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防衛戦の難しさ

指示された飛行船に震電を戻して少し休んでいると、船員に呼ばれた。

案内されるままに飛行船同士をつないだ渡り板を通って別の飛行船に乗り移る。連れていかれたのは、会議室らしき広間だった。


広間にはすでに10人近い騎士団員がいる。

ガラス張りになっていて、その向こう側には飛行船団が見えた。

穴の開いた気嚢の修繕とかをすすめているのか、小さな明かりが外部のフレームにいくつもとりついている。夜を徹してっての修復作業って感じだろうか。


「無事でよかった、ディートレア」


駆け寄ってきたサラが騎士の敬礼をしてくれたからそれに応じた。


「すまない、お前を置き去りにしてしまって」


本当にすまなそうにサラが言うが。


「お前も無事でよかったよ。まあどうにかなったんだし。いいってことにしておこうぜ」


あの時点ではあれが最善だったと思う。結果的に俺が囲まれたが、逆もあり得た。

気に病まれても仕方ない


「しかしあれから2週間だぞ。死んだとおもっていたが……どうして生き延びたんだ?」


サラが聞いてくる。

常識的に考えれば、生きているはずもない、という話だろう。この間の出来事をどういうべきなのか。


「まさかとは思うが……エストリンの捕虜になっていたのではないだろうな」


バートラムが口をはさんでくる。その目は、内通しているんじゃないか、と語っていた。

さっきからなにやら周りの船員とかの雰囲気がピリピリしてると思ったが……


「待て待て、誤解するな。

エストリンの捕虜にはなってないし、内通なんてしてないぞ。内通してたらそもそも今日お前らを助けはしないだろ」


「俺たちを欺くための演技ということもあり得る」


バートラムが普段の演技の軽い調子じゃない、硬い口調で続ける。

確かに、俺が裏切り者で船の中で問題でも起こせば、と心配するのは指揮官としては当然か。

そもそも、騎士単独で飛行船の援護もなく2週間を生き延びるなんてことはできない。食糧なしの筏で海を漂流するようなもんだ。


「まて、違う。説明するから」


とりあえずこの間起きたことをなるべく正確に話した。

知らぬ存ぜぬで通せる状況じゃないし、嘘をついて破綻したらそれこそ取り返しがつかないことになる。

口先で乗り切れることもあるが、それをやっちゃいけない場面は経験から心得ている。

一通り話し終わると、全員が沈黙した


「……そのヴィンドガルドとやらの場所はわかるか?」


「分からない」


誰かの発した問いに答える。疑わしげに騎士の一人が俺をにらんだ。


「本当だ。移動の間はずっと船室に閉じ込められていたからわからん。その辺はあいつらも隠していた」


「なぜシスティーナがお前を助ける。あの紅剣クリムゾン、システィーナが」


きつい口調で別の誰かが言う

そういえばメイロードラップで3基ほど騎士団の騎士を倒した、とか言っていたな。賞金もかけられているし、騎士団から恨まれていても当然だろう。


「分からん。これは本当に分からん」


修理までしてくれて特に何事もなく解放した、というのは俺から見ても相当に異常だと思う。

俺を好敵手として評価してくれてる、というのもあるんだろうが、それ以外になにかの思惑があるのかもしれない。

ただ、俺にはその辺はわからない


ただ、俺でさえ謎なんだから、それを聞かされる騎士団員にとってはもっと謎だろう。

因縁の敵対相手は殺すのがおそらく当然だ。

何度でも強い相手と戦いたい、というシスティーナの気持ちは俺にはなんとなくわかるが、あいつの行動パターンもおそらく相当この世界の基準からは逸脱していると思う

気まずい沈黙が流れた。俺からは何か言ってもかえってもめそうで口が出せない


「指揮官殿、私は……正直よくわからない点もあるのですが、少なくともディートレアは裏切りや内通はしていないと思います。あの戦いぶりをみるに」


サラがいってくれる。


「私もそう考えます。メイロードラップの時の戦いを見るに、海賊に与することはないかと」


もう一人の騎士団員が言う。バートラムが考え込んだ。


「俺もそう思うよ……」


「しかし、隊長」


そう言ったバートラムに何人かが抗議の声を上げるが、バートラムがそれを手で制した。


「言いたいことは分かるが……こいつは……なんというか、そういう策をめぐらすタイプじゃない。敵に回ったらそのまま敵として突っ込んでくるタイプだ」


褒められてるんだかディスられてるんだか分からんが。バートラムが言ってくれる。

何だかんだで信頼を勝ち取れたってことか。


「だが、一応見張りはつけるが、いいな?」


「ああ、もちろん」


営巣にぶち込まれてもおかしくない状況だ。見張りがつくくらいは当然だろう。


---


一部まだ不審な視線は感じるが、俺の話は一応これで一区切りになった。

今後の作戦会議が始まるが。


「この防衛ラインは放棄するしかない」


開口一番、苦々しげにバートラムが言った。


「本島の防衛部隊と合流する。飛行船の損傷が大きすぎる」


「この後ろの島はどうするんだ?」


飛行船からも見えたが、この後ろにはフローレンスの領土というか大きめの島が浮かんでいる。

ここで防衛ラインを放棄して撤退すれば占領されてしまうが。


「カヴァリ島は放棄せざるを得ない……どうやらあいつらは町への攻撃をする気は無いようだ。島の真上を戦場にはできん」


バートラムが苦々しげに言う。


「信用できるのか?」


「セスト島は占領はされているものの目立ったトラブルは起きていないという報告を受けている

腹立たしいが、今は信用するしかない」


「消極的すぎないか?本島の間近で防衛ラインを引くのは危ないだろう」


「前のセスト島の防衛のとき、10機ほどの騎士が防衛ラインを抜いて侵入してきたんだ。どうにか止められたが、あのままだとどうなったかは分からない」


騎士の一人が教えてくれる。


「同じ轍を踏むわけにはいかない。ここを抜かれれば、本島の防衛ラインが強襲を受けることになる……引いて戦力を整え、守りを厚くするべきだ」


バートラムは言うが……珍しく自信無さげな口調だ。なんというかチームの新人監督みたいな風情だな。


そういえば大規模な戦争は起きていない、と言う話だったし、騎士同士の戦いで防衛とか撤退の戦術の蓄積もないんだろう。戦史については俺も詳しくないが。

とりあえず、今は本島の守りを優先するという事だろうか。


それに、よく考えれば、騎士の空戦は海や陸の平面での戦いとは違う。極端な話、防衛ラインの上や下をすり抜けていくことだって可能だ。

地球と違って要塞線を構築して足止めなんてことはできない。

戦争は守る側が有利、攻め手は数をそろえないといけない、というのは地球では常識だが、ここでは必ずしもその常識は通じないかもしれない。


それに、守る側には守る側の難しさがある。

攻撃する側は死と破壊をふりまけばいいかもしれないが、守る側は島や市民を犠牲にして戦うわけにはいかないという制約がある。

完全な空戦であるこの世界は恐らくかなり守り難い。兵站さえ整えば攻める側の方が毟ろ有利かもしれない


本来なら守り切りたいんだろうが……フローレンスの騎士団は少数精鋭で領域内の海賊との戦闘を主に想定しているらしい

大規模な会戦は二の次なんだろう。それにそれに備えた大量の騎士の配備も難しいか。


「あいつらの目的はなんなんだ?」


そう聞くと、少し迷ったような顔で俺を見てバートラムが首を振った。分からないってことか。

地球の常識だったら宣戦布告なり、なんらかの要求をしてくると思うが、何もないのか。

何か目的があれば外交交渉で対応もできるんだろうが。


勿論暇つぶしに侵略を始めた、なんてことはありえない。何か目的はあるだろう。

ただそれが分からないのではどうしようもない。

厄介な話だな


---


「そういえば……黒歯車結社って聞いたことあるか?」


聞き忘れるところだったが思い出した。

これは聞いておくべきだろう。全員が怪訝そうに顔を見合わせた。


「さあ……聞いたこともない」


「歯車結社ではないのか?」


歯車結社はフェルやシスティーナが教えてくれたところによると、かつてこの世界を支配していた魔法使いとの戦いにおいて騎士の原型である機械仕掛けの神デウス・エクス・マキナを作った技師の集団らしい。


巨大な出力を持つコアを核にしたとんでもない高性能の騎士だったらしいが、魔法使いとの戦闘でほとんどが失われ、そのコアもろとも雲海の藻屑となった。

で、その技術を基礎として今の騎士が作られているそうだが。


「黒歯車結社とは何だ?」


「今日戦った奴がそう名乗ったんだよ。まだら模様の装甲の騎士の乗り手が。黒歯車結社の賞金稼ぎだ、と」


「ああ……あいつか」


バートラムがつぶやく


「明らかにおかしな騎士だったから何者かと思っていたが」


さすがに気づいていたか。

ステルス装備の騎士もそうだが、あれはあのハデハデしい見た目からしてどう見ても正規軍の物じゃない。


「歯車結社は工業ギルドに吸収されている。他の国でも大きな差はないはずだ」


バートラムがいう。


「あくまで彼らは技師の集団だ。単独で活動して賞金稼ぎを抱えているなんてことは効いたこともないな」


「歯車結社を名乗っているだけの海賊かもしれん」


「だがそれが意味があるのか?」


「そもそもエストリンの正規軍になぜそんなのがいる?」


周りの団員たちが口々に話し合う。


黒歯車結社というのがなんなんのか分からないようだが。

ただ、亡霊シリーズやマリクの槍騎兵ランツィラー、今回戦った宵猫アーヴェント・ミーツェ、あの辺を作っているのはそいつらだろうという気がする。

もし歯車結社とやらが技師の集団と言うなら辻褄が合う。


そして、一部はフローレンスにも紛れてきているはずだ。マリクとはフローレンスで顔を合わせている。

ただ、俺にできることは少ないのは歯がゆい。これも色々と厄介なことだ。


「いずれにせよ、防御を固めつつ後退する。総員、船に戻って出撃に備えること。警戒を怠るな」


バートラムが言って、作戦会議が終わった。


宵猫アーヴェント・ミーツェ


工房・黒歯車結社


黒歯車結社の実験機の一つ。

外見的な特徴としては、左右の上腕部の装甲が大きく膨れていて、猫の爪を思わせるブレードが伸びている。

黒と黄色のまだらに塗られた装甲と尻尾のように伸びる飾り布は乗り手のミオの趣味。

なお、ミオは海賊の賞金稼ぎ兼フリーの騎士の乗り手。


右手はごく普通のエーテルブレード、左手は高熱を発するヒートブレードを装備している。

このヒートブレードはエーテル装備ではない実体剣であるため、エーテルシールドやブレードでは止められない。


また、独特の装備として、掌に当たる部分に霰弾ヘーゲルヴァッフェという武装を搭載している。このため手や指は存在しない

これは腕部に内蔵した大口径の砲身から楔状の刃を散弾銃のように打ち出すというもの。


黒歯車結社の工夫により、カートリッジを取り換えるような機構を組み込み、排莢と再装填ができるようになっている。この機構と予備弾倉を納めるため、腕部が大きく膨らんだ特殊な形状をしている。

連射は効かず有効射程は短いものの、当たり所が悪ければ装甲を一撃ではぎ取って内部構造を引き裂くほどの威力がある。

またこれも実弾のためエーテルシールドでは防げない


作中では使用していないが、きわめて短い時間ながらステルスを展開可能。

機動特性も瞬間的な加速性能を重視しており、距離を詰めたら張り付き続けやすい。

距離を詰めたら、エーテルシールドで防御できないヒートブレードや霰弾ヘーゲルヴァッフェにより攻撃する、一騎打ちで近接距離の制圧力に特化した騎士。

高機動による一撃離脱を得意とする震電とはタイプの違う近接強襲型。


一度距離を詰めれば瞬間的な加速性能の高さにより近距離を維持しやすく、エーテルシールドでは防げない火力の高い武装をそろえているため、至近距離では無類の強さを発揮する。。

一方で瞬間加速性を重視した結果、絶対的な速度はそこまで高くないこと、左右のブレードの使い分けのためには位置取りが重要であること、霰弾ヘーゲルヴァッフェは射程がかなり短いこと、中距離での飛び道具が一切ないこと、という弱点も持つ。

かなり扱いの難しい騎士でもある。



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