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転生ゲーマーは無限レベルアップで成り上がる!  作者: おさない
第四章 目指せ無限レベルアップ
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第82話 恐るべきリリア姉さま!


 唐突に旅立ったルッタを見送る羽目になったルッタツーは、仕方なく屋敷へと戻ることにした。


「誰がヤツの言葉なぞ聞くものか……ッ!」


 そう呟きながら、他の人間と遭遇しないようにルッタの部屋へと向かうルッタツー。


 まだ僅かに反抗心が残っているようだ。


「いや待て」


 しかしその時、彼はふと立ち止まる。


「なぜ我が人間ども相手に隠れる必要がある……! 邪魔者は今、この場にはいないのだ……!」


 重大な事実に気づいたルッタツーは、一転して邪悪な笑みを浮かべた。


「そうだ! 手始めにこの家の人間を血祭りに上げてやろうッ! そうすれば、ヤツも絶望の表情を浮かべるに違いない……!」


 物騒なことを口走りながら向かったのは、リリアの部屋である。


「まずは、ヤツの姉からだ……! 簡単には殺さん……目玉をくり抜いた上で拷問し、最後はなぶり殺しにしてやる……!」


 意気込むルッタツーだったが、何故かドアノブに触れる寸前でぴたりと手を止めた。


(……あれの姉が……本当に普通の人間なのか?)


 そんな疑問が、彼の脳裏をよぎったからだ。


(……あれと当たり前のように関わっている上に……溺愛するような人間だぞ……? 他の家族や使用人だってそうだ……!)


 次の瞬間、ルッタツーの手は大きく震え始めた。


「な、なんだこれは……なぜ体が言うことを聞かん……ッ!?」


 やがて彼は立っていることすらままならなくなり、その場で腰を抜かしてしまう。


「な、何が起こっている……っ!?」


 冷や汗が頬を伝い、息が苦しくなる。


 彼はカチカチと歯を鳴らしながら、得体の知れない恐怖と戦っていた。


(分らない……人間のことが……何も分らないっ)


 ルッタツーにとって、人から向けられるありとあらゆる負の感情は、退屈を紛らわす愉快な音色でしかない。


(こわい……っ)


 そんな彼が最も恐れているのは、自身の理解が及ばないことである。


(こわい……こわいこわいこわいこわいこわい……っ)


 ルッタツーは、ルッタによって二度も恐怖を経験させられていた。


 一度目はルッタの体を乗っ取ろうとした時。この世界の全て――ゲームという理解の及ばない概念を頭に流し込まれ、彼は自身が神の手のひらで踊る哀れな道化であることを思い知った。


 二度目は奇妙な術で魂を引きずり出され、何度も殴られた時。ルッタツーにとって最も恐ろしかったのは、分身を殴るルッタの目が輝いていたことだ。彼にとって、ルッタツーなど退屈しのぎに手で潰す虫けらに過ぎないのだ。


(我は……我は初めから……取るに足らない虫けらでしかなかったのだ……っ!)

 

 ルッタツーは、もはや何も信じることが出来なくなっていた。


 口で何と言おうと、彼の心は完全に折れていたのである。


「うぁ、あ、ぁあぁあっ!」


 突然の恐怖に襲われたルッタツーは、這うようにしてその場を離れ、やっとの思いでルッタの部屋へと転がり込む。


「ひっ、えうっ、うううぅぅうっ!」


 そして、床にうずくまりながら嗚咽を漏らした。人を恐怖させる側の存在であったからこそ、自身が恐怖することには慣れていないのだ。


「うぐっ、ひぅっ、えうぅぅうっ!」


 ――しかし、彼は一番大切なことを忘れていた。


「ルッタちゃん……どうしたの?」


「うぇ……?」


 リリアは最近、弟を見守るという名目の元、ルッタの部屋のベッドで勝手に寝ているのである。


「もしかして、泣いているの……?」


 ゆっくりとベッドから起き上がり、心配そうな顔で近づいてくるリリア。


「う、ぅあ……っ!」


 あまりの恐怖に、ルッタツーはその場から動くことができない。


「かわいそうに……怖い夢を見たのね……」


 リリアは両手で優しく彼の頬を包み込み、指先でそっと目元の涙を拭い取る。


「うぁ……っ!」


「やっぱりあの時の……訓練場で閉じ込められてしまった時の夢かしら……?」


 その問いかけに対し、ルッタツーはゆっくりと頷いた。


「……気付いてあげられなくてごめんなさい。私やお母さまを心配させないように、今まで無理をして元気にしていたのね……」


 悲しそうな顔をしながら、ぎゅっとルッタツーのことを抱きしめるリリア。


 それは、初めて触れる人間の温かみであった。


「本当はルッタちゃんも……すごく怖かったわよね……っ!」


「こわ、かった……」


 気づくと、ルッタツーは素直な気持ちを口にしていた。


「ひっぐ、あんなことになるってっ……思ってなくてぇっ……」


 あんなことと言うのはもちろん、乗っ取ろうとしたルッタに発狂させられたことである。


「ルッタちゃんは何も悪くないわ……」


 訓練場に皆を誘ったことを気に病んでいるのだと思ったリリアは、そう言って慰める。


「こわかった……ごわがっだんだよおおぉおっ! うええええんっ!」


 その時、ルッタツーは初めて大声で泣いた。


「大丈夫……これからは私がついているわ……っ!」


「リリアっ……リリアねえさま……っ!」


 かくして、ルッタツーはあっさりとリリアに手懐けられてしまった。これがメインヒロインの力なのかもしれない。


(自分から甘えて来るなんて……今日のルッタちゃんは、なんだかいつもと違うわね……嬉しいけれど……)


 一方、リリアの頭の中は案外冷静であった。


(もしかして、また頭をぶつけたんじゃ……?)


 ルッタツーの頭を優しくなで回しながら、どこかにぶつけた形跡がないかを探る。


(たんこぶはないわね……。男の子は三日も会わなければ別人になる……みたいなことをとお父さまが言っていたけれど……一晩でこんなに変わるものかしら……? 何かがおかしいような気がするわ……!)


 果たして、ルッタツーはリリアの目を欺き続けることができるのだろうか。


「……ねえ、ルッタちゃんはルッタちゃんよね……?」


「へぅあっ?!」


 それは、彼の頑張りにかかっている。

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