第8話 初めてのボス戦と予想外の悲劇!?
「おーーーーーーーーーーーーっ!」
ルッタは咆哮しながら木の枝を構え、一直線にラヴェルナへ突進していく。
「舐めんなよクソガキイィィィッ!」
血走った目を見開き、絶叫しながら両手に握った短剣を振り回すラヴェルナ。
「とうっ!」
――――ギィンッ!
木の枝と短剣がぶつかり合い、火花が散る。
「死ね死ね死ね死ねええええええええええッ!」
「死にません死にません死にません死にませんっ!」
すかさず連続攻撃を仕掛けるが、それらは全て的確に弾き返されてしまった。
「おらッ!」
追い詰められたラヴェルナは、回し蹴りを繰り出し強引にルッタを突き放す。
「おっとっと…………やりますね! 流石は序盤の難関ボスです!」
「うるせェ……黙れッ!」
今の彼女にルッタの話し相手をするだけの精神的な余裕はなかった。
「では、もう一度いきます! うおーーーーーっ!」
そうこうしている間に、ルッタは再び木の枝を構え直して突撃してくる。
(コイツ……なんでこんな躊躇なく突っ込んできやがるんだ……ッ! こっちは短剣ブン回してんだぞッ!)
ラヴェルナは内心、あまりにも怖れ知らずなルッタに動揺していた。
(バカなのか? 死ぬのが怖くねェのか? ガキの分際で……ッ!)
彼女の戦い方は、ひたすら身体能力と反射神経に頼ったものだ。
相手の防御の隙にひたすら切り込み、逃げようとすれば短剣を投げつけ牽制する。出血によるダメージの蓄積で体制が崩れたところで致命傷を負わせ、命乞いをされようが動かなくなるまで八つ裂きにする。
――こうすれば大抵の相手は殺せたので、深く戦略を考える必要もなかった。殺し合いに必要なのは人の理性ではなく、野生の本能であるからだ。
だが、なぜかルッタにはそれが通用しない。
「死ねっ! くたばれぇッ!」
「やあっ! とうっ! そりゃっ!」
どう見ても隙だらけであるのにも関わらず、何故か攻撃が通らないのである。
「間抜けな声出しやがって……!」
怒り心頭のラヴェルナだったが、そこであることに勘づく。
「おーっ!」
「そんな攻撃が当たるか――うぐッ?!」
戦闘技術の未熟さの割に、あまりにも動きが的確すぎるのだ。
(コイツ……知ってやがるな! アタシの動きの癖を……ッ! ……読まれてるとかじゃねェ……全部《《知ってる》》んだッ!)
ルッタの動きは、まるで未来でも見ているかのようだった。理由は不明だが、自分のような相手と戦い慣れているのである。
(ふざけやがって……ッ!)
だが、攻撃が通じない理由が判明したところで事態が好転するわけではない。
「さらに隙ありですっ!」
短剣を防いだ一瞬の隙に素早くラヴェルナの背後へ回り込み、背中に強烈な一撃を叩き込むルッタ。
「ぐっ、がはぁッ!?」
不意の攻撃をくらったラヴェルナは、吐血してよろめく。
(なんでこんなガキがっ! ありえねぇ! あっていいはずかねぇッ! ざけんなクソッ!)
彼女は全てにおいて格下の子供を相手に、今まで経験した事のないような得体の知れない恐怖を感じていた。
「さらにもう一撃で――」
「テメェ調子に乗んなよクソがあああああああああああッ!」
追撃をしようとしてきたルッタの攻撃を紙一重でかわし、彼の脇腹に反撃の回し蹴りを食らわせるラヴェルナ。
「ごふっ!」
攻撃を受けたルッタの軽い身体は一瞬にして吹き飛び、その勢いのまま通路の壁にめり込んだ。
「ク、クククッ、アハハハハハッ! ざまぁ見ろクソガキィ!」
息も絶え絶えになりながら笑うラヴェルナ。
「い、痛すぎます……危うく死ぬところでした……!」
「なッ……!?」
しかし、ルッタにはあまり効いていなかった。とっさに自身の体を魔力で覆い、致命的なダメージを抑えたのだ。
「今ので木の枝も折れてしまいましたし、後は拳で戦うしかないようですね……!」
頭から血を流し、涙目になりながらファイティングポーズをとるルッタ。どうやら、痛めつけられてもなお彼の戦意は喪失していないようだった。
「雑魚が……まだアタシに勝てると思ってやがるのかよッ? 思い上がるのもいい加減にしやがれええええええええッ!」
ラヴェルナは半狂乱になって叫びながら間合いを詰め、両手の短剣でルッタの首元に斬りかかる。
「――火球ッ!」
だが次の瞬間、ルッタが魔法を詠唱し至近距離で爆発が起こった。
お互いの体が同時に吹き飛び、地面に転がる。
「ああああああああッ! うぐッ! ぐあああああッ!」
元々ダメージを受けていた腹部を爆炎で焼かれ、絶叫しながらのたうち回るラヴェルナ。暴発した火球の直撃を喰らった彼女は、激痛のあまり起き上がることができない。
「テメェっ、魔法までえぇぇッ――」
「げほっ……前より……上達してる気がしますっ!」
対するルッタは、少しだけ黒焦げになりながらも立っていた。
(こいつ……イカレてやがる……ッ!)
その姿を見て、ラヴェルナの心は完全に折れてしまう。
「うっ、があァァっ……!」
彼女の心は、もはや完全に恐怖で支配されていた。必死に地べたを這いずり、迫りくる悪魔から逃れようとする。
「ひ、ひぃぃ……!」
震えながら伸ばした右手に、子供の小さな両手がそっと触れる。
「捕まえたぁ!」
彼女が意識を失う寸前に目撃したものは、身の毛もよだつ狂気的な笑みを浮かべた悪魔の姿であった。
「僕は経験値を愛しているので……これは愛ある拳ですよね! 何も問題ありません!」
「意味わかんねェこと言ってんじゃねェ……ッ、このクソガキがあああああああああああああああああッ!」
――――ドゴッ、バキッ、ゴッ!
「勝ちました!」
戦いに勝利したルッタは、拳を高く突き上げてそう宣言する。
「さて、それでは早速ドロップアイテムを――」
言いながら、倒れているラヴェルナの持ち物を漁ろうとした次の瞬間。
「くらえ……双焔ッ!」
「あづッ?! ぎゃあああああああああああッ!」
うずくまっていたメルカの放った火魔法が、ラヴェルナの体を炎上させてしまう。
「あーーーーーーーーっ!?」
戦利品を失ったルッタの悲痛な叫びが、ダンジョン内に響き渡るのだった。




