第六話 地獄大横綱 雷峰⑦
投稿が遅れてしまい申し訳ありません。急に内容が満足いかなくなり、修正していると二日掛かってしまいました。
お詫びとして、明日と明後日は連続投稿します。
(またこの構え。上段と見せかけて刃翻し別の場所を………いやッ )
腹に負った深手の出血が止まり、再び地を蹴り抜き衝突へと向かう雷峰。彼は前方より刀を頭上へ振りかぶり向かってくる雅の姿を見て、その顔に含みの有る表情を作ったのだ。
如何やったかは分からぬが、敵は彼に致命傷を与える術を見付けたらしい。だがそれでも腹の柔らかな箇所を狙ってきた点から、その術という物を使っても骨を断つことは不可能だと推測できる。
ならば次狙ってくるのも同じく腹か、目か、太腿かといった所であろう。
雷峰はそう考えて、一切の迷い無く上段へ対する警戒を外しかけた。
(まさか、また真っ向勝負する気か? 確実に通用する手段を投げ出してまでッ″)
しかし、そんな論理的に考えて搦め手を用いる以外有り得ない筈の男、その瞳に 彼は見覚えがあったのである。
それは嘗て幾人か相手にした勇敢な力士達と同じ瞳。生前から既に圧倒的な存在であった雷峰、しかしそれを重々承知の上で真っ向勝負を挑んできた勇者達と同じ瞳だったのだ。
雷峰には、雅が今再び自らの眉間へと一撃を叩き込まんとしている様に見えたのである。
( 良いぜ、勝負してやる。お互い逃げも隠れもしねえ真剣勝負だ!!)
そして、その自らの思い込みやも知れぬ敵からのメッセージに、雷峰は己の命運賭ける事を決めた。
此処でもし敵が再び腹を斬ってきたなら、何の抵抗も出来ず深傷を負う。だがそれでも、この根拠の無い確信へ従う事に そのリスクを背負うに充分値する価値を感じたのだ。
雷峰は両腕を下げ頭を突き出し、迫る雅の刃を迎え討つ。
(……面白い、そちらも乗って来るかッ )
そして、自らの思惑を察したらしい敵の様子を見て、愚かな剣士は内心そう呟く。
この時点で、雅の攻撃が雷峰の額を突破する見込みは全く存在していなかった。彼が夢の中で思い出した筋肉の隙間通す斬撃も、全体が固い頭蓋骨に覆われた頭部に対しては意味を成さない。
第一、彼の業『天地孤独』を用い全てポテンシャルを引き出し放った攻撃でさえ弾き返されるという結果が既に出ているのだから。
しかし、それを十二分に理解した上で、雅はそんな零に限りなく近い可能性へと刃を振り下ろすのである。
彼が夢の中で思い出したのは、何も少ない力で敵を斬る方法だけではないのだ。
むしろ目と臓物と指を代償として掴み取った物、その中で最も価値ある宝は又別にあった。
それは己の限りを取り払うという事。
例え理性が行動を無意味だと否定する根拠を列挙してこようともそれを意に介さぬ精神力。そして僅かな疑念すら無く己の求める未来を描き出す想像力。
それらを持つ者だけが、可能という範疇を飛び越え不可能を自らの元へと叩き落とし現実とする事が出来る。
そして、『天地孤独』は所詮可能という範疇内での最大に過ぎない。業を発動した瞬間、その時点で己が持っていた能力の最大値しか発揮する事はできないのだ。
故に 雅が最大値を塗り替える得る方法は唯一つ。
今よりこの一撃が敵を捉えるまでの刹那、 刃一振りの内に彼が剣士として殻を破った場合のみ。
「………」
敵の直ぐ前方で、雅は両目を閉ざし静かに息を吸込んだ。
真っ暗な世界、意識で己の輪郭をなぞる。平常時はボンヤリと霞の如くである肉体に対するイメージを研ぎ澄まし、頭の天辺から脚の爪先 毛髪一本一本 体内に敷き詰められた臓物 それらを構成する細胞に至るまで実際の身体と認識のズレを埋めてゆく。
そうして瞼閉ざし暗闇の中で正確に己を描き出した頃には、自然と集中の糸が限界まで張り詰められ、肉体に備わった凡ゆる機能が意識と接続していた。
あとは、 その自分を構成している三十七兆の細胞全てに対して、 たった一つの指令を与えてやるのみ。
我が道遮る物を 斬って払えと。
………………ダ″ァ″ッ!!!!!!
目が開く、一際強く大地が蹴り込まれる。
脳より下された不純物のない純粋な命令。
それに対して肉体は、残っていた全ての薪を炉に配べて 限界を超えた力を出力し動いてゆく。
心臓は破れる寸前まで拍動を加速。肺より取り入れられた酸素を凄まじい勢いで全身へと送り出し、それを受けた筋肉は細胞に蓄えられたエネルギーを刹那の内に爆発させた。
その結果、身体を包み込んだ息が詰まるほどの熱気と速度。さながら鬼の如く皮膚を紅潮させ血管を浮かび上がらせて、雅は己の得物をありったけの力で握りしめる。
(勝つのは、ワシじゃあ″あ″あ″あ″あ″″ッ!!!!)
そして最後 此処で必ず仕留めるという気を込め、
刀は速度と質量へ更に信念を乗せて、
敵の額へと糸引かれる様に振り下ろされたのである。
ッハ° ズ″″ゥウウ″ウ″″ン″″″!!!!!!!!!!!!!!!!!
それは、 人の倍では足りぬ時を生きてきた雅でも聞いた事が無い音であった。
内側が液体で満たされた超硬質なドーム状の物体が、巨大な瞬間的圧力によって変形させられた音である。
月明かりで宙に白銀の大円描いた斬撃 。
それはその一振りが内に己の殻を破り、雷峰の眉間をベコリッと陥没させてみせたのであった。
( 勝った。勝ったぞッ、まさか此処まで深傷を負うとは思ってもみなかったが、しかし最後に笑うのはやはりこのオレだった!! 正真正銘オ レの勝利だッ!!!!)
がしかし、 奇跡は 其処までであった。
頭蓋骨が変形し凹んだ事により、エネルギーが分散。振り下ろされた刃はあと一歩という所まで敵の命に迫っておきながら、その運動を受け止められてしまったのである。
勝利の笑みを浮かべたのは雷峰の方。
そしてこの確定した勝利を手中に収める為、地獄の大横綱はトドメの右腕を振り被る
「………未だじゃあ″あ″あ″″あ″″あ″″″ッ!!!! 」
だが、そこで雅が吠えた。
更になんと、往生際悪くも既に動きが停止してしまった刀へ、再び力を注ぎ込み始めたのである。
己の思い描いていた 刀一振り敵を斬り倒すという未来。それが破れても尚、彼は現実へ喰らい付く事を辞めなかったのだ。
そしてそんな諦めの悪さが、一度は指先をすり抜けた筈の奇跡を再び彼の前へと引き摺り下ろす。
…………………………………………………………………………ッべ キ′′イ″ィ″″″!!!!!!!!!!!!
無音で刀を咥え込んでいた雷峰の額。それが突如、破裂音とも陶器の割れる音とも聞こえる高音を上げた。
すると瞬く間に、その額へと縦一直線の巨大な亀裂が走ったのである。
「 ッな…ぁ″あ……………」
その瞬間 雷方の肉体から力が消える。
だがそんな事はお構い無しに、雅は抵抗を止めた敵の身体ごと刀を押し斬った。
ズ″ダ″アアアアン!!
額を割られた巨体は、走った亀裂に刃挟み込んだままそれが辿る軌道を追従。地面へと勢いよく顔面から叩き付けられる。
そしてそのまま 雷峰が再び身体を起こすことは無く、地面に血と脳漿の混じった赤黒い液体が広がってゆく中で、 遂に朝を迎える事となったのであった。
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