第六話 地獄大横綱 雷峰⑥
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タッ……タッ……………タタッ…タン…………………
転倒しないように前へと進むだけで精一杯、 それが雷峰から見た敵の動きに対する印象であった。
雅はやはりかなりのダメージが身体に残っているらしい。その足並みは乱れて覚束なく、宛ら酔っ払いの千鳥足が如くだ。
依然の動きのキレ、それはもう何処にも見当たらない。
…………・・・・ ・ ・ ・
これならば避ける間でもないな。
そう、雷峰が見切りを付けた、その瞬間であった
・ ・ ・ ・・・・………………………………………ッズ″ ウォ″ン″″!!!!!!!!!!
雅が急加速したのは。
「…ッ″!?」
ガ″ギ″ィ″ン″″ッ!!!!!!
突如 剣士の輪郭が残像と溶ける。それに雷峰は紙一重で防御追い付き、首の前へと構えられた右腕の尺骨 振るわれた白刃 その間で閃光が弾け散った。
もう死に掛けの屍同然、そう思っていた男が見せてきた想定外の加速。それに対し雷峰の顔へ又しても驚愕が浮ぶ。
そしてそんな敵の表情を眺めた雅は、血塗れな顔に浮かぶ狂笑 その口元をより一層吊り上げたのであった。
ミシッ…ッパキ、ゴッ
(ハハハッ、痛いのう。身の裂ける音がしよるわい!!)
雅は自分の体内で骨か臓器か分からぬ何かが壊れる音を聞いた。
当然、彼も無傷である筈が無い。寧ろ今この瞬間何故立てているのかすら分からない程の重傷を負っているのだ。
…………・・・・ ・ ・ ・
しかしそれでも雅が動けているのは、この男が偶々その動かぬ身体を強引に動かす術を持っていたが為である。
この戦いで用いる凡ゆる動作、それを彼は業『天地孤独』によって作っていたのだ。
そしてその作られた未来に従って 自動的に肉体は壊れた部位を別のまだ使える部位に負担強いることで補い、パッチワーク状に命令を現実へと描き出してしてゆく。
・ ・ ・ ・・・・…………………ッガ″ギン!! ギィ″ン″ッ!!!!
そうして作られた雅の動きは、宛ら糸吊り人形のごとく歪で奇妙。
…………・・・・ ・ ・ ・
算えていたらキリがない程数無数の箇所筋肉が断裂し骨が折れている為、重心が安定しない。
故に身体はまるで倒れる寸前の駒の様にフラフラ ユラユラと、しかし激流の蜿りがごとく凄まじい勢いで剣舞を舞う。
・ ・ ・ ・・・・…………………ザンッ! ズウォンッ、ズワァ″!! キン! ガッ、ズバァン!! ガギン″!! ガアァン″″ッ!!!!!!
足を止めれば一気にガタが来ると分かった。だから雅はもういっそ敵を殺すまで動きは止めぬと、強引にでも攻撃へ攻撃を繋ぎ続ける。
流れに逆らわず、 得物を御する事を辞め体全体で大円を描き、 宛ら刀自体が意思を持って持ち主を操っているかの如く敵へと斬り掛かってゆく。
そしてその消えかけの灯火が放つ最後の赫焉が如き連撃、それが徐々に雷峰を受けへと回らせ始めたのだ。
…………・・・・ ・ ・ ・
この瞬間、戦いの主導権を握っていたのは間違いなく雅の方。だがしかし同時に、刻一刻追い詰められていっているのも、間違いなく雅の方であった。
業の連続使用はリスクを伴う。精神に流れる時を止めるその度 脳は沸騰する様に成り、破裂する様に成り、潰れる様に成る。
更に欠けを負担で補っている為 身体の壊れていなかった部分も次々壊れ、壊れている部分は益々壊れてゆく。
そしてまた、雅が無茶をしているという事は 相対する雷峰の側にも伝わってきていた。
自分が手を下さずとも敵は今に自重で潰れる。彼はそう達観して、心に一瞬生まれた動揺を拭い去ろうとした。
・ ・ ・ ・・・・……………………………………ガギィン″ッ!!!! ズドォッ! ガッ、ガン! ズウォンッ!! ダッ! キン″ッ!!ギイン!! ガッギィ″ン″! キン″ッ ギイン! ガン″ッ ズワァン!! ギイィ″ィ″ン″″ッ!!!!!!!!
「 ッ″!?!?」
だが、その潰れる寸前である筈の敵は、此処で減速するどころか何とギアを一段上げてきたのである。
口から血を吐きつつ刀を振るう。頭から血を撒き散らし前に出る。瞼の下へと転がってゆく瞳を引き摺り下ろし笑みを浮かべる。
ゴリリッゴリリッと命の削れる音を聞きつつ、それでも雅は戦いを止めない。
( こいつッ…まさかこの状況を楽しんでやがるのか!!)
奇人狂人には事欠かぬ無間地獄。しかしその中で一つ頭抜けた狂気と今自分は向かい合っている、そう漸く気が付いた雷峰は 最早驚愕など飛び越え強い恐怖を覚えた。
依然肉体はほぼ無傷、体力の消耗は軽微、敗北など有り得ないという状況の男。それが一瞬先で事切れたとしてもおかしく無い半死人に 背筋が凍ったのである。
そして、 敵が刀を大上段に構えたのを見て、 雷峰は思わず頭を両腕で守った。
その刹那、雅の瞳に殺気の火が爆ぜる。
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・ ・ ・ ・ ・・・・・・・・・・・・・・・…………………………………………………………ッスパン!!!!
敵が防御したのを認め、雅は後出しで時を止めた。
そして其処から雷峰の両腕を掻い潜るが如く刃を横に倒し、とても万全とは呼べぬ蹴りと振り抜きで 倒れ込むように腹部へと一太刀叩き込んだ。
その攻撃は、序盤で彼が見せた上段斬りや首への薙ぎ払い比べればお粗末と言う他ない。
しかもそれら万全の一撃でさえ 雷峰が誇る鋼の肉体には致命傷を与えられなかったのだ。
当然、そんな付け焼き刃の斬撃ではこの戦いの中でなんら意味など
…………………………………ブ″″ ッ シュウ″ウ″ウ″″ウ″″ウ″″ウ″″″ウ″″″″″!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
雅の碌に力も篭っていない斬撃。それが通り過ぎていった後ろに突如として戦場へ現れた沈黙。
そしてその沈黙を破り、刃が撫でていった雷峰の右脇腹から左脇腹までの一直線が、 真っ赤な血を宙に吹き出したのである。
しかもその量が尋常ではない。
まるで水風船に穴が開いたかの如き有様で、瞬く間に雷峰の足元一帯へと血溜まりが広がってゆく。
「ガア″…ッ!! ハッ、アァ…ッ!?」
ドサッ
その余りな血の勢いと腹中に感じたゾクリッという死の気配に、雷峰は溜まらず傷口を手で覆い膝を突いた。
と同時 動きを止めた雅もまた膝が折れ、刀が行う円運動に引き摺られる様にして転倒する。
そうして殆ど同じタイミングで動きを止めた両者。だがしかしその顔が湛える表情には、二人の間に存在する 隔絶した差 が露見していたのであった。
「ハハッ、精々必死に傷口を押さえておれ。内臓にッ…達した手応えがあった、気を抜けば死ぬぞ」
「……お前ッ、一体何をした″!! あんなッ、軽い斬撃で………オレの身体が斬れる訳がッ」
「さっきも言ったじゃろ、寝てる間に見た夢で…お前の倒し方を思い付いたんじゃ。ワシとした事がッ…自分が死ぬ寸前どんな姿だったのかすら 忘れておったわ」
「夢ッ……だ、と?」
夢、 雅が雷峰の一撃を受けて生死の境彷徨う中で見たそれは、彼が現世で死ぬ数週間前の記憶であった。
生前 唯の人間であった頃から呼吸するが如く殺しを繰り返してきた彼は、その度重なる戦いの傷が蓄積し身体の部品が足りなく成っていた。
目は片方潰れ、内臓が欠け、右手は小指と薬指を斬り落とされていたという有様。しかしそんな状態でも、やはり雅は心臓が止まるまで戦い続けたのだった。
とは言っても 利き手の指が二本も欠けていれば満足に刀を固定できず、力業で存外固い人体を斬ることは不可能と成る。
そこで雅が身に着けたのが、力では無く技で人を斬る剣であった。
指が欠けている以上、先ず骨は避けて斬らねばならない。
だが人体とは良く出来ている物で、そういった急所には骨の代わりに分厚い筋肉の鎧が着させられている。それ故闇雲に斬撃を叩き込んでもその筋繊維に刃が止められ致命傷には至らない、という事を雅は実体験として知った。
しかしそれでも、度を超えた馬鹿は時に天才をも凌駕するという奴で、彼はそうと知った後も闇雲に刀を振り回し続けたのだ。
そしてその果て、彼は死の間際になり、殆ど力を要せず人体を豆腐の如く切断できる様に成っていたのだ。
雅自身は一体何故その様な事が起るのかを理解していないし、理解したいとも思ってはいない。
だがそれでも敢えて 訳を論理的に述べるのなら、彼は狙って筋肉の隙間に刃を通し切断していたのだ。
人間の筋肉は一枚岩では無い、無数の帯が如く全身を覆い圧迫して身体を形成している。そしてその帯の間に刃を入れる事が出来れば、案外容易く斬撃は人体の奥深くへと侵入し急所まで到達する。
更に加えて、筋繊維には流れという物があり、それに逆らわなけば宛ら切り取り線が引かれているかの如く人体は裂けてゆくのだ。
そして、それは地獄の大横綱 雷峰であっても例外では無かったらしい。
「ハァ……ハァ……ハァ……………………」
ググググ……ドサンッ
「痛で″ッ!」
こうして雅は遂に雷峰へも死の予感を覚えさせる事に成功した訳であるが、それでも未だ二人の決着は付いていない。
雷峰は僅かな振動でも傷が開き失血死しかねない為、腹を手で押さえ蹲っている。当然 雅はその隙を衝かんとするも、刀を杖になんとか腰を上げた所でバランス崩し再び無様に転倒してしまった。
そうして互いにモタ付いていた結果、雷峰の血が止まったのと 雅が立ち上がったのは殆ど同時と成ったのである。
「 どうした、先程までデカい図体丸めて蹲っておったが。腹でも冷やしたか? 」
「 ああ、そうなんだよ。大分夜も更けてきたんでウトウトしてたら腹へ微風が吹いてきやがってな。…だが、もう目は覚めたさ 」
「 そうか。しかし生憎だが…また直ぐ眠って貰う事になりそうじゃ、 今度は永遠になッ″!!!! 」
「 上等だァ″ッ!!!! いい加減どっちが朝日を拝むのか決めようじゃねえか″!!!! 」
二人は次動けば勝敗が決すると悟ってその前に互いを罵り合う。
そうして交わされる言葉には、何処かこの心地よい緊迫感への名残惜しさの様な物が滲むのであった。
がしかしそれでも、灰河町の一夜に幻が如く出現した血舞台へと幕を引かねば成らない。それは生き残った者としての責務である。
両雄は共に地を蹴る、そしてこの夜の戦いへ 最終幕を上げたのであった。
ダ″ン″′ッ!!!! ダ″ン″″ッ!!!!
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