第五話 月夜のバトルロワイヤル③
〜キャラステータス〜
【名前】 雅
【累計獄門衆殺害数】 26人
【使用武器】 刀、短刀
【合計死亡回数】 4度
【保有している業】
『天地孤独』→精神のみを時の流れより乖離させる不完全な時間停止能力。
『死不別互』→自らの武器の元へと瞬く間に移動が可能。瞬間移動後の体勢はある程度自由が効く。
【スペック】
力:85 技:70 体:80 心:67 知:65 術:0
計362
「……では侍、今度は私が相手をしようか?」
「 ッむ?」
誰でも良いから掛って来い。そう叫んだ自らの声に対する応答が今度は予期せず聞こえた雅は、僅かにその肩を跳ねさせた。
そして彼の目前に影の塊が如き物体が落下。それがスクッと立ち上がり、人の形となる。
「おお、良くきたのお。お前は…忍の者か」
「如何にも。拙者は千剱岳の不動尊と申す物だ」
「千剱岳…不動尊……聞かぬ地に聞かぬ名じゃな」
「当然だ。忍とは影に隠れ人知れず事を成す者のこと、服部だの風魔だの足跡を残している連中は我らに言わせれば二流三流よ」
突如現れた自らを不動尊と名乗る男。それに雅は、まるで此処が真昼の通りであるかの如くに話し掛ける。
そしてその言葉に忍もまた当然の如く応え、自らが一体何者であるのかを饒舌に語り始めた。
「遥か昔より天下万事の裏に潜み、源平も 関ヶ原も 戊辰も 全て拙者ら千剱岳の忍仙が結末を決めてきた。だが誰もその存在を知らぬ。それこそが我が一派の腕の証明である」
「フッ、その割には随分と饒舌じゃの。聞いてもない事をペラペラと…死んで口が緩く成ったか?」
「いいや、何も変わってはおらぬさ。生まれ付き人の二倍舌が長くてな。だが、 これだけ喋っても拙者の名は何処にも残っていない。それもまた腕の証明であろう?」
ズウォ″ン
雅の挑発に堂々と返してみせる舌の長い忍は、突如何もない空間より人の上体と大差ない巨大な二つの手裏剣を出現させた。
しかしその摩訶不思議な現象にも、無限地獄で数多く獄門衆を斬ってきた古強者は動じない。恐らく奴の持つ業の力であろう。
がしかし、 次の瞬間その忍が見せた技には、流石の雅も瞳孔を開かざるを得なかった。
「忍法、螺旋結びの術」
…ヒュン、 ヒュンッ ヒュ ヒュヒュヒュヒッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″ッ″!!
不動尊がその両手に持った巨大手裏剣を宙に放る。するとそれが独でに回転を加速、そしてそのまま宙へと留まりゆっくりと忍の周りを周回しだしたのである。
まるで夢か幻を見せられているかの様な、物理法則を完全に無視した光景。
がしかし、雅が表情を変化させたのはその光景自体に驚いたが故では無い。二つ目の業 、敵が少なくとも二十人は殺しているという事実に彼は歓喜したのだ。
十人殺して業一つを獲得した者ならそれほど珍しくは無い。がしかし、途中で殺される事なく二つ目の業まで辿り着く者となると途端に数が減る。
運だけでは辿り着けぬ壁、二つ目の業は正真正銘の実力者である証なのだ。
「話が違う という顔だな。逃げても構わぬのだぞ、出来る物ならな」
不動尊はまるで、逃げられ慣れているかの如くに雅へと挑発し返す。
真っ当な獄門衆から見て、恐らく彼は割に合わぬ相手なのだろう。なにせ業を一つ持とうが二つ持とうが、殺した際に手に入る経は一節に違いが無いのだから。
相手が業持ちと分かれば一目散に逃げ出し、この地獄に堕ちてきて日の浅いの相手だけを狙う獄門衆は多い。
「 いいや、実に嬉しい誤算じゃ。久しぶりの上物に唾を飲むのが忙しくての」
がしかし当然、この雅という男にとって割に合わぬという事が戦いを避ける理由に成る筈が無かった。
保証書付きの強敵との戦闘、なにを拒む事が有ろう。己が積み上げてきた二十六の屍、なぜ惜しむ必要が有ろう。自分が勝利するという確証の無き戦い、それこそ寧ろ望む所。
両者の殺気に細められた視線が一直線に重なる。
そしてそれが一切逸らされぬまま、とある言葉が同時に発された。
「「死ね」」
ダッ″″!!!! ズ″ ウォオ″オ″オ″ン″″″ッ!!!!
雅が地面を蹴り抜く轟音。それと同時に不動尊は宙を掻くが如くに右腕を振るい、それへ連動して巨大手裏剣の一つが突進の進路塞ぐように敵へと放たれていった。
……ッッッ″ッ″ッ″ッ″″ッ″″ッ″″″ッ″″″ッ″″″!!!!
今まで聞いた事が無い巨大で鋭利な刃が高速で大気を切り裂いてゆく音。それが拍一つの内にすぐ目前へと迫り、聴覚がそれ唯一つに埋まる。
そしてその放たれた飛翔体を前に、雅はなんと無鉄砲にも刀を叩き付け真正面からぶつかった。
ガ″″ッ ギィ″ィ″ィ″ン″″″ッ!!!!!!!!!!!
刀と手裏剣の刃が触れ合った瞬間、二つの間で闇を払い飛ばすような閃光が散る。
その高速回転する鉄の塊が保持していたエネルギーは凄まじく、雅の握る刀と互いを鼓膜劈くような音と共に弾き合う。そして巨大手裏剣は下方向へと跳ね返り、通りの砂地へと潜り込んでその回転を止めた。
対し、その衝撃に身体が浮き上がりつつも何とか体勢を崩す事なく堪え切った雅は両足で着地。
即座地を蹴り込んで敵との間合い詰めんと
「 ッ″」
………スウォンッ
しかし、その前方に傾いた彼の重心を、闇を貫き飛来した一本の棒手裏剣が引かせる。
間髪入れず不動尊より投げ付けられたのは掌に乗るサイズの金属。普段の雅であればその程度意に介さず、身へ突き刺させ敵の首へと喰らい付いていたであろう。
だが今回、最早第六感の領域でそれに不穏な物を感じ取った彼は、歩みにブレーキ掛けてでも回避を優先したのである。
そうして首を傾げ、頬の横を棒手裏剣が通り過ぎる瞬間鼻孔を掠めた匂い。その投擲武器からは猛毒であるマチンの香りがした。
「……ほおッ 今のを躱すか。己の肉体を過信する有象無象には良く効くのだが、これは存外 楽しませてくれそうだ″な″ッ」
ザッ!!!!
足を止め攻撃を躱すという最適解を出した雅へ、その忍は一切の嫌味なく賞賛を送った。超えてきた修羅場の数を覗かせる戦場での異常な余裕。
そして更に次の瞬間、なんと不動尊は遠距離の優位を捨て 雅の土俵である近距離へと自ら飛び込んできたのである。
得物は左腕の動きを数センチ離れて辿るもう一つの巨大手裏剣。
それを思わぬ敵の行動に一瞬反応が遅れた雅目掛け、絶大な破壊力をそのまま叩き付けように脳天へと落とした。
ッ ギ″″イ″″イ″″イ″″イ″″イ″″ン″″″″!!!!!!!!!!!!
降ってきた巨大手裏剣に頭を割られる寸前、雅は紙一重で間に刀を入れ直撃は回避する。しかしその凄まじい重さに弾き返すこと叶わず、二つの鋼が互いを削り合い 彼の頭上へと眩い火花の雨が降り注いだ。
「縦に割れるか横に割れるか、 選ばせてやろう」
……ヒュィイイ″ッ″ッ″ッ″ッ″ ズウォオ″″″ッ!!!!
頭上へと落とされた手裏剣に押潰されぬよう堪えるので精一杯な雅。しかし不動尊は攻め手を緩めること無く、寧ろこれまで幾人もの敵を葬り去ってきた決め技を放つ。
忍が少し離れた位置より、雅に弾かれ半分地面へ埋まっていたもう片方の巨大手裏剣へと手を翳した。
するとその完全に停止していた筈の手裏剣が砂地を斬り 独りでに回転を開始。そしてあろう事か敵の脇腹を抉らんと勢いよく跳ね上がったのである。
「…ッグ″!!」
上下両方向からの攻撃、しかも下の手裏剣からは完全に注意を外していた為又もや反応が遅れた。
雅は己が完全に出し抜かれている状況に屈辱で顔を歪める。そして切羽詰まり切り、仕方なく緊急手段を用いたのだった。
………・・・ ・ ・ ・ ・
業『天地孤独』を発動。残像尾に引き下方より迫ってきていた筈の手裏剣が急激に速度を失ってゆき、身体へと到達する寸前 停止した。
そしてその止まった世界の中、雅はやむを得ず回避の動きを作る。
・ ・ ・ ・・・………ズウォ″ン″″″
側方へと飛ぶ、そのたった一つの動きを彼の身体は全身全霊凡ゆる力を振り絞って実現する。
結果、2つの巨大手裏剣は鼻先と臍上を微かに掠めて飛び去り、致命傷は免れた。しかし後一瞬でも判断が遅れていれば、縦にか横にか両方にか身体を割られていたであろう。
「 ほお、これも逃れてくるか。今のを受けて死ななかった者はそう多くないぞ」
「……ハハアッ! お前もな。この力を防御に使わされたのは久し振りじゃ!! 誇って良いぞッ」
決着の確信と共に放った攻撃を躱された不動尊。肉体的 精神的な疲弊を伴いあまり多用は出来ない時間停止を防御に使わされた雅。
その己にとって決してプラスではない出来事を受け、両者は心底嬉しそうに言葉を交わしたのであった。
この瞬間雅と不動尊は互いに互いを本気で殺そうとしている。だがにも拘わらず、恐ろしい程純粋な感情で相手のことを賞賛していたのだ。
それは間違いなく真っ当な思考回路を持つ人間からすれば理解不能な行動であろう。だがまともな人間に理解されぬからこそ、この壊れた思考回路が通じる相手には肉親や兄弟以上の親しみを覚え、感情を共有したいと思ってしまうのだ。
そして互いの武勇を称え終えた所で、雅と不動尊は合図もなく流れる様に戦闘へと戻ろ
「だ、旦那ァ″ァ″ッ!! 雅の旦那ァ″″ァ″″ァ″″ッ!! 助けてくれえーー″ッ!!!!」
「ホホホホッ、ホウッホウッホウッホウッ!! ホワハァァァァッ!!!!」
だがしかし、 そんな再び張り詰められかけた二人の緊張が、 突如通りに響いた少年の悲鳴と獣がごとき叫びに乱されたのであった。
お読み頂き有難うございます。
もし楽しんで頂けましたら、『ブックマーク』と『評価』等々を宜しくお願いします。そしてそれらを一つでも頂けましたら、明日も新しいエピソードを追加させて頂こうと思います。
そして少しでも小説の技量を上げたいと思っておりますので、感想なアドバイスなどを頂けると嬉しいです。
何卒応援のほど、宜しくお願い申し上げます




