第七話 夜明け②
なんと新たなブックマークを頂きました!!
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ッガギィン!!
薙刀が刀を弾き上げ、互いに押し合う膠着状態を解いた。
突如 雷峰と入れ替わるが如く現れた新手。
その狐面を付けた人影は闇に浮かぶ細い輪郭から女だと思われるが、雅の斬撃を受け止めたという事は中々の怪力である。
恐らく獄門衆であろう。そう認識した雅は、何ら迷いなく狐女へと切っ先を向けた。
「聞こえなかったか、お前は何者じゃ。ワシの獲物を何処にやった」
「……………………………」
切っ先と共に突き付けられた質問、だがそれでも狐女は一言さえ発しはしない。
その反応に雅は血で髪が張り付いた側頭部をグチャグチャと掻き毟り、更に脅迫を一歩前へと進めた。
「幸い…ワシは今頭を殴られ過ぎてタカが外れとる。女を斬り殺そうとも何ら罪悪感は感じなさそうじゃ。 良かった、本当に良かったわい″ッ 」
「……………………………」
冗談めかして、しかしとても冗談で言っているとは思えぬギラギラとした目から発される脅迫。同時に、雅はその手へ握った刀をゆっくりと振り上げ始めた。
だがそれを前にしてもやはり、狐女は口が付いていないかの如く何も喋らないまま。
そうしてとうとう、雅は凡ゆる感情を排した声で、こう告げたのであった。
「 最後にもう一度だけ聞くぞ。ワシの獲物を何処にやった? 」
ッ ダ″″″ァン!!!!!!!!!
相手からの返答は望めない。そう分かるや否や、雅は躊躇なく地を蹴り 敵へと斬り込んだ。
その動きは とても一晩中戦い抜いた後だとは思えない。
……………スウォオンッ!!!!
だが、 相手の方もやる気らいし。
狐女は真正面から突っ込んできた敵の進路を遮るように薙刀を払い、巨大な円弧描いて無謀な突進を咎めてくる。
それを受け 雅は自らの歩みにブレーキを掛けた。
上体を反らし 薙ぎ払いを回避。
フウォン″ッ!! フウォッ!! フウォン″!!フォオン″!!
だが、この夜の勝者に回避を選ばせた狐女は、そこから更に勢いを増し攻撃を加速させてゆく。
その薙刀使いは演舞の如く優美かつ鋭利。とても長物を扱っていると思えぬ速度で空中を刃が跳ね回り、雅へと斬撃の波は止めどなく果てしなく押し寄せてゆく。
切っ先が描き出す滑らかな残像は、それを前にする者へ風で舞い上げられる桜吹雪の幻影を見せ、今際の刹那にすら魅了するのであった。
とても反撃を挟む余地など無い。
一度後手に回れば死ぬまで抜け出せぬ死の桜吹雪。それに流石の雅も防戦一方で削られて…………………
……………・・・・・・・ ・ ・ ・
切間なく空間を埋め尽くす薙刀の煌めき。しかしそんな舞い落ちる桜の花弁達が、突如ピタリのその動きを止めた。
桜吹雪の中に己の身一つがギリギリ通り抜けられる隙間を見た雅が、業『天地孤独』を使用。時間を停止させたのである。
そして止まった時の中、 桜吹雪の隙間が閉じる前にそこを弾丸が如く全身で貫き、 そのまま狐女の首を鷲掴みに後方の土壁へと叩き付けるという動きを作った。
業を解除。
時が再び動き出す。
・ ・ ・ ・・・・・・・………………………………………ッ ズ″″ドォン! ! ! ! ! ! ! !!!
結果、雅の頭で描いた通りの未来がそのまま訪れる事となった。
突進は僅かな隙間を抉じ開け突破し、敵を一瞬の内に無力化してみせたのだ。
そして得物を振うまでも無いと言わんが如く、壁に叩き付けられた狐女の細首を 雅は締め上げてゆく。
「グ″ッ、ゥウ…ッ″」
「こんな夜明け寸前までコソコソ隠れようやく姿を表すとは。大凡、手負いの相手なら容易く漁夫の利を得られるとでも思っておったんじゃろう。 嘗めるなよ女。ワシは例え死に掛けだろうが…貴様程度の首をへし折るなど造作もないぞ″ッ」
雅はそう言って、手に込める力を一段上げた。
するとその瞬間気道が完全に塞がり、血流が阻害されて、急速に狐女の視界から色が抜け落ち始める。
更にあと少し力を込められれば命を失うことに成ると頸椎の悲鳴が教え、手も足も出ない力の差という物をこれ以上無いほど絶望的に彼女へと突き付けた。
そうしてその上で、雅は改めて相手にこう問うたのである。
「 あの大男を何処へやった 」
「……………………………そこ、にッ」
呼吸を封じられた狐女は意識を持って行かれないよう堪えながら、ようやく口を開き 地面の一箇所を指差した。
雅がその方向を見る。するとそこは、先程彼が刀を振り下ろさんとしていた 獲物の姿が忽然と消えた場所。
がしかし何と、記憶していたのと全く同じ位置 同じ体勢で、雷峰の身体が其処に転がっていたのだ。
それは宛らこの身体はずっと此処に有って、雅の方が見間違いをしていたかの如くに。
「 チッ、気色の悪い業じゃのう」
その狐に摘ままれたかの如き奇妙な現象が業による物だと察した雅は、忌々しげに狐女を睨む。
だが急激にこの女へ対する興味が失せてきた彼は無造作に手を離し、背に咳き込む声を聞きながらお預け喰らっていた獲物へと近付いてゆく。
「……ゲホッ、ケホッ、ゴホッ!!」
「 だ、大丈夫かッ。あんた…茶屋の姉ちゃんだろ? 何でこんな所に居るんだよ??」
ひどく咳き込む狐女へ、蹴り飛ばされて転び頭に出来たコブを擦りながら千賀丸が話し掛けた。
顔は面で隠されているが、その姿と纏っている雰囲気から少年は彼女が日中団子をオマケしてくれた茶屋の女性 照姫だと分かったのである。
「……フフッ、よく分かったわね。細かい事に 気付ける男は大人に成ったらモテるわよ。ケホッ、 私はッ大丈夫だから心配しないで 」
「そっか、でも姉ちゃんはもう動かねえ方が良いな。こう成ったらオイラが旦那を止めねえとッ」
「だめ、危ないから貴方はこっちに居なさい。もう充分良くやったわ」
「な、何言ってんだよッ! まだ雷峰が…」
「大丈夫。私はあんまり強くないんだけど、貴方と二人でなんとか時間は稼げたみたいね……後は全て任せましょう。 あのお方は、 本当に強いから」
そう言って、 照姫は東の地平線より遂に溢れた光を眩しげに眺める。
そしてその中には、まるで唯一人夜に取り残されているかの如き黒い人影と、その前へ音もなく現れた白髪をキラキラを輝かせる老人の姿が。
「 次から次へと…………何の用じゃジジイ″ッ!! 」
「 お侍さま、もうその刀を納めてはくれんかのう? 時間切れじゃ、この町では日中の殺し合いは禁止されておりまする 」
雅の前へ又しても立ちはだかった人影、 翁が昨日彼らが町へ入った時と同じ事を嗄れた声で言った。
「禁止されとる、から何じゃ? ワシをこんな寂れた町の規則で縛れると思ったら大間違いじゃぞ。何処の誰が決めたとも知れぬ規則より己の規則が優先じゃッ!! ワシは一度殺すと決めた者は何があっても殺す″…そうと決めとる」
「それは困りましたの。こちらとしては貴方様の規則よりも町の規則を優先せねば成りませぬ。日中の通りで得物抜き暴れる者を見付けた場合は、見た者が一番に止めねば成らないという規則を」
「……フッ、フハハハハッ!! ジジイ、お前若しやワシとやるつもりか? その刀で? 辞めておけッ もう遠くない納棺の日付が前倒されるだけじゃぞ」
百戦錬磨の人斬りが発する圧。しかしそれを前に翁は全く動じない。
それどころか老人が腰にぶら下げた木刀を抜いたのを見て、雅は思わず吹き出してしまったのである。
彼に言わせれば木刀などそこらに落ちている木の枝と何ら変わりない。容易く切断され、一太刀とまともに受ける事は叶わないであろう。
しかしそんな彼の忠告を無視して、意外にも老人は綺麗な構えを作る。
「クックックッ…ご忠告感謝いたす。しかし心配は無用。こんな寂れた町の治安維持程度、この棒切れ一本で事足りるわいッ」
「……それは、ワシの相手がその木刀で充分という意味か? 後悔する事になるぞ 耄碌ジジイ″!!!!!!」
脅威だとすら思っていなかった相手より飛んできた思わぬ挑発に、元々器の大きな方では無い雅は直ぐにカチンッとくる。そしてその言葉を訂正させんと自らも構え、陽光背にする老人へと刃を向けた。
互いに戦士の本能でもう戦いは避けられぬと察する。
故にそれ以上の言葉なく 次の瞬間、 刃振るう鋭音が早朝の大気を斬り裂いたのであった。
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