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女子中高校生が部活で迷宮に入るだけ。 東京迷宮_2015~  作者: (=`ω´=)
〔二千十六年度、智香子、中等部二年生編〕

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連休明け

 補習づくし連休もつつがなく終了し、智香子たちにも日常が戻って来た。

 智香子たちがロストに巻き込まれたことは学校中に知れ渡っていたので、連休開けの朝から智香子たちはそれぞれの教室で取り囲まれ、質問攻めにあうことになった。

 松濤女子では、普段から探索者として活動する生徒自体は決して珍しくはない。

 しかし、ロストを体験した生徒となると、そんなにいなかった。

 松濤女子全体で見ても、在学中の生徒がロスト事案に巻き込まれるのは数年に一度くらいの頻度でしかなく、智香子たちはかなり貴重な証言者ということになる。

「ロストといっても、迷宮から出にくい状況になるってだけで、それ以外は普段の探索とあまり変わらない感じだったけどなあ」

 クラスメイトたちから発せられる細かい質問に答えながら、智香子はそんな風に思った。

「エネミーを倒しては次のエネミー目指して移動して。

 それを、延々と繰り返していただけだし」

 ただ、普段ならすぐにでも切りあげることができる作業を、自分の意思で中断することができなくなる。

 そういう状況を強いられることは、確かにかなりの苦痛だった。

 そうしたうざったさを第三者にも理解できるように説明をするのは、実際にはなかなか難しい。

 さらにいえば、迷宮内での活動を経験している探索部員ならば多少は想像可能なとっかかりを持っているのだが、それ以外の、迷宮内での経験がない生徒たちにそうした子細を理解可能なように説明することは、ほとんど不可能に近い。

 ロスト事案が解決した直後に、智香子は両親にそうした説明を試み、かなり苦労をし、その結果、全然正確には伝わらなかったような気がする。

 探索者としての経験がまったくない人に、迷宮内でのあれこれをうまく説明するのは、かなりの難事といえた。


「すぐに静かになるよ」

 放課後、委員会が使用している教室に集合してから、黎はそんな風にいった。

「話題性があるのは、せいぜい今日一日くらいじゃないかな。

 そんなに派手な内容でもないし、みんなすぐに興味をなくすと思う」

 そうだろうなあ、と、智香子も心の中で頷いた。

 ロストというのは、巻き込まれた本人にとってはそれなりに深刻な経験だったが、第三者からすればさほどドラマチックな内容というわけでもない。

 というより、単調な作業の繰り返しを強いられることが、一番きつかった。

 そうでなくても、迷宮内の光景というのは単調で変化に乏しく、どこか人間的な存在を否定しているような、無機的な雰囲気がある。

 ロストに巻き込まれなかったとしたら、決して長居をしたくなるような空間ではないのだ。

 松濤女子探索部をはじめとして、大多数の探索者たちが一回あたりの探索をごく短時間のうちに切りあげるのは、それなりに理由があるのだろう。

 なんというか、あそこは、人間という存在を拒絶しているような雰囲気がある。

 ただ、そうした心証も含めて、迷宮内部の空間を体験していない人にうまく説明するのは、かなり難しかった。

 それに。

 と、智香子は思う。

 探索者以外の人が迷宮に対して、深く興味を持つことはほとんどない。


「ああ、いたいた」

 そんなやり取りをしていると、千景先輩が教室に入ってきて、そんな風に声をかけてくる。

「ロスト組、全員揃っているね。

 ちょうどよかった。

 ええと、ロストした時に経験したことについて、少し詳しく説明して。

 できれば文書として残して欲しいんだけど」

「それって、探索部で共有する情報として、ということですか?」

 香椎さんが確認した。

「公社の人たちから繰り返し同じ事聞かれたから、同じ内容をテキストにまとめるのはそんなに難しくはないですけど」

「難しくはないけど、面倒ではあるよね」

 佐治さんが、本音を漏らす。

「報告書と、それから、ロストに巻き込まれた時に有効と思える対処法とかも、書いて貰えると嬉しい」

 千景先輩は、佐治さんの本音には構わず、そう続ける。

「ああ、それは」

 それならば、すぐにいえる。

 そう思った智香子は、思いついたことをそのまま口に出した。

「装備品や着替えは、普段から多めに持ち歩いておいた方がいいと思います。

 特に、下着」

「なるほど」

 千景先輩は神妙な表情で頷いた。

「それは深刻な問題だ。

 そういう注意事項も、ちゃんとまとめておいて。

 多少時間をかけてもいいから」


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