0話 血の色の少女
少女は願う、優しくなりたいと。
少年は願う、正しくなりたいと。
花を愛する彼、彼女らは願う、大切な物の力になりたいと。
青年たちは願う、家族を守るために守り、壊す力が欲しいと。
聡明な少女は願う、愚かな青年たちに真実を伝えたいと。
死にたいほど苦しんだ少女は願う、生きていたいと。
差別を受けた少年は願う、恩人の力になりたいと。
差別をした少女は願う、罪を償いたいと。
自分を愛せない少女は願う、別人になりたいと。
無力を悔いた少年は願う、強くなりたいと。
罪深い少女は願う、自分の罪を正当化したいと。
狂った男は願う、人を壊したいと。
…幼い少女は望む、優しすぎる少女を、守りたいと。
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血の色を持つ少女は花壇を眺める。
少女はフラリと立ち上がり、花壇に踏み入った。足跡がくっきり残るほど強く土を踏みつけて歩いていく。
彼女は高いヒールを履いていたが、全くバランスを崩さなかった。
ヒールとピンッと伸ばした背筋の所為で大人っぽく見えていたが、本当は幼い子供なのかもしれない。そう思わせるほど幼い顔立ちだった。
それでも彼女の仕草は「ごっこ遊び」で済ませらる程度のものではなかった。どんな天才子役でもこの雰囲気は出せないだろう。カリスマ性というのだろうか?いやそれも適切ではない気がする。一番近いもの、強いて言うのならば、絶対的支配者、だろうか?
少女はまっすぐと前へ進む。足元には踏みつぶされた花々が地面にめり込んでいたが、彼女はなんの気にも留めなかった。
少女はふと顔を上げて横を見る。そこの草を雑に引っこ抜く。人形のように表情を変えなかった少女は美しく微笑んだ。
「見つけた、あたしの”希望”。」
そこにあったのは一輪の花だった。その花は水色、ピンク、紫の三色が美しく混ざったマーブル模様の花弁を持っていた。それはまるで、太陽が出ている時間の空を閉じ込めたような色だった。
少女が触れると血が垂れたように色が変化していった。赤がなじんでいく様子に少女は悲しげな顔で見つめていた。
彼女はドレスのまま土の上に膝をつき、その花をそっと掘り返す。
根まできれいに花を引きぬいたときには少女のドレスは泥だらけで、とても人に見せられるような姿ではなかった。
彼女は口角を上げたまま、ドレスの事なんて気にも留めず、花を抱きしめて歩いてきた道を戻る。
花壇から出ると軽く土を払い落として花壇と反対方向に歩いていく。
着いた場所はおとぎ話に出てきそうなくらい美しい庭園だった。和風の物ではなく、バラを中心として様々な花が植えられていた。
さっきの花壇は素人が適当に種をまいただけ、といった雑なものだったが、この庭園はプロが何年もかけてようやく仕上げた超大作といった感じで、とても豪華だった。
花に噴水にお店のテラス席などに使われる机や椅子なども配置されており、完璧な美しい絵画の中のようだった。少女の服が泥だらけじゃなければ…。
少女はその中の少し開けた場所に花を植えた。花はとても美しかった。花自体も、もとから美しかったのだろう。でも、先程の花壇ではその魅力を引き出せていなかった。
この場所に植えられることにより輝くことができる花、といった感じだろうか。
少女は満足そうに笑うといつの間にか後ろにいた若いメイドに視線を向ける。
メイドは持っていた花束を少女に差し出した。少女はそれを受け取ると、またどこかに移動を始めた。
メイドはそれに我慢できず、細心の注意を払い、不満を口にした。
「お、お嬢様。まさかその格好のままでいるおつもりですか?」
少女は立ち止まることもせず、ゆっくり歩きながら答えた。
「何か問題が?」
「問題って……。泥だらけなのですよ!?せめて着替えてから……。」
そのメイドは少し前まで箱入りのお嬢様だった。家柄的に見れば中の下が妥当だろう。
それでも、その付近では裕福な方だった。そんなお嬢様は急にメイドとして少女に仕えなくてはいけなくなった。そのことに対してとても不満に思っていたが一応、メイドとしての務めははたしているつもりだった。
少女は思った。なぜ一度甘い汁を吸ったものは、どんな生命体だとしても化け物に代わってしまうのだろうか、と。
少女は恐ろしかった。何かを得ることが、何よりの毒な気がして。
美しい彼女も、変わってしまう気がして。
それでも、決意は変わらない。例えこの物語の行く先に、彼女が欲望に染まってしまうバッドエンドがあったとしても、引き返すわけにはいかないのだ。
「泥だらけで、何がダメなのだ。」
「貴方はすべてのトップに立つお方ですよ!?そんな恥ずかしい格好、誰かに見られたらどうするのですか!?」
少女は立ち止まり振り返った。
「大切な者の為に努力する姿を、貴様は恥だと笑うのか?」
「っ、」
メイドが悔しそうに顔をしかめる。
「さっさと去れ。ここから先はついてくるな。」
それだけ言うと少女は歩いて行った。他に気配はない。メイドもついてこなかったのだろう。
少し歩くと水色髪の女の子が眠っていた。気絶している、の方が合ってるだろうか。少女はピクリとも動かず草の上に眠っていた。
「こんな所に寝かせてごめんね、ルカ。」
さっきの威圧的な態度はみじんもない。ただ少女が、ルカと呼ばれた女の子のことを特別視していることはなんとなくわかった。
少女はルカが持っていた小さな赤い花を抜き取り、先程メイドから貰った花束を渡した。
少女は子供らしい、天真爛漫な笑顔を浮かべて言った。
「ハッピーバースデー!!」




