交戦開始
お待たせしましてすみません。待っていてくれた方に百万の感謝を。
帳尻合わせの5連投、行きます。
「大丈夫か?ディートレア」
震電から降りてタラップを下りたところで待っていたのはサラとベルトランだった。
頭巾を脱いで防寒着の襟元を開けると、防寒着に籠っていた熱が抜けて少し気持ちが緩む。
「ああ、なんとかな」
二時間の空戦の後だから疲れてないわけではないが、それを口にしたと言ったら士気が下がる。
「戦況はどうだ?」
「苦しいな」
サラが苦々し気に言って、ベルトランが疲れた顔をする。
二人とも明らかに疲労の色が濃いが、多分それは俺も同じことを思われてるだろうな。
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フローレンス・ローザの演説後にエストリンに要求の拒否を行った2日後。
エストリンの攻勢が始まった。
今のところ、フローレンス本島から少し離れた空域の二か所で戦線が構築されていて騎士同士の攻防が展開されてる。
こっちは主に民間からの志願兵が守っていて、便宜上第二防衛線と呼ばれている。
フローレンス中の騎士の乗り手たちと騎士団で数はかなりそろったが、空戦は要塞線や塹壕で足止めできないから、強引に押し込まれると完全に進撃をとめることは難しい。
フローレンス・ローザの演説やその場での盛り上がりは凄かったが、いざ戦闘になると気合いと根性と士気で物量差をはひっくり返らない
ただ、どうなることかと思ったが……エストリンは二手に分かれて攻撃を仕掛けてきていて、今のところ強引な突破を図る様子はない。
「おそらく全力では来ていないな」
「だろうな。明らかに攻め方が違う」
サラがうなづく。
今までは飛行船の防衛線を壊すようにしていたらしいが……今のところ、数を頼みに防衛線を力押しするような気配はない。
迂回して本島を狙うって動きでもない。
「単純にこちらの戦力というか騎士の数を削りに来ているな」
「おそらくなんだが、騎士の数を削りに来ているというか、こちらに消耗を強いる戦術だろう」
「飛行船と騎士だとどっちがつくるのが大変なんだ?」
「飛行船に決まっているだろうが」
ベルトランがあきれたような口調で言う。この辺のことは良く知らないが。
「確かに騎士はコアを必要とするが、この大きさを見ればわかるだろう?」
そういって天井を指さした。
この飛行船は民間の大型の貨物船でシュミットの輸送船とはかなりサイズの差がある。
下部に騎士を搭載する船倉のようなものがついていて、吹きっ晒しのシュミットの輸送船とはその辺もかなり違うが。
複雑に組み合わされた金属の骨組みや気嚢の配置とかを考えれば、そりゃ聞くまでもなかったかもしれない。
「騎士を削りに来て、飛行船は落とさないつもりかね」
「恐らくそうだろうな……飛行船は接収して使うつもりなんだろう」
「我ら相手に余裕を見せて戦うとは……全く許し難い!」
ベルトランが答えて、サラが吐き捨てるように言った。
単に本島を落とすだけなら今まで通りに力押しで飛行船の防衛ラインを壊して、そのまま本島まで騎士を攻め入らせればいい。
本島の上空で騎士の戦いをやるのは、それこそスペースコロニー内で戦闘をやるようなもんだ。
フローレンス側としても降伏せざるを得ない。
ただ、今の敵の動きを見る限りでは。騎士の消耗させて、できれば降伏させたいんだろうという気はする。
騎士を失えば飛行船は降伏するしかない。そうなれば本島は丸裸。結局は降伏以外に選択肢は無くなる。
本島の目前まで迫ってしまえば、無理に力押ししてする必要はないってことか。城を包囲されているような状況だな。
飛行船は壊す分には簡単だが。輸送に騎士の拠点。飛行船の用途は多様で、数が多くても困りはしない
本気で魔導士領攻撃のためにフローレンスを占拠するつもりなら、市街地に損害は無い方がいいし、飛行船も壊滅させるより接収できる方がいい。建造にかなりの時間を要するというなら猶更だろう。
騎士は……極端な話、自軍以外は全滅させた方が安全って思ってそうだ。
話しているうちに、もう一機、格納庫に騎士が入ってきた。
タラップから降りた乗り手ががっくりと突っ伏して船員たちが周りを支える。
騎士での戦いで集中して飛べるのはせいぜいで2時間が限界だ。
フローレンス・ローザの演説で商会所属の騎士や自由騎士も含めてかなりの数が参戦してくれたが。それでも、数で負けていることには変わりはない。
戦いが続くと、どうしてもこちらのほうが休憩の時間が短くなる。おまけに同じ一機の戦闘不能でも80機のうちの1機と120機のうちの1機じゃ重みが違う
数に任せて攻撃を継続されているからこちらとしても気が休まらない。
こっちの戦意はまだ高いが、それでもいずれは尽きる。
このままだと不利なのは誰もが分かっているが……突然素晴らしい反撃のアイディアが閃いたりはしない。
そんな都合が良ければいいんだがな
「アレッタは?」
「さっき戻ってきた」
そう言ってベルトランが指を指した向こうにはアレッタと風精の姿があった。
整備員と、以前見た彼女の叔父さんが何か話してる。かなり特殊な仕様だから整備にも手間がかかりそうではあるが、幸いにも見た目に傷は無かった。
アレッタが俺の方を見てこっちに歩いてきた。
「無事でよかった」
「そちらこそ、ディートさん」
前と同じように目元を髪で隠したアレッタは表情が読みにくいが、口調はあまり疲れた感じではない。
俺よりよほどタフだな。
「どうだった?」
「少しは撹乱できたと思います」
アレッタの風精は敵の裏を取って飛行船団に牽制をしに行っていた。護衛を何機かつける、と言った騎士団の申し出を拒否しての単独行だ。
他がいると足手まといになる、といって一人で行ったんだが……たしかにあの圧倒的な足の速さを考えれば、下手に護衛をつけるよりは自分一人のほうがいいんだろう。
逃げに徹すればあの騎士に追いつけるのがいるとは思えない
火力は乏しいからもちろん船団への大きなダメージは期待できない。
ただ、直接奇襲をかけられれば少しは相手にとっても圧力になるはずだ。
「姉御、ご無事で」
「生きてたか、二人とも」
話をしている所でグレッグとローディが戻ってきた
「戦況はどうだ?」
「いやな感じです、姉御。あの突然消えたりする騎士がやりにくい」
グレゴリーが腹立たし気に言う。そういうえばあいつらはそういうの騎士も持ってたな。
俺は灰の亡霊との戦いでいい加減慣れてきたが……初見だと対応は難しいだろう。
「それになんか妙な騎士が出てきてたぜ、なんかデカくて機体の左右に白い光の玉がくっついてる奴だ」
ローディが言う。
……アリスタリフ家だか何だかが載ってた白の亡霊のバージョンアップ型だ。機体名は聞いた気がするが覚えてないな。嫌な奴が出て来た。
それを聞いて、ベルトランの顔色が変わった。
「あいつか……」
「いくぞ、ディートレア!」
ベルトランが騎士の方に歩き出した
「あれは我らでなくては歯が立つまい。それに借りを返さねばならん」
そう言えば、メイロードラップの時はあいつにやられて戦線離脱していたな。
あいつは複座だからこっちが2人でかかっても文句はないだろう。一機で相手にするのはしんどい。
「よし、いくか」
頬を張って気合を入れ直す
「ローディ、グレッグ、しばらく休んでろ。休むのも仕事だぜ」
休憩をとることの大事さはトレーニングの合間に散々教えたから分かってると思うが。
「ああ、分かってる。一息入れたらすぐ援護に行ってやるぜ」
「姉御、ご無事で」
グレッグが敬礼してくれる。ローディは分かっているのかいないのか分からんな。
糖分補給に砂糖菓子を口に放り込むと、ざらっとした砂糖の強い甘みが口いっぱいに広がった。
続きは明日に纏めて4話です。よろしくお願いします。