17話 その串焼きは罪の味
ユーカと名乗った少女は見かけに合わない言葉遣いでルカに応えた。
そんなユーカの手を引っ張り、立たせた。
ボロボロのワンピースの所為で素肌が見えているユーカの手足を確認した。きめ細かい肌に、目立った傷はなかった。怪我をしていないことを確認すると、ルカはできる限り優しい声で問いかけた。
「ユーカさん、こんな所で何していたんですか?」
「わたくし、兄を探してここに来たのです。このあたりで見たという情報があったので……後先考えず飛び出してしまいました。」
「そうなんですか……」
ルカは日本で培った空気を読むスキルのおかげで、ユーカに詳しく聞き出すようなことはせず、悲しそうに笑った。
「それでも、自分の事を大切にしなきゃだめですよ。あ、あそこのお店からいい匂いがします!行ってみましょう。」
「え、ええ。承知しました。」
ユーカは丸い目をさらに丸くして驚きを現した。ユーカには悪いが、彼女はやせすぎている。身長もあるし、胸も普通くらいはあるのを見るに、普段の食生活は普通なのだろう。しかし、兄を探すために焦っていた彼女はおそらく、食事をあまりとっていなかったと予想した。
何にしろ、食事をとらせた方がいい。
ルカは近くにあった露店にユーカを連れ込む。
「初めまして、お兄さん。これ一つください!」
店員は表情の変化が多いお兄さんだった。急に現れたルカ達に驚き、ユーカに気が付くと顔をゆがめ、店員として笑みを浮かべる。忙しそうだなぁと思った。
お兄さんは営業スマイルを浮かべて接客する。
「はいよ、串焼き一つね。他には何か買ってくかい?」
ルカは肉が串にささった、焼き鳥の豚や牛バージョンを買うことにした。
ユーカの好みがわからないので、勝手には頼まない。まず自分が食べたいものを頼んでユーカが頼みやすくする、ルカなりの精神的配慮のつもりだ。
「ユーカさんは何が食べたい?」
「え、わたくし、ですか?」
「もしかしてお肉嫌いだった?」
首を傾けるユーカに、ルカは申し訳なさそうな顔で応戦する。
最終的にユーカに何か食べさせられたらルカの勝ちだ。このまま逃げ切られるのだけは避けたい。
ユーカはそんなルカの一方的な戦いは、つゆ知らず真剣に話す。
「でも、わたくし、金銭を所持していないのです。なので、ルカさんだけ、どうぞ。」
「自分のを買うついでにおごります!」
「でも……」
「お友達記念と言うことで、受け取ってもらえませんか?」
「お、お友達……。」
今まで友達がいなかったユーカにとって、その言葉はとても甘美な響きだった。
押せば行ける、そう思いどう押そうか考えていたが、ユーカの決断の方が早かった。
「そ、そういうことなら……。これを頂いてもよろしいですか?」
ユーカは空腹で限界だった。そんな中、友達記念に貰ってほしい、なんていわれて、断れるはずもなかった。
ユーカが指したのは、一番安い皮の部分だった。そんなにお腹が膨れるものではないが、そこそこ大きさもあり油も少ないので久しぶりの食事にはいいのではないか、と考え皮の串焼きも頼んだ。
紙幣を渡すと串を二本もらえた。
少し歩いて人通りの少ないところで、皮の方をユーカ差し出した。
「あ、ありがとうございます。」
ユーカは控えめに笑い、串を受け取った。
ルカは自分の串焼きにかじりつくと、ジュワっと肉汁が出て、甘じょっぱいタレと絡んで予想よりおいしかった。
タレの味はルカにとって未知のものだったが、予想以上に口に合った。
ユーカもそれが食べれる物か確認するように、端を少しかじり、ゆっくりと時間をかけて咀嚼した。
その串焼きが口に合ったらしく、先程の三倍くらいの量を口に入れ、幸せそうに食べた。
その串はユーカの想像の倍以上おいしかった。町の人はユーカを『裕福な人間』だという肩書だけで判断し、嫌われていった。けれど、それはユーカもだったかもしれない。
ユーカは心のどこかで町の人間を見下していた。お店で何かを買うなんてこともせず、関わろうとしなかった。
かつてユーカは町の人を恨んだ。平等を嫌った。でも、ユーカも、この町の人たちと同様に、同じ罪を犯していたのかもしれない。
皮の一部が焦げていた。わざとではないだろう。串焼きを焼くとき、火の調節が難しいと聞く。
ユーカはその苦みを、『罪の味』として受け入れることにした。




