↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/52

第六話 地獄大横綱 雷峰⑦

投稿が遅れてしまい申し訳ありません。急に内容が満足いかなくなり、修正していると二日掛かってしまいました。


お詫びとして、明日と明後日は連続投稿します。

(またこの構え。上段と見せかけて刃翻(ひるがえ)し別の場所を………いやッ )


 腹に負った深手《ふかで》の出血《しゅっけつ》が止《と》まり、再び地《ち》を蹴《け》り抜《ぬ》き衝突へと向かう雷峰《らいほう》。彼は前方より刀《かたな》を頭上《ずじょう》へ振《ふ》りかぶり向かってくる雅《みやび》の姿を見て、その顔に含《ふく》みの有《あ》る表情《ひょうじょう》を作ったのだ。


 如何やったかは分《わ》からぬが、敵は彼に致命傷《ちめいしょう》を与《あた》える術《すべ》を見付けたらしい。だがそれでも腹の柔《やわ》らかな箇所《かしょ》を狙《ねら》ってきた点から、その術《すべ》という物を使っても骨《ほね》を断《た》つことは不可能《ふかのう》だと推測できる。

 ならば次狙(ねら)ってくるのも同じく腹《はら》か、目《め》か、太腿《ふともも》かといった所であろう。


 雷峰《らいほう》はそう考えて、一切の迷い無く上段《じょうだん》へ対する警戒《けいかい》を外《はず》しかけた。


(まさか、また真《ま》っ向《こう》勝負《しょうぶ》する気か? 確実に通用する手段を投げ出してまでッ″)


 しかし、そんな論理的に考えて搦《から》め手《て》を用いる以外有(あ)り得《え》ない筈の男《おとこ》、その瞳《ひとみ》に 彼は見覚《みおぼ》えがあったのである。

 それは嘗《かつ》て幾人か相手にした勇敢《ゆうかん》な力士《りきし》達と同じ瞳《ひとみ》。生前《せいぜん》から既に圧倒的《あっとうてき》な存在《そんざい》であった雷峰、しかしそれを重々承知の上で真《ま》っ向《こう》勝負《しょうぶ》を挑んできた勇者《ゆうしゃ》達と同《おな》じ瞳《ひとみ》だったのだ。


 雷峰には、雅《みやび》が今再(ふたた)び自らの眉間《みけん》へと一撃を叩《たた》き込《こ》まんとしている様に見《み》えたのである。


( 良いぜ、勝負してやる。お互い逃げも隠れもしねえ真剣勝負だ!!)


 そして、その自らの思《おも》い込《こ》みやも知《し》れぬ敵からのメッセージに、雷峰は己の命運《めいうん》賭《か》ける事を決めた。

 此処でもし敵《てき》が再び腹《はら》を斬《き》ってきたなら、何の抵抗も出来ず深傷《ふかで》を負《お》う。だがそれでも、この根拠《こんきょ》の無《な》い確信《かくしん》へ従う事に そのリスクを背負《せお》うに充分値(あたい)する価値《かち》を感じたのだ。


 雷峰《らいほう》は両腕を下げ頭《あたま》を突《つ》き出《だ》し、迫る雅の刃《やいば》を迎《むか》え討《う》つ。



(……面白い、そちらも乗って来るかッ )


 そして、自らの思惑《おもわく》を察《さっ》したらしい敵の様子《ようす》を見て、愚《おろ》かな剣士《けんし》は内心そう呟《つぶや》く。


 この時点で、雅《みやび》の攻撃が雷峰の額《ひたい》を突破《とっぱ》する見込《みこ》みは全く存在《そんざい》していなかった。彼が夢の中で思い出した筋肉《きんにく》の隙間《すきま》通す斬撃《ざんげき》も、全体が固い頭蓋骨《ずがいこつ》に覆《おお》われた頭部《とうぶ》に対しては意味《いみ》を成《な》さない。

 第一、彼の業『天地《てんち》孤独《こどく》』を用《もち》い全てポテンシャルを引き出し放った攻撃《こうげき》でさえ弾《はじ》き返《かえ》されるという結果《けっか》が既に出ているのだから。


 しかし、それを十二分に理解《りかい》した上《うえ》で、雅はそんな零《ぜろ》に限りなく近い可能性《かのうせい》へと刃《やいば》を振《ふ》り下《お》ろすのである。



 彼が夢の中で思《おも》い出《だ》したのは、何も少ない力で敵《てき》を斬《き》る方法《ほうほう》だけではないのだ。

 むしろ目《め》と臓物《ぞうもつ》と指《ゆび》を代償として掴《つか》み取《と》った物《もの》、その中で最も価値《かち》ある宝《たから》は又別(べつ)にあった。


 それは己の限《かぎ》りを取り払うという事。

 例え理性《りせい》が行動《こうどう》を無意味だと否定《ひてい》する根拠《こんきょ》を列挙してこようともそれを意《い》に介《かい》さぬ精神力。そして僅かな疑念《ぎねん》すら無《な》く己の求める未来《みらい》を描《えが》き出《だ》す想像力。

 それらを持つ者だけが、可能《かのう》という範疇《はんちゅう》を飛び越え不可能《ふかのう》を自らの元へと叩き落とし現実《げんじつ》とする事が出来る。


 そして、『天地孤独』は所詮可能(かのう)という範疇内での最大《さいだい》に過ぎない。業《ごう》を発動《はつどう》した瞬間、その時点《じてん》で己が持っていた能力《のうりょく》の最大値《さいだいち》しか発揮する事はできないのだ。


 故に 雅が最大値《さいだいち》を塗《ぬ》り替《か》える得る方法《ほうほう》は唯一つ。

 今よりこの一撃《いちげき》が敵を捉《とら》えるまでの刹那《せつな》、 刃一振りの内に彼が剣士《けんし》として殻《から》を破《やぶ》った場合のみ。





「………」




 敵《てき》の直ぐ前方《ぜんぽう》で、雅は両目《りょうめ》を閉《と》ざし静かに息《いき》を吸込《すいこ》んだ。


 真《ま》っ暗《くら》な世界、意識《いしき》で己の輪郭《りんかく》をなぞる。平常時はボンヤリと霞《かすみ》の如くである肉体《にくたい》に対するイメージを研《と》ぎ澄《す》まし、頭の天辺《てっぺん》から脚の爪先《つまさき》 毛髪《もうはつ》一本一本 体内《たいない》に敷き詰められた臓物《ぞうもつ》 それらを構成《こうせい》する細胞《さいぼう》に至るまで実際の身体《からだ》と認識《にんしき》のズレを埋《う》めてゆく。

 そうして瞼閉ざし暗闇《くらやみ》の中《なか》で正確に己《おのれ》を描《えが》き出《だ》した頃には、自然と集中《しゅうちゅう》の糸《いと》が限界まで張《は》り詰《つ》められ、肉体に備わった凡《あら》ゆる機能《きのう》が意識と接続《せつぞく》していた。


あとは、 その自分を構成している三十七《さんじゅうなな》兆《ちょう》の細胞《さいぼう》全てに対して、 たった一つの指令《しれい》を与《あた》えてやるのみ。

 我が道遮(さえぎ)る物《もの》を 斬《き》って払《はら》えと。



………………ダ″ァ″ッ!!!!!!



 目《め》が開《ひら》く、一際強く大地《だいち》が蹴《け》り込《こ》まれる。


 脳《のう》より下された不純物《ふじゅんぶつ》のない純粋な命令《めいれい》。

 それに対して肉体《にくたい》は、残っていた全ての薪《まき》を炉《ろ》に配《く》べて 限界《げんかい》を超《こ》えた力《ちから》を出力し動いてゆく。


 心臓《しんぞう》は破れる寸前まで拍動《はくどう》を加速《かそく》。肺《はい》より取り入れられた酸素《さんそ》を凄まじい勢いで全身《ぜんしん》へと送《おく》り出《だ》し、それを受けた筋肉《きんにく》は細胞に蓄えられたエネルギーを刹那《せつな》の内に爆発《ばつはつ》させた。

 その結果、身体《からだ》を包《つつ》み込《こ》んだ息が詰まるほどの熱気《ねっき》と速度《そくど》。さながら鬼《おに》の如く皮膚を紅潮《こうちょう》させ血管を浮《う》かび上《あ》がらせて、雅は己の得物《えもの》をありったけの力《ちから》で握《にぎ》りしめる。


(勝つのは、ワシじゃあ″あ″あ″あ″あ″″ッ!!!!)


 そして最後 此処で必《かなら》ず仕留《しと》めるという気《き》を込め、

 刀は速度《そくど》と質量《しつりょう》へ更に信念《しんねん》を乗せて、

 敵の額《ひたい》へと糸引かれる様に振《ふ》り下《お》ろされたのである。

 





ッハ° ズ″″ゥウウ″ウ″″ン″″″!!!!!!!!!!!!!!!!!





 それは、 人《ひと》の倍《ばい》では足りぬ時を生《い》きてきた雅でも聞《き》いた事《こと》が無《な》い音《おと》であった。

 内側が液体《えきたい》で満たされた超硬質《ちょうこうしつ》なドーム状の物体《ぶったい》が、巨大《きょだい》な瞬間的圧力(あつりょく)によって変形《へんけい》させられた音である。

 

月明かりで宙《ちゅう》に白銀の大円《たいえん》描《えが》いた斬撃《ざんげき》 。

それはその一振《ひとふ》りが内《うち》に己の殻《から》を破《やぶ》り、雷峰の眉間《みけん》をベコリッと陥没《かんぼつ》させてみせたのであった。



( 勝った。勝ったぞッ、まさか此処まで深傷《ふかで》を負うとは思ってもみなかったが、しかし最後に笑うのはやはりこのオ(・)レ(・)だった!! 正真正銘オ(・) レ(・)の勝利だッ!!!!)



 がしかし、 奇跡《きせき》は 其処《そこ》までであった。

 頭蓋骨《ずがいこつ》が変形《へんけい》し凹んだ事により、エネルギーが分散《ぶんさん》。振り下ろされた刃はあと一歩《いっぽ》という所まで敵の命《いのち》に迫《せま》っておきながら、その運動を受《う》け止《と》められてしまったのである。


 勝利《しょうり》の笑《え》みを浮かべたのは雷峰《らいほう》の方。

 そしてこの確定《かくてい》した勝利《しょうり》を手中に収める為、地獄の大横綱はトドメの右腕《うわん》を振《ふ》り被《かぶ》る



「………未《ま》だじゃあ″あ″あ″″あ″″あ″″″ッ!!!! 」



 だが、そこで雅《みやび》が吠《ほ》えた。

 更になんと、往生際悪くも既《すで》に動きが停止《ていし》してしまった刀《かたな》へ、再び力《ちから》を注《そそ》ぎ込《こ》み始めたのである。

 

 己の思《おも》い描《えが》いていた 刀一振り敵を斬り倒すという未来《みらい》。それが破《やぶ》れても尚《なお》、彼は現実《げんじつ》へ喰《く》らい付《つ》く事を辞めなかったのだ。

 そしてそんな諦《あきら》めの悪《わる》さが、一度は指先《ゆびさき》をすり抜《ぬ》けた筈の奇跡《きせき》を再び彼の前へと引《ひ》き摺《ず》り下《お》ろす。



…………………………………………………………………………ッべ キ′′イ″ィ″″″!!!!!!!!!!!!

            


 無音で刀《かたな》を咥《くわ》え込《こ》んでいた雷峰の額《ひたい》。それが突如、破裂音《はれつおん》とも陶器《とうき》の割《わ》れる音《おと》とも聞こえる高音《こうおん》を上《あ》げた。

 すると瞬く間に、その額《ひたい》へと縦一直線の巨大《きょだい》な亀裂《きれつ》が走ったのである。


「 ッな…ぁ″あ……………」


 その瞬間 雷方《らいほう》の肉体から力《ちから》が消《き》える。

 だがそんな事はお構《かま》い無《な》しに、雅《みやび》は抵抗を止めた敵《てき》の身体《からだ》ごと刀を押《お》し斬《き》った。









ズ″ダ″アアアアン!!


 額を割られた巨体《きょたい》は、走った亀裂《きれつ》に刃挟(はさ)み込《こ》んだままそれが辿る軌道《きせき》を追従《ついじゅう》。地面《じめん》へと勢いよく顔面から叩《たた》き付《つ》けられる。


そしてそのまま 雷峰が再び身体《からだ》を起《お》こすことは無《な》く、地面に血《ち》と脳漿《のうしょう》の混じった赤黒《あかぐろ》い液体《えきたい》が広がってゆく中で、 遂に朝《あさ》を迎《むか》える事となったのであった。

 


お読み頂き有難うございます。


もし楽しんで頂けましたら、『ブックマーク』と『評価』等々を宜しくお願いします。そしてそれらを一つでも頂けましたら、明日も新しいエピソードを追加させて頂こうと思います。


何卒応援のほど、宜しくお願い申し上げます


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。