第38話 鬼の屋敷でやってしまいました!?
「ユキマル様、しっかりつかまっているでござるっ!」
「すまない、オボロ……」
ユキマルを牢屋から救出することに成功したオボロは、力尽きて立てなくなってしまった彼を背負って来た道を走っていた。
「ふむふむ、なるほど……影に呪力の半分を注ぎ込んで、もう一人の自分を生み出すのですか。……ここに書かれている呪力というのは、魔力とほとんど同じようなものと考えて良さそうですね。結局のところ、どっちを消費してもMPが無くなりますし」
ルッタは手に入れたばかりの秘伝書を読みながら後に続く。
「もうすぐ上に出るでござるっ! 後はそこから屋根裏に入れば――!」
オボロは牢屋の階段を駆け上りながら言った。
しかし、肝心の蜘蛛蔵には――
「う、ァあァ……?」
「ガぁ、ああアぁッ……!?」
「アァああぁア……!」
三体の異形の鬼たちが集まって来ていた。
頭部に複数の眼を持つ鬼、鉤爪を生やした腕が四本ある鬼、縦に裂けた顎から無数の牙が突き出す鬼。
それらは異様な殺気を放ちながら、じっと土蜘蛛の残骸を見つめている。
そして、三体同時にオボロたちの方を見た。
「くっ……!」
「あれは……どうやら見つかってしまったみたいです! ミッション失敗ですね!」
遅れて階段を上ってきたルッタは、隣で冷や汗をかいているオボロに対しいつもの調子で話しかける。
「やはり、土蜘蛛との戦闘で騒がしくしすぎてしまったのでしょうか……?」
そんな分析をしつつ、明らかに殺気立っている鬼たちの方へ歩み寄っていくルッタ。
「気をつけろっ! そやつらは……長らく人を食わなかったことで形を保てなくなった異形の鬼たちだっ! もはや言葉すら通じぬぞッ!」
ユキマルは血相を変えて叫んだ。
「もちろん知っていますよ! だって、異形の鬼たちはこのダンジョンで特に経験値が多いレアモンスターですからねっ!」
しかし、振り返ったルッタの目はキラキラと輝いていた。
「……え?」
「るっ太はいつもあんな感じでござる……」
何故楽しそうなのか理解できず困惑するユキマルに対し、オボロはそんな説明をする。
「――ここは僕に任せてください! ボス戦前の軽いウォーミングアップというやつです!」
赤蔵と鱗之助戦を見据えている彼は、そう言って鬼たちの方へ向き直る。
そして――
「忍法・分身の術!」
掌印を結びながら、そう口にするのだった。
「なっ……!」
次の瞬間、彼の隣に白煙が立ち昇り、そこからもう一人のルッタが出現する。
「「できましたっ!」」
ルッタたちは声を揃えて喜んだ。
「せ、拙者の努力が……一瞬で……っ!」
秘伝書とやらを読んだだけで容易く分身の術を成功され、言葉を失うオボロ。
「……あまり気を落とすな。オボロはよくやっているぞ」
「ユキマル様……っ!」
――しかし、忍術も魔術も本質的にはそれほど差がないため、原作知識があるルッタは原理さえ理解すれば再現できてしまうのである。
「経験値ですかっ!?」
「経験値ですよっ!」
「「やったーーーー!」」
そう言ってお互いにハイタッチするルッタとその分身。
「あれで……会話が成立しているのか……?」
「や、やかましいのが増えたでござる……」
ユキマルとオボロは、ひたすら呆気に取られていた。
「「酷いですよ、オボロっ!!」」
鬼たちと一触即発の状態であるというのに、ルッタたちにはまるで緊張感がない。
「ぐ、グオオオオオォッ!」
すると、痺れを切らした異形の鬼たちが雄叫びを上げ、一斉にルッタとその分身へ襲いかかってきた。
「危ないでござ――――」
「「炎弾ッ!」」
刹那、ルッタは異形の鬼たちに向かって二方向から連続で火の弾を撃ち出した。
「ガァアアアアァァアアッ!?」
魔法は鬼たちに着弾する度に激しく爆発し、辺り一面に火花が飛び散る。
(これは……やりすぎると処理落ちしてしまいそうですっ!)
(花火みたいで綺麗ですね! お気に入りの魔法かもしれません!)
どうやら、ルッタと分身体は必ずしも同じことを考えるわけではないらしい。
「グッ、ギャァアアアアアアッ!」
そうして、二方向からひたすら魔法で焼かれ続けた鬼たちは、跡形もなく消え去ってしまったのだった。
「「レベルアップですっ!!」」
一瞬にして戦闘を終え、嬉しそうに宣言するルッタ。
(どうやら、分身すると経験値の取得効率がさらに良くなるみたいですねっ! これは原作にない仕様です! ゲームバランスが崩れてしまいますよっ!?)
どうやら、彼はこの世界のシステムに関する新発見をしたようだ。
もっとも、本当にそれが正しいのかどうかは不明だが。
「戦闘終了です! 探索の続きをしましょう!」
鬼を討伐し終えたルッタは、分身を元に戻してオボロの方へ向き直る。
「おっと……」
同時に少しだけふらついた。
……どうやら、分身の記憶と疲労は消した瞬間に共有されるようだ。
「……おや、二人ともどうしたのですか?」
敵を倒したというのに、ユキマルとオボロはまん丸と目を見開いたままだ。
「う、上を見るでござる……っ!」
「うえ……?」
そう言われたルッタは、オボロが指さす方を見上げる。
すると、天井が激しく炎上していた。
「…………!」
ルッタは笑顔のままそれを二度見する。
「……やってしまいましたっ!?」
そして叫んだ。
どうやら、ルッタが放った火魔法が屋敷に燃え移ってしまったようだ。
「や、屋根裏が使えなくなってしまったでござるっ! ど、どうすれば……」
あたふたするオボロ。
「えーと、えーとっ……おお! アステルリンクがありました! これを使って外まで逃げましょう!」
ルッタはここに来て超古代端末の存在を思い出し、懐から取り出して言った。
「あ、あすてる……?」
「二人とも僕の近くに集まってください!」
「わかったでござるっ!」
他に良い案もないので、訳もわからぬままルッタのそばへ駆け寄るオボロ。
「脱出です……!」
幸いにも鬼幻楼には転移を阻害する要素がなかったらしく、程なくして彼らの体は光に包まれて消え去る。
かくして、三人は無事に屋敷の外へ脱出することに成功したのだった。
――何も知らない赤蔵や鱗之助たちを、最奥の広間に残したまま。




