第九話 決戦準備
少し短い内容となってしまったので、本日は連続投稿です。
そして更に 新たなブックマークを一件頂きました!!
付けて下さった方、誠に有難う御座います。お礼に明日も連続投稿致しますので、どうか楽しんで頂けると嬉しいです。
「なあ旦那、旦那ってば!! いい加減起きねえのかよ。もう日はとっくに登ってるぜ」
この灰河町に迫っている危機を聞かされた翌日の朝。いつまで経っても一向に起きる気配のない雅に痺れ切らした千賀丸が、彼の身体を揺すり声を掛ける。
すると閉じていた両目が僅かに開いた。
「………………ん″ん? 誰じゃお前?」
「千賀丸だよ!! もういい加減覚えてるだろうによ、 全く意地悪な旦那だぜッ」
「知らん…。ワシの眠りを邪魔するな、斬り…殺すぞッ」
「良くそんな物騒な事あくびするみたいに言えるな」
口では意地悪を言い続けているが、寝起きで斬り付けられなく成っただけ彼も慣れたのだろう。雅は千賀丸が上げた明り取りより入ってくる光から逃げるように畳の上を這い、腕で目を隠す。
その背を丸め部屋隅で小さくなる姿には、あの夜の血に塗れ刃を振るう鬼気はもう影も形もなかった。馬鹿デカい猫みたいである。
「眠りの邪魔するなって……もう町の皆は仕事始めてるぜ? 群が来る前に村を囲う板壁とか堀を完成させなきゃいけねえんだと」
「それがどうした…勝手にやらせておけば良い。此処はワシの町じゃない」
「別に暇で寝てる位なら手伝ってやっても良いだろ。それとも若しかして、雷峰と戦った傷がまだ痛むのか?」
「傷ならとっくに治っとるわ。ふあぁぁ………あの程度の輩に床へ伏させられる程柔ではない。ワシが寝ておるのは、ただ単に…無償の人助けなどせんと心に誓っておるからじゃ」
雅はそう言って頭に巻かれた包帯を外し投げ捨てた。
彼といい雷峰といい、本当に人間か疑わしくなる程の頑丈さと回復速度である。獄門衆は元々身体が頑丈に出来ているらしいが、二人は明らかに千賀丸自身と比べて物が違う。
一体どうやってこの戦い専用に作られたかの如き肉体を手に入れたのか。
その事も気になったが、この調子では何を言っても碌な返答は貰えそうにない。
「じゃあもうオイラ知んねえからな。外出てくるから、寂しくてベソ掻くんじゃらねえぞッ」
「………………………………………………待て」
共に連れ出すことを諦め、最後に冗談で言った言葉。当然無視されると思っていたそれに まさか雅が反応した事で、逆に千賀丸の方が驚かされる。
やっはり旦那といえど狭い部屋に一人置いていかれるのは寂しいのだろうか。
そう思って振り返ると、部屋の隅で丸まっていた雅が懐から何やら紙らしき物を取り出したのだ。
「これをあの能面ジジイに渡して、準備しておく様に言え……」
雅はそう言って千賀丸が居るのとは全く別方向へとその紙を放り、再び寝息を立て始めたのである。
それはずっと懐に入れていたらしく、ちり紙の如くにグシャグシャ。しかし拾ってみるとどうやら手紙の様である。
恐らく群を迎え撃つ上で、なにか事前に伝えておく必要のある事が書かれているのであろう。
少年はそのぐらい自分で届けろよとも思ったが、思うのみに留める。
そうして二人で借りるには手狭な宿から飛び出し、千賀丸はなにか自分でも出来る仕事を探しに外へと出掛けたのであった。




