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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十六年度、智香子、中等部二年生編〕

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人格形成の一因

 思い悩む、というほどに深刻ではないのだが、智香子は智香子で様々なことを考える。

 この学校に入ってからそんな機会が、いぜんよりも増えたような気がした。

 そして、思い返してみると、そうした思考のきっかけとなるのは、大抵は迷宮に関連したなにかなのだ。

 仮に智香子が松濤女子に入学せず、地元の公立校に進学していたとしたら、こうした細々としたことについて考える機会にも恵まれなかったのではないか。

 そういう意味では、この学校に入学して探索部として活動を開始したことは、智香子の性格をほんの少し変えているといえる。

 あえて大袈裟ないい方をすれば、

「智香子の人格形成に影響を与えた」

 ということになる。

「いや、チカちゃんが思慮深いのは、元からの性格だと思うなあ」

 佐治さんは、平然とそう評した。

「いや、入学する前のチカちゃんのこと知っているわけではないから、そう思えるだけなのかも知れないけど」

「でも、うん。

 なんとなく、わかるような気はするな」

 黎は、素直に感心してくれる。

「迷宮自体が、すごく不思議で不自然な存在なわけだし、その上、その迷宮を巡ってこの社会がどういう風に適応していったのか。

 長い時間をかけて制度とかを整備していった結果、今の状態になっているわけで。

 わたしたちは、この今の状態が当然だと思って不思議に思う機会はないけど、改めて見直してみると、うん、いろいろと奇妙に思えることも多いよねえ」

 中間試験が終わった日、智香子たちはひさびさにいつも委員会で使っている教室に集合している。

 六人は学年もクラスも異なるので、部活と委員会がないと全員が集合する機会がない。

 二年生の四人はまだしも廊下などで偶然に顔を合わす機会があるのだが、一年生の二人にではその機会すらなかった。

「前にもそんなことをいっていましたね」

 世良月が意見を述べる。

「確かに先の戦争が終わる前後、迷宮がいくつも出現したことは奇妙だとは思います。

 ですが、もう七十年以上も存在し続けている以上、その不思議な存在も一種の自然環境だと割り切るしかないのだとも思います」

「つまり、あれこれ考えるのは無駄だと?」

 同じ一年生の柳瀬さんが首を傾げた。

「そういう疑問について、いろいろ考えることは、それなりに大切だと思うけど」

「無駄とまでは、いいませんが」

 世良月は、不満そうな表情になる。

「そういうことを考えるのは、大人の専門家の仕事だと思うのです。

 わたしたちは中学生で、同時に探索者でもあります。

 そのどちらでも、そうしたことを考える意味がありません」

「意味、かあ」

 香椎さんはそういって頷く。

「つまり月ちゃんは、中学生とか探索者は、そうした疑問を持つ必要がないと思っている?」

「そうですね。

 必要がない」

 世良月は、そういって大きく首を縦に振った。

「そのいい方が一番、しっくりします。

 中学生は社会に出るための勉強をするのが、探索者は迷宮からアイテムを持ち帰るのが仕事です」

「なるほどなあ」

 佐治さんも、世良月の言葉に頷く。

「つまり月ちゃん的には、中学生とか探索者には決まった役割があり、それをまっとうすること以外に労力を傾ける必要がない。

 そんな風に考えているわけか」

「専業の探索者にもいろいろな人種がいるけど」

 香椎さんはそういって、なぜか軽くため息をついた。

「どんな探索者にもある程度共通しているのは、徹底して現実主義であるってことなんだよね。

 そうでないと、探索者として生き残ることが難しいし。

 周囲に探索者の大人が多い環境で育った子どもは、そういう、必要なことを優先してそれ以外のことを軽視する。

 そんな性格になりがちだと思う」

 なるほどなあ。

 と、智香子は心の中で納得をした。

 周囲に探索者の大人が多い、環境。

 今の世良月を取り巻く環境、そのものではないか。



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