第八話 再戦の条件②
なんと、またまた新たなブックマークを付けて頂きました!!
付けて下さった方、誠に有難う御座います。
そしてお礼として、明日も連続更新させて頂きます!
精一杯書きますので、どうか楽しんで頂けると嬉しいです。
「………………………………」
雅の目が、パチリと開いた。
そして網膜に結ばれたのは見慣れぬ天井。何らや周囲からは話し声らしき音が聞こえ、微かに甘い香りが鼻をくすぐる気がした。
「………………………………」
直後 彼は自分が今何処に居るのか、何が起こっているのか、如何にして今この現状に繋がっているのかが分からない事に気付く。
漠然とした焦燥感。故に何故かジンジンと痛む眉間に力を込め、雅は自らの時系列を辿る。
そうして、夜明け直後 翁面を付けた老人の突きを受けてから記憶が途切れている事に気が付いた。
「…………………………………………ッ″!!」
その断じて受け入れられぬ事実に辿り着いてしまった結果、雅の目付きが変わる。直後、彼は激情に突き動かされるがまま 枕元の刀を抜き暴れ出そうとした。
がしかし、その脳が発する指令にも関わらず、彼の身体はまるで一本の棒に成ってしまったかの様に固まって自由に動かせない。
「 ッウガアアア″ア″ア″ア″!!!!」
ダ″アンッ!!!!
それでも 雅はまるでエビか何かの如くに体幹筋だけを使って宙に跳ね上がる。そして其処で、彼は自分が縄でグルグル巻きに縛られているという事に気付いた。
「おお、起きよったかの」
「うわぁッ、旦那飛んでるぅ!?」
「寝起きそうそう騒がしい野郎だな。額に響きやがるぜ…」
「縛っておいて良かったわ。この調子で刀を振り回されてたら店が大変な事になってた」
唐突に跳ね上がった彼へ、幾つかの耳覚えがある驚きの声が上がった。
それに雅は石火散らす速度で声の方向へと視線を向ける。すると声の主と思しき四つの人影の内に、彼を気絶させた張本人 翁の姿を発見したのだ。
「…………ッ″!! ガ″#″☆″〆″*″も″^″g°″7″ゾ″ッ″>″$″D″″″!!!!!」
ドタンッ! ドタンッ! ドタンッ! ドタンッ!!
翁の姿を見た瞬間、雅は聞き取り不能の奇声を上げさらに激しく暴れ始めた。
その暴れっぷりは最早そうやって動く生き物なのではないかという勢い。身体を高速で左右に振り、上下には天井まで届くのではという程に跳ね上がる。
「ちょっとッ、何コイツ獣かなんか!?!? 縄で縛ってても店壊しそうじゃないの!!」
「旦那止めてくれッ!! 姉ちゃんの茶屋が壊れちまう、アンタの怪我も軽傷じゃねえんだぞ!」
雅の想定しろという方が無理な大暴れに照姫が動揺した声を上げる。
千賀丸は彼女と雅自身の身体も気遣い、どうにか落ち着いてくれるよう説得を試みた。
「 ウウッガ″″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″ア″!!!! 」
しかし、当の本人は自分を負かした相手以外眼中にも入っていないらしい。このままでは本当に戸を破り 柱を折り 建物を破壊しかねないという勢いであった。
「よっこいしょっと」
ドスン″!!!!
「ガ″″ア″ア″ア″ア″……………ゥ′′ゲエッ! 」
だが、そんな奇声を上げて跳ね回る謎の生物へと 頭部に包帯巻いた大男が透かさず動く。
彼は見た目に似合わぬ過敏さで 簀巻きにされたまま暴れる雅をケツで押し潰し、容易く床へと封じ込めてみせたのである。
「 お、お前はッ………………………」
「よう侍、オレ達本気で殺し合ったってのにそう言えばお互いの名も知らねえな。 どうだい、今から自己紹介でもしてみるかッ?」
この場において唯一雅に力で対抗できる存在。その大男 雷峰は自らの額を叩き割ってくれた宿敵を座布団にし、冗談めかして上から言った。
なんと頭蓋骨の内部にまで達するほどの傷を受けていながら、彼は雅より先に意識を取り戻し 何事も無かったかの如く喋り動いていたのである。
この男も、大概不死身の化物であった。
そうして等々動きを完全に封じられてしまい、ようやく雅に会話ができるだけの理性が戻ってくる。
「クソがッ、やはり殺し損ねておったか。奴らの邪魔さえ入らなければ……」
「ガハハッ、運も実力の内ってやつだ。まあオレの方が早く目を覚ました訳だし、昨晩の件に関しては引き分けって事にしといてやるよ」
「あ″″ぁ″ん? 引き分けじゃとッ ふざけるな!!!! ワシの勝ち、紛うこと無きワシの勝ちじゃ。そもそもッ何故勝者のワシが縄で縛られ敗者のお前が自由にしておるのだ! ケツ退けろデブッ!! この縄を解けェッ!!!!」
「何故ってそりゃあ…オレがお前より紳士的で話の分かる良い男だからさ。ね、そうでしょうお嬢さんッ?」
勝者である自分だけが縛られ、敗者が自由に動いている事に不満気な雅。
そんな彼の恨みがましい叫びを軽く受け流し、雷峰は雅が目を覚ましてからずっと顔を顰めている照姫の方へと話を振った。
「……アンタの方がまだ問答無用で暴れないだけ猿より人間に近いってだけよ。男としてはどっちも底辺」
雷峰のフリに、照姫はとても人へ向ける物ではない視線でかなり冷たい反応を返した。
「ハッハッハッ、ひでえ言われようですな。男の器なんて一晩共にしてみねえと分かりませんぜお嬢さん? どうです、今晩ゆっくりお教えしましょうか??」
「何″ッ、ワシがこの鈍間な相撲取りと同じじゃと!?!? 取り消せ女! 勝ったのはワシじゃ、ワシの方が上じゃ!! この縄を解け! 斬り殺すぞッ!!」
世が世ならセクハラとして訴えられる事を呼吸するかの如く口にする雷峰。そして雅は依然一貫して戦いの勝ち負けに拘り続けている。
そんな遣り取りだけで、照姫が発した一見辛辣に思える発言が実は何一つ間違ってはいない事を示していた。
「おい侍、もう夜は明けたんだから良い加減どっちが上とか下とかは良いじゃねえか」
「良い訳があるか馬鹿力士。あれは間違いなくワシの勝ちじゃった」
「でもんな事言ったら、お前さんだって負けた事には変わりねえだろ? 昨日の夜に勝者が居るとしたら…それはあの方だけだろうよ」
雷峰はそう言って、部屋の奥を顎で指す。雅は何と無しにその方向へと首を振った。
そしてどうやら、彼は戦闘中と平時で大分頭のキレ具合に差があるらしい。雅はその方向を見るまで、つい先程自分が一体何に叫び散らしていたのかを忘れていたのだ。
眠ってしまったのではと思う程静かに若者達を見守っていた翁へ、一転烈火のごとき理不尽な激情の矛先が向く。
「………………………… ジ′′ジ′′イ′′ ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! !
貴様表へ出ろッ まだ決着は付いとらんぞ!! 今直ぐ叩き斬って刀の錆びにしてやるからのおォ″!!!!!!」
失神し身体を縄でグルグルに縛られておきながら、何と雅はまだ決着は付いていないと大声で宣って見せたのである。
此処まで来ると最早清々しいレベルな負け犬の遠吠え。その場の全員、同じ穴の狢である筈の雷峰ですら引いて白目の増えた視線を雅に向ける。
すると、 そんなキャンキャン声との対比により余計落ち着いて聞こえる声で、 老人はこう血気盛んな若者へと告げたのであった。
「 諦めなされ。お主は、負けたのじゃよ 」
「 ッ″! なん…だとッ!!」
余りにピシャリと言い切られた事実。
それに雅はまるで頭を棒で殴り付けられた様な気分となり、珍しく返答を言い淀んでしまった。
「お主に言わせれば僅かな油断を突かれた事故のような出来事に過ぎぬかのも知れん。だが事実こうして縄で簀巻きにされ、生も殺も赤の他人に握られておる。 …これを、負けたと呼ばずしてなんと言う」
「ッ グゥ…!」
「果し合いに敗れ、それを認めぬは敗北以上の生き恥じゃ。負けは再戦し改めて勝利すれば塗り替える事が出来る。先ずは認めぬ事には何も始まらぬじゃろう」
「……………………」
それは宛らこの世の絶対真理を語っているかの如き重い口振り。落ち着いていて決して大きくは無いにも関わらず やたらと耳に入ってくる声。
それに雅は、まるで叱られる子供の様になにも反論できなく成る。
そうして、あれ程拒絶していた筈の敗北という事実を、彼は遂に呑み込んでしまったのであった。
「…この際、今回の負けだけは認めてやるわ。だからもう一度ワシとたたかッ」
「じゃが残念な事に、ワシは今用事が立て込んでおってのう。生憎お主に付き合ってやる暇が無い」
「なッ!? ジジイ貴様、まさか勝ち逃げするつもりか。卑怯じゃぞ!」
「ホッホッホッ、何とでも言いなされ。所詮負け犬の遠吠えじゃわい。………じゃがまあ、用事も永遠続く訳なし。それに若しもお主に貸しが出来たなら、再戦の要求を拒む訳にもいかなく成るのう」
「何じゃ、妙に回りくどい言い方をする。 取引か?」
「おお、其方から切り出して貰えるとは話が早い。まあ単刀直入に言えばその通り、お主と再戦を条件にちょっとした取引がしたいのじゃ」
「…………………………内容を言え。それからじゃ」
一度負けた以上、正々堂々相手の準備が整った上での再戦で無ければ汚名を濯ぐことは出来ない。それ故こちらもある程度は協調し、場を整える必要がある。
そう判断した雅のスレートな問いに、翁も不必要な探り合いを省き取引の内容を明かした。
「 此処、灰河町に獄卒の群が迫ってきておりまする。その群から町を守る戦力として、どうか貴殿の剣の腕前を我々にお貸し頂きたい 」
それは、雅ですら耳を疑う様な内容であった。
さながら迫る津波を止めてくれと依頼されている様な。近づく大嵐を曲げてくれと頼まれている様な。落ちる隕石を受け止めてくれと言われている様な話。
『群』という名の無間地獄における自然災害。
それにこの老人は、愚かにも卑小な人の身で抗わんとしていたのであった。
お読み頂き有難うございます。
もし楽しんで頂けましたら、『ブックマーク』と『評価』等々を宜しくお願いします。そしてそれらを一つでも頂けましたら、明日も新しいエピソードを追加させて頂こうと思います。
そして少しでも小説の技量を上げたいと思っておりますので、感想なアドバイスなどを頂けると嬉しいです。
何卒応援のほど、宜しくお願い申し上げます




