアバルーンに関する原理って知ってるのか?
この原理について話したのはさっきが初めてだ。
「なぁリン。お前、雨とか台風とかの原理って知ってるの?」
「・・・知らない」
「「え?」」
どういうことだ?
「リンさん、魔法術の原理を知らずに使えるんですか?」
「うん」
ハーミトは驚愕していた。そりゃそうだ。
魔法術は必ず、原理が必要になる。というか、魔術にはそれ相応の知識が必要になる。
本来見ただけで再現できるのはありえない。
「飯食べ終わったら、ちょっと検証に付き合ってくれないか?」
割と最重要事項かもしれない。
考えたくはないがもしも…
もしも魔王の力と関係があるのだったら…
Topic:魔力の水
魔力で出来た水は飲むことができます。
ただし、クソ不味いです。まるで腐ったような味がします。
害はないですが、気分が悪くなります。
対して、アクアバルーンの水は極論、雨水をろ過している感じなので味は普通です。
そう、普通なんです。特別おいしいわけではないんです。
Topic: 魔法術
魔法を魔術で再現することを魔法術と呼びます。
魔法はイメージすることで結果のみが出力したもの。
魔術は魔法を誰にでも使えるように術式という形を追加したもの。
魔法術は魔術で魔法を再現するためにイメージを原理(理論)で補ったもの。
ややこしいですが、似て異なるものです。
火属性で例えると、
魔法の場合、燃えてることをイメージするだけで火が出ます。
魔術の場合、術式で属性や座標などの条件を指示することで火が出ます。
魔法述の場合、なぜ火が燃えるのか?というメカニズム=原理を知り、それをイメージしながら術式を構築することで火が出ます。
この世界の人々に科学知識はほどんど普及していません。
発火の理由?火があるからだろう…みたいな感覚です。
アクアバルーンの場合、シャボン玉・水・雨・台風・ろ過などの原理が必要です。




