初めて勝った
「なぁ、爺」
「はい、姫様」
「これは本当にガラス玉ではないと思うか?」
「はい。私もガラス玉をだと思っておりました。セイ様が姫様はまだ子供だからガラスで十分だと言う意味でお渡しになられたと思っておりましたが、そうではなさそうですね」
「ドラゴンの涙というものは本当に存在するのじゃろうか?宮廷鑑定士に鑑定てもらったらどうなると思う?」
「悪手でございますな。鑑定士がドラゴンの涙と鑑定しても、鑑定できなくても問題になります。鑑定出来ないということは未知なるものとなりますので。さすればお渡しになられたセイ様にご迷惑が掛かります」
「じゃろうな。しかし、セイは皆の前でドラゴンの涙と言いおったが大丈夫じゃろうか?」
「姫様もそのままドラゴンの涙とおっしゃっておけば宜しいのです」
「なぜじゃ?セイに迷惑がかかるのであろう?」
「そのうち、第一姫、第二姫が姫様を馬鹿にされることでしょう。その時にもこれはドラゴンの涙だとおっしゃって下さい」
「どうしてじゃ?」
「必ず上の姫様は鑑定するとおっしゃいます。その時には頑なに拒否するのです。そうすればガラスとバレるのが嫌だ思われて、そのままそれはガラス玉だと皆が思うようになります。姫様のプライドは傷付く事になりましょうが、それは我慢なさって下さいませ」
「うむ、姉上達に馬鹿にされても問題はない。妾がこれを本当のドラゴンの涙とわかっておれば良い事じゃ。もしガラス玉であったとしてもセイが妾にくれたものじゃから宝物には違いがないしの」
「はい。その通りでございます」
「爺、この玉をドラゴンが持っているようなデザインに作り替えは出来るか?こんな感じで」
マリー姫様こと、ビスクマリア・ボッケーノは執事に玉を掴んでいるような手振りをする。
「かしこまりました。そのように手配を致します」
「うむ、可愛くは無いだろうが、かっこよく頼むぞ」
城を出たセイはポーションダンジョンに向かう。長旅になるので薬があれば安心だ。
ダンジョンに到着すると誰も来た様子は無く魔物の気配も無かった。
「よぉ、お前の出してくれたポーションすごいみたいだな。もっと大きくなったら効能アップするのか?」
少しパクパク。
「とりあえず俺が妖力を流してやるからな」
と、セイはダンジョンに妖力を流していく。ゴゴゴ、ゴゴゴ、ゴゴゴと何度も揺れるダンジョン。どんどん大きくなっていってるのだろう。
「こんなもんか。後、飯もやるからな。俺は1年くらいここには来れないから、これ食っても大きくならずに栄養を貯めておけ」
と、セイはドラゴン肉をダンジョンに食べさせた。ゴゴと少し揺れただけで耐えるダンジョン。
「よーし、いい子だ。帰ってきたら餌とか確保出来る仕組みを考えてやるからな。俺が無事に戻るまで待ってろよ」
とそこまで話し掛けるとゴロゴロと水信玄餅みたいな物を出してくる。前回は無色透明だったのが、濃い水色をしていた。濃度が増したってことかな?
しかし、濃いならもっと小さい方がいいな。一口で飲めたらポーション瓶に移し替えなくて済む。皮というかポーションを包んでいる周りもポーションの一部みたいだし。
「これさ、これくらいのサイズに出来る?」
と錠剤みたい大きさを言うとボロボロと出してきた。
「ストーップ。ちょっと待って拾うの大変だから袋出すから」
ぬーちゃんに布袋を持ってきて貰い、マントで受けて袋に入れる用意をした。
「ここに出して」
ボロボロボロボロボロボロと青くて丸い小さな宝石の様なポーションが工場で生産されたかのようにどんどん出てくる。追加で袋をいくつも持ってきてもらって大量に溜め込んだ。
「ありがとう。もういいよ。あとちょっと中がどうなってるか見せて」
中に入ると鍾乳洞の様な感じで、鍾乳石の先から、ポタッと汁が垂れてくるところがある。これがポーションなのだろう。人間が容器かなんかに貯めて取りに来たら鍾乳石が落ちて来たりするんだろうな。その罠を防がれるようになったらまた違う罠を作るのかもしれん。
「ありがとう。立派なダンジョンになったね。お前の事はポーちゃんって名前にするから」
なんか入り口が震えてるから喜んでるのかな?
これ万能薬だとは思うんだけど、念の為にティンクルに調べて貰おう。
「おーい、ティンクルいるー?」
出て来たティンクルは髪の毛はくしゃくしゃ、目の下には大きなクマが出来てて小柄美人が台無しだ。
「どうしたん?」
「全くわからん・・・」
「あー、万能薬を調べてたのか。ごめんね、これの入手先を教えるの許可が下りなかったから教えられないや」
「わたしも研究者の端くれ。自力で調べ・・・」
そこまで言ってフラ付いて倒れかけたので慌てて支える。
「大丈夫か?」
ティンクルが人間臭い。風呂入ってないだろ?
「大丈夫だ。それよりアクアに行くんじゃなかったのか?」
「行くよ。その挨拶に来たのとこれを調べて欲しいんだ」
と、青い錠剤みたいなポーションを見せる。
「宝石の鑑定はやってはおらん」
「いや、これポーションだと思うんだよ。試験管貸して」
そこに青いポーションを入れて潰すとちゃんと液体になった。そして鑑定結果は判定不能。効能の棒グラフが上限を超えたのだ。
「なっ、なんだこれは・・・。これはサンプルとしてもらっていいのか?」
「いいけど、ちゃんと飯食って風呂入れ。美人が臭いとか幻滅するだろ?」
「ふふふ、こういうのにそそられる奴もいるのだ」
「そんな世界は知りたくありません。お前、着替とかここにあるか?」
「下着くらいならな」
「なら、風呂に連れてってやるからそこに浸かって身体を癒やせ」
「風呂なら家にシャワーがあるぞ」
「いいから。ぬーちゃん、近い方の温泉まで行って」
研究がしたいと言うティンクルをなだめて後ろに乗せて近い温泉へ。
「こんなところに温泉があったのか」
「ゆっくり浸かって来いよ。ちゃんと休んだ方が効率的なんだぞ。そんなに目の下のクマ作ってやってても成果でないぞ」
ティンクルはそうかもしれんと温泉に入りに行くようなので、ご飯の用意をすることに。と言っても肉ぐらいしか焼かないけど。
角有り肉を狐火でゆっくりこんがり焼いていき、焼けた所から削いで皿に乗せていく。ぬーちゃん、食べるの早いよ。
ぬーちゃんがどんどん食べるのでこちらも焼いては削ぎ、焼いては削ぎを繰り返しているとティンクルがほこほこになって出て来た。
なんとなくピリピリした感じは抜けたけど、疲れはそんなに一瞬で取れないからな。
「服はそのまま?」
「家に帰らんとないぞ」
ウェンディが買って着てない服が山程あるからそれに着替えろと渡した。岩陰で着替えてきたティンクル。
「少し大きいな」
と、袖と裾をまくってやる。
「お前は面倒見が良いな。私の旦那にならないか?」
「なりません。あと、試しにこれを飲んで見てくれ。回復効果もあるなら疲れが取れるんじゃないか?」
と錠剤ポーションを渡す。
「まだあったのか?これ一粒で大金が手に入るぞ」
「いいよ。これは人体実験だからな」
「ふむ、なるほどな。臨床試験は自らでやるのが一番早いということか」
ティンクルってそのうち変なもの飲んで死にそうだな。
水無しでパクっと飲んだティンクルは少し経つとどんどん身体が軽くなるようだと言った。目の下のクマも消えている。
「よく効いたみたいだな。ほら、飯もろくに食ってないんだろ?肉焼いたから食べろよ」
「おー、旨そうだ。いいのか?こんなにたくさん」
「好きなだけ食べて。狩ったやつがたくさんあるから」
胃腸も回復したのかティンクルはガッツリ肉を堪能したのであった。
「あー、満足だ。こんなに食ったの初めてだ」
いや、全然食ってないぞ。ウェンディやヘスティアならそんなの食ったうちに入らん。
「もう食わないの?もしかして遠慮してんの?」
「はぁ?見てみろこの腹」
ペロンと服をめくって腹を見せてくるティンクル。ポコンと膨らんで子供みたいな腹だ。
「いや、うちの仲間とかその10倍は食うからな。お腹いっぱいで止めるというより、顎が疲れて食うの止めるって感じなんだよ」
「この服の持ち主か?」
「そう」
「今どこにいる?服を勝手に借りてしまったから挨拶ぐらいしておきたい」
「それ少し大きいけどあげるよ。ウェンディっていうんだけどね、服を買え買え言うくせに買っても着ないから問題ないよ。それも前に買って一回も着てないから」
「これ、結構上等な服じゃないか。それを着もしないのに買ってやるのか?」
「ムカつくだろ?服も着てもらえなくて可哀想なんだよ。だからもらっておいてくれ」
「すまんな。では遠慮なくもらっておく。が、やはり挨拶はさせてもらおう。ボッケーノにいるのだろ?」
「じゃ、バビデの所にいるから一緒に行こうか」
と、バビデの所に行くとヘスティアが遅いと怒っていた。
「誰だそいつ?」
「ポーション研究者のティンクルだよ」
とヘスティアに説明しているとウェンディがティンクルをじーーっと見ている。
「そいつが仲間のウェンディ」
「ポーション研究室のティンクルだ。セイの言葉に甘えてお前の服をもらってしまったから挨拶に着た」
「ふーん」
ちゃんと挨拶しろよな。
勝手に服をあげたのを怒ってるのか?
と思ってたらとてもにこやかになった。
「わたしは風の神ゴニョゴニョ。ウェンディよっ」
あー、なるほど。ティンクルは自分より小さいから嬉しいのか。
ティンクルをサカキとクラマにも紹介して、彼女はそのまま宴会に参加したのであった。