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ウェンディは姫様と同じ

ー姫様邸別室ー


「セイ様。私は姫様の執事兼教育係のパルシーと申します。この度は大変失礼致しました」


丁寧に出られるとこちらもそれ相応の対応をしなくてはいけない。


「こっちも感情的になって申し訳ない。姫様があんな幼い子供だとは思っていなくて」


「姫様は末っ子であられまして、他の姫や王子と少し歳が離れております。その分一緒に遊ぶ事も少なく、王や王妃も公務が忙しくてお一人でおられる事が多かった為、つい甘やかせてしまいました」


なるほどね。 


「甘えさせるのもいいけど、ダメな事はダメと教えないとね。オレは門番が謹慎されたのはおかしいと思うからお咎めなしにしてあげてね。昨日の晩にいきなり謁見が決まって上手く連絡がつかなかったみたいだし。現場の責任ではないよ」


「寛大なお言葉ありがとうございます。すぐに謹慎を解くようにいたします。あと、セイ様に不躾なお願いごとをさせて頂きたいのですが聞いて頂けますでしょうか」


「何?」


「姫様に少しだけで宜しいですので冒険譚を聞かせて頂く事は可能でございますか」


「冒険譚?俺は冒険者になって日が浅いからそんなに話すことないよ」


「ほんの少しで良いのです。今回お越し頂いたのも宝石の入手場所を知りたいのではなく、どうやって手に入れたのかと言う冒険譚を姫様は聞きたくて仕方がなかったのです。姫様は先程セイ様の仰った通り何不自由な暮らしをされてはおりますが自由はございません。何をするのにも私や護衛が付き纏います。城からも出る機会は少ないのです」


そうだったんだ。


「たまたま公務で出掛けた帰りにあのアクセサリーセットを見て気に入り、このような見事な物を入手したのは誰であるか話を聞きたくて聞きたくてずっと楽しみにされておりました」


「しつこく探したのはそういうことだったんだね」


「はい。誠に申し訳ございません」


「解った。この2〜3日は空いてるから話で良ければするよ」


「ありがとうございます」


「いつがいい?」


「今からでも宜しいでしょうか?」 


「解ったよ」


と、返事をするとすぐに姫様がやってきた。


「あんなに怒っておったのに本当にいいのか?」


「ちゃんとごめんなさいが出来た褒美だ。何から聞きたい?結構秘密の話が多いから他の人に言っちゃだめだぞ」  

 

セイの怒りも収まり、子供に接するモードに変わっていた。


「解った。約束するのじゃ。まずは宝石ってどうやって手に入れるのじゃ?」


セイはそこから普通はこうやってね、とかダンジョンの話や実はダンジョンは魔物でねとか話しだした。それは夜まで続き、このまま晩餐、そして泊まって話を聞かせて欲しいと言われた。


「じゃ、帰れないって仲間に連絡しておくよ」 


と、式神を飛ばす。


「なんじゃそれは?」


「これは俺の分身みたいなやつだな。これは幽霊や・・・、おっと、この話は寝る前にしてやろうか?怖くて眠れなくなっても知らんぞ〜」


「わっはははっ。妾に怖いものなどないっ。どんと来るのじゃっ」




「セ、セイ。お手洗いに付いて来るのじゃ」


「怖い物なんてないんじゃなかったのか?」


「いいから漏れるのじゃっ」


セイは怨霊や呪いの話を情感豊かに話をしたのだ。すっかり怯えた姫様はトイレに行けなくなり付いて来いといった。姫様は話を聞かせて貰ってる間は護衛も皆離れろと命令していた。もし姫様に何かあったらどうするのかと反対されたが、執事から何かあってもお前達では何も出来ないでしょうと言われたのだ。護衛達よりも執事の方が立場が上らしく、護衛達が執事の命令に従った結果、セイがトイレに付いていくはめになった。



「セイー、そこにおるかー?」


「いるよー」


これ、温泉でウェンディともやったな。姫様は8歳らしい。そうかウェンディは8歳と同じか。


「良かったなお漏らししなくて」


「姫である妾がそんな物をするわけなかろうがーっ」


それ、フラグっていうんだぞ。


そして話は夜中まで続き、おねしょさせたら可愛そうだなとねむねむの姫様をおぶってトイレに連れて行き、しーこいこいしてから部屋に寝かせに行ったのであった。


「セイ様、誠にありがとうございました。あんなに子供らしくはしゃぐ姿の姫様を見たのは本当に久しぶりでございます」


と涙ぐむ爺。


「喜んでくれたのなら良かったよ」


と、挨拶してセイも就寝した。



翌朝


「起きるのじゃーっ」


「早いな姫様」


「もう、セイと妾の仲じゃ。妾の事はマリーと呼べ」


「それ愛称だろ?そんなの俺が呼んだらまずいんじゃいのか?」


「構わん。許可証を発行させるからな。これならお小遣いも使わずにセイに褒美として渡せると言うものよ。わーはっはっは」


「これは褒美か。ならありがたく受け取ろう」


「今日はいつまでおるのじゃ?」


「もう帰ろうかと思ってるけど?」


「妾は午前中は空いておるのじゃ。それまではいてくれぬか」


「まぁ、いいよ。まだ何か聞きたいのか?」


「うむ、火の神様の加護についてじゃ。これは公務にも関係するから詳しく聞きたいのじゃ」


なるほど。ギルマスには話したけど王家にもちゃんと伝えておいたほうがいいな。


「じゃ、執事さんも一緒に聞いてもらおうかな」


「うむ、爺にも聞いてもらうのじゃ」


執事を交えて、ヘスティアの加護はどのようなものか説明する。そしてドラゴンを人間が倒せないと、加護の噴火が起こり魔物を弱体化させるのだと。


「セイ様、その話は本当でございますか」


「ヘスティアが言ってたから本当だと思うよ。過去の歴史を教えてもらったら概ね300年周期だけど、100年位は誤差だと思う。もうボッケーノにはワイバーンが出てるから過去より早くにドラゴンが出る可能性はあるよね」


「早くにですか」


「うん、例えばアネモスは10年位前から神無し国になっててね、最近どんどん強い魔物が出だしているんだ。強い魔物が出だすだろうとは思ってたけど想定よりかなり早いからね」


「ヘスティア様はドラゴンが出る前に加護を下さったりはしないのでしょうか」


「やってくれと言ったらやってくれるとは思うけど、大噴火で人が大勢死ぬんだよ。だからヘスティアはぎりぎりまで噴火させてないんだ」


「そうなのですね・・・」


「国民全員を避難させるとか無理でしょ?多分信じない人も多いだろうし」


「はい。私もセイ様と直接お会いするまでセイ様が強いと言われていても誇張された噂であろうと思っておりました」


「まぁ、うちは俺がというより仲間が強いからね。今回のドラゴン狩りもほとんど仲間がやってくれたし」


「ドラゴン狩り?」


あ、しまった。これは内緒にしておくつもりだったのに。


「いや、ヘスティアが着ることの出来る素材が必要だったから仕方がなくね」


「狩られたのですか?ドラゴンを?」


「ま、まぁ」


「そっ、それではセイ様達がおられたらドラゴンに怯える必要はないということなのですなっ」


「まぁ、俺が生きている間に出れば手伝うけど。それにボッケーノの住人でもないからここに居ないことの方が多いよ」


「そ、そうでございましたな・・・。こちらに屋敷を用意させて頂いたらボッケーノに移り住まれたりされませぬか」


「いや、俺はアネモスでやらないといけないことがあるからね。それは無理だよ」


「何をされておられるのですか?」


「アネモスを昔のようにウェンディを信仰してもらうことだよ。俺の使命はそれなんだよ。ボッケーノにはヘスティアがどういうふうに信仰されているのか勉強しに来ただけでね。まぁ、武器や防具の職人、宝石屋と仲良くなったからちょくちょく遊びに来てはいるけど」


「そうでしたか。風の神ウェンディ様がまた信仰された暁にはどうなさるおつもりで?」


「そうだね、一度生まれた国に帰らないとダメかな」


「どちらのお国なのですか?」


「日本という遠く遠く離れた国だよ。島国の小さな国だから誰も知らないと思うよ」


「そのような国があるのですね。さぞ長旅になられるのでしょうね」


「そうだね。物凄く遠いよ」


しばしの沈黙の後、


「セイ」


「何?マリー姫」


「ボッケーノに遊びに来た時には会いに来てくれるか?」


「姫様と謁見するのは大変だからね。来てもすぐに帰ったりするから難しいかも」


「良い。セイは顔パスじゃ」


なぜ顔パスとか知っているのだ?


「ダメだよ。そんなワガママでルールを変えちゃ。色々な人が大変だからね」


「いえ、セイ殿。許可証をお渡し致しますので是非お越し下さいませ」


王家の敷地への通行許可ってやつか。ソレならまぁ大丈夫か。


「解った。マリー姫がクソ女になってないか確認しに来るよ」


そう言うと姫様はとても嬉しそうな顔をした。



「この度は本当にありがとうございました」


「こちらこそお騒がせして申し訳なかったね。あ、あのアクセサリーだけどあれが似合うような歳になるまではこれを付けていろ」


と、粗末な袋からドラゴンの涙をひとつ出して渡す。


「これは宝石か?」


「ドラゴンの涙だ。ペンダントかなんかにしてもらえ。派手な色は付いてないからちょうどいいだろ?」


「献上するというのか?」


「ここに来た手土産だ。献上とかそんなのじゃないよ」


姫と爺はセイが子供にはガラス玉で十分と言ったのだと思ったのであった。ドラゴンの涙とそれらしい名前を付けてと。


「うむ、大切にするぞ」


「執事さん、じゃそろそろ帰るから剣とナイフを返して貰ってもいいかな」


「かしこまりました」


そして騎士の所に案内されるとまだ何人か倒れている。


「こちらをお返し致します」


「そこの倒れてる騎士はこれを抜いたんだろ?」


「はい」


「倒れている者達は力が復活したら問題無いとは思う。抜くなと警告してあったのに抜くからだよ」


「その剣は何なのですか?」


「メラウスの剣だよ。メラウス鉱をビビデが剣にしてヘスティアが焼入れした逸品だ。俺以外が持つとその人の力を奪うんだよ」


「そのような剣があるとは・・・」


「これは王様が欲しいと言っても献上しないからね。このナイフも」


「かしこまりました」


ふと、騎士達の部屋からうめき声が聞こえた。


「もしかしてバチ受けた護衛騎士の鎧はまだ脱げてなかったりする?」


「は、はい。鍛冶屋も匙を投げました」


もしかしてヘスティアが焼入れしたみたいになってんのか?


「ちょっと連れて来て」


歪に固まった鎧に身を包んだ護衛騎士は苦悩の表情を浮かべている。


セイはサイン入りナイフを抜き妖力を流す。そして歪な鎧を布を切るように切っていった。


「ほら脱げたぞ。姫様を守るのは重責だけど敵を作らないのも重要だぞ」


「あ、ありがとうございます」


「セイよ、ヘスティア様の名前の文字が光ったのはなぜじゃ?」


「鎧を切るのにヘスティアの力を借りたって感じかな。このサインはヘスティア直筆なんだよ。こっちの剣と同じ黒色だろ?この色にするのはヘスティアの力じゃないと出来ないんだよ」


「あの宝石店にも同じサインがあったのも・・・」


「そう。ヘスティアが書いた。ビビデとバビデの工房にも同じプレートがあるよ。この3箇所がヘスティア御用達店なんだ。下手に手出しをしたらバチ当たるからな」


そう言い残して姫様との謁見は終わったのであった。



帰りに門番のグラノルにお詫びとお礼をしつこく言われて、セイはぬーちゃんと飛び去ったのである。


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