8話 クリスティーア
「ルカ、お前、組織に入らないか?」
「え、?」
アーロンの言葉に目を見開く。
ルカは今も混乱していて、まともに頭が回っていない。
「そうだ。さっきの能力は素晴らしかった。最初はどこかに就職できるまで支援するつもりだったんだが……≪能力≫持ちならスカウトした方がいい。」
「の、≪能力≫?私がですか?」
「?ああ、ほぼ間違いないだろう。それにしても、何を願ったらあんな力使いこなせるんだ?転移者様にはすごい力が与えられると聞いたことがあるが……それなのか?」
ルカは心のどこかで、あれは自分の力ではないと思い込んでいた。
だって、意識がフラフラしてて、あの力は自分の力ではなかったから。
漫画の中の最強に憧れた。だって、かっこよかったから。
その立場になると思うと、眩暈がした。だって、≪能力≫なんて危ないもの、どうしていいかわからないから。
「……わかりません。」
ルカは自分が、平凡な中学生であることを自覚していた。
勉強も、運動も、友達も、学校生活も、そして、自分自身も。それらすべてが普通に与えられて、ただ普通に生きていた。
性格も普通だった。
幼いころは泣きまくって、わがまま言って。小学校では社会が求める大人の土台を作らされた。
そんなルカの心の奥底にある言葉はいつも同じだった。
『自分の為じゃなくて、誰かのために行動しなさい。』
『誰かに優しくなりなさい。』
『『誰かの為に。』』
それがいつも、まとわりついてくる。
だから、私には何もない。
簡単に洗脳される、意志の薄い存在。
そんな存在に、≪能力≫なんて芽生えるわけがない。
「あれは、私の力じゃない、です」
「つまり無意識だったと?」
アーロンの目が金色に煌めく。
なんとなく下を向いて小さく返事をする。
「……はい。」
「そうか。」
アーロンの目は元の色に戻る。
「でも、能力を研究されているトップには会って貰うが、いいか?」
ルカはこの現象の意味が分かるかもしれない、と考え、頷く。
「わかりました。連れて行ってください。」
ーーーーーー
組織の場所は近くにあった。
花園のような場所に建物が建っていた。
見たことない場所なのに、どこか既視感を感じる建物は、いたるところが花で埋め尽くされてた。
建物は不思議な形をしていた。出入り口がある建物は五角形で、四つの建物と廊下でつながっていた。
廊下はかなりの距離があり、建物は一つ一つが一軒家と同じくらいの広さはあるだろうか?
キョロキョロと辺りを見回していると、アーロンは慣れたように、建物の裏に回り込む。
ついていくと、美しい女性が紅茶を飲んでいた。
金髪、碧眼、高身長の彼女は、アーロンを見ると、お淑やかに微笑んだ。
「お疲れ様、アーロン。」
「ありがとうごさいます、クリスティーア様。」
クリスティーアの長い髪がわずかに揺れた。
金色のレースの隙間から見える耳は長かった。
エルフ耳、と呼ばれる奴だろうか?
彼女の澄んだ瞳がルカをとらえる。
「貴女はどうしたの?」
「すごい≪能力≫を持っていたので、来てもらいました。」
「そう。アーロン、少し下がっててくれる?」
アーロンはぎょっとして言う。
「クリスティーア様っ、それは……!」
「スミレもいるし、問題ないわ。」
「……わかりました。何かあれば、お呼びださい。」
それだけ言うと、アーロンは建物の中に入っていった。
クリスティーアはルカにもう一つの椅子に座るように促す。
いつもより背筋を伸ばし、椅子に腰を掛ける。
「わたしはクリスティーア。この組織の長よ。貴女は?」
「ルカ、です。」
今の所、苗字を使ってる人は見てないので、名前だけ名乗る。
「そう、良い名前ね。ルカ、貴女は何でここに来たの?」
「えっと、連れてこられただけで……。」
クリスティーアは目を細める。
「いいえ、貴女はわたしに聞きたいことがあるわ。それを聞かせてくれる?」
クリスティーアには人を引き付ける何かがあった。
悩みを相談したくなるような、穏やかな雰囲気。
ルカは気が付いたら悩みを口にしていた。
転生したこと。
能力に目覚めてしまっているのかもしれないこと。
体が操られるようになったこと。
全てを。
クリスティーアはずっとにこにこしていた。
「話してくれてありがとう、ルカ。」
「えっと、クリスティーアさ、様は……」
「長くて言いづらいでしょう?クリスでいいわ。」
「じゃあ、クリス様は≪能力≫について、詳しいんですよね?この現象について、何かわかりますか?」
クリスティーアは下を向いて悔しそうにする。
「いいえ、わたしは詳しくないわ。≪能力≫について教えてあげられことはない。」
でも、とクリスティーアは続ける。
「でも、安心しなさい。ここでは貴女が主人公。貴女が……貴女の願いを叶える場所よ。
いらっしゃい、私の大切な……『フラワーガーデン』 へ。 歓迎するわ。」




