第9話 あまりにも悲しすぎるお別れ!
「死ね……っ! 燃えて灰になれっ!」
メルカは憎しみのこもった声で言いながら、瀕死のラヴェルナを焼き尽くす。
「ぐああああああああああああああッ!?」
「あんたなんか……死んじゃええええッ!」
だが、精霊は契約した人間からの魔力供給によって生かされている存在だ。
契約者であるラヴェルナを手にかけることは、同時に自身の消滅を意味していた。
「うっ……!」
それを理解した上で躊躇なく炎の力を使い果たしたメルカは、うめき声を発しながらその場に倒れ込む。
魔力による肉体の維持が不可能になり、彼女の体は消えかけていた。
「うわぁ……っ! な、なんてことをするのですかメルカっ! こんなのっ……あんまりですよぉっ!」
ルッタはそんな彼女の元にすかさず駆け寄り、悲痛な表情で叫ぶ。
「いいの……今の記憶なんて……覚えていても仕方ないから……」
一方のメルカは、消え入りそうな声で返事をした。
「むしろ……ずっと、こうなって欲しかったんだと思うわ……あいつに反抗する勇気が……出せなかったの……」
その顔はどこか満足げである。
「メルカ……っ! うぅ……っ!」
その時、ルッタの目から溢れた涙が消えゆく少女の頬を伝う。
「会ったばっかりの……あたしのために泣いてくれるなんて……優しいの、ね……」
最期に少しだけ人の優しさを知ったメルカは、力なく微笑んだ。
「ねえ、あなたは……なんて名前なの?」
「ひっぐ……ルッタです……っ」
目元の涙を拭いながら答えるルッタ。
(ドロップアイテムも……ラヴェルナも燃えてしまいました……! ラヴェルナを元気にすれば、また経験値になったかもしれないのに……!)
言うまでもなく、彼が泣いている一番の理由は本来得るはずだった戦利品が全て焼失してしまったからである。
「こんなことって……ありませんっ!」
盗賊は気絶させただけで経験値になるという事実を知った彼は、それを利用してひたすらラヴェルナを経験値にし続ける素晴らしい計画を立てていたのだ。
しかし、その野望はメルカによって粉々に打ち砕かれてしまった。
「殺すなんてっ、そんな……っ! うぅぅぅっ!」
縋りつき、再び涙を流すルッタ。
「泣かないで……あたしは、いっぱい燃やしてきた罰を……受けないといけない……から……」
言いながら、精霊の少女は彼の手をそっと握りしめた。
(ニンゲンの手って……こんなに、温かかったんだ……)
そして、朦朧とする意識の中でそんなことを思う。
「つ、ぎは……やさしい、ひとが……いいなぁ……」
ぽろぽろと涙を流しながら、そう呟くメルカ。
「うぅ……どんな精霊とも契約できる優しい人なら……僕が知っていますよ……っ」
ひとまずルッタはそう教えて、両手でそっとメルカの手を包み込んだ。どうやら悪魔の如き少年にも僅かばかりの慈悲は残っているらしい。
(困っている人には優しく手を差し伸べるべき……でしたよね! お父さま、お母さま……! ――ところで、精霊は人という判定で良いのでしょうか?)
教育の賜物であった。
「心配せずとも、次に目覚めた時は……その人の精霊として……幸せに暮らせると思います……っ!」
「……そう。……よかった……わ」
――でも本当は、あなたとがいいな。
そんな想いは口にせず、ゆっくりとまぶたを閉じるメルカ。
やがて彼女の肉体は光となって消え去り、燃える炎のように真っ赤な手のひら大の結晶だけが残されるのだった。
「ぐすっ、精霊石を……ゲットしましたっ!」
目元の涙を拭いながら、天高く『炎の精霊石』を掲げるルッタ。
そこに宿っているのは、本来であれば炎のように明るくて活発な少女の魂だ。
しかし、全ての元素に適性を持たないルッタは、どの精霊とも契約することができない。
「……とりあえず、これはリリア姉さまに渡しましょう。優しい人なので、メルカも納得するはずです……! 残念ながら、リリア姉さまが魔力に目覚めるまではもう少し時間がかかりますが……!」
ボス戦の末に残った唯一のアイテムを大切に懐へしまい、再び立ち上がるルッタ。
「でも僕の……僕の経験値がっ、ドロップアイテムがっ……せっかく勝てたのにっ! 頑張ったのにっ! お、お……おーいおいおい……っ!」
だが再び悲しみが押し寄せてきたらしく、声を上げて泣いてしまうのだった。
*
ドロップアイテムや経験値、精霊のメルカたちと悲しいお別れをしたルッタは、気を取り直してダンジョン探索を再開し、ついに奥地へと辿り着いた。
本来この場所を守っていたゴーレムは盗賊たちによって全て排除されているらしく、当分の間は復活しないだろう。
「ありました! これが超古代端末……『アステルリンク』ですね!」
ルッタは複雑な模様の刻まれた壁の中心に埋め込まれている板状の端末を手に取り、軽く画面に触れてみる。
すると端末が起動し、世界地図が表示された。
この星にはアルティマと呼ばれる巨大大陸があり、そこに五つの国家が存在している。
西の平原のリゼリノ王国を始め、北の雪原にはノルヴァイン帝国、南部の砂漠にはイシュラウス連合国、東の山岳地帯にはユウレン王国、さらにその先の島にはヒサギリ神国があるのだ。
そして大陸の中央には、各国が貿易に利用する中立地帯――マグナリス海と呼ばれる巨大な湖が広がっている。
アルティマ・ファンタジアではこれら全てが冒険の舞台となっており、導入の物語が一区切りつく第二章以降、プレイヤーは自由に各地を回ってシナリオを攻略できるようになるため、アステルリンクは非常に重要な端末型のアイテムなのだ。
しかし今のところ、移動できる場所はこのダンジョンのみである。
「えーっと……うえうえしたしたひだりみぎひだりみぎ――」
しかし、ルッタが秘密の隠しコマンドを入力したことで一瞬にして全ての行き先が解放された。
「いきなり全開放はズルい気がしますが……背に腹は変えられません! まずはお家に帰ります!」
何故か登録されている自宅をファストトラベルの行き先に選択すると、彼の身体は光に包まれ跡形もなく消え去るのだった。
果たして、彼はアルルー邸のどこへ飛ばされたのだろうか。




