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英雄と呼ばれることのなかった子供達と共に



 海からの風が吹き上がる小高い丘の上――

 その墓地は、静かで、どこか温かい陽だまりのようだった。


 墓前には四人の大人と二人の子どもが並んでいた。

 レーネとルーカス、それぞれの伴侶。そして、彼らの子どもたち。


 年月は流れた。

 姉も弟も今は親になっている。


 レーネはゆっくりと膝をつき、墓標に手を触れた。

 そこには並んで二つ――

〈アドリアン・V〉 と 〈エルゼ・V〉

父と母、やっと2人は、再び、ずっと遠くにいた2人は、今は静かに寄り添うように並んでいる。


「……お父さん、お母さん。久しぶりに来ました」


 レーネの声は穏やかだった。

 ルーカスも、花束をそっと置く。

 かつて父親という存在する否定していた。今は自分がその父親となり、父親の存在というものをはっきりと意識していた。「いない存在」ではなく…

 今は“親”という重さがそこにあった。


 そして、アドリアンの墓標のすぐ隣には――

 石碑が並んでいた。

それは少し控えめにそこにあった。

その表には、丁寧に刻まれた複数の名前がある。

 彼がかつて守ろうとした、戦場に散った少年たちの名。 彼らに家族がいたのかどうか、今はもう誰にもわからない。 だがアドリアンは最後まで少年兵たちを忘れなかった。それは2人の子供を決して諦めないという証でもあった。2人の子供を諦めなかったのはこの少年兵達のおかげなのかもしれない…忘れられようとしていたその子達を忘れないためにも…父親とその子達を共にいさせてあげたかった…

こうして小さな墓碑を建てた。


「……みんな、ありがとう」


 レーネはそっと花を添え、深く頭を下げた。

 ルーカスの子どもが不思議そうにその小さな墓標を見つめる。


「パパ、この小さいのは?」


 ルーカスは少しだけ目を細め、言葉を選んだ。


「……おじいちゃんが、大切に思っていた人たちだよ…」


 その返答に、レーネは静かに目を閉じた。


 みんなしばらく黙って祈りを捧げた。

 風が吹き抜け、花の香りと海の匂いを運んでいく。



温かみのあるリビングには、家族の写真がいくつも飾られていた。


 成人したレーネとルーカスの写真。

 結婚式の写真。

 子どもたちが浜辺を走る姿。

 家族旅行のスナップ。


 その中に、古びた額がひとつ混じっている。


 ガラス越しに映るのは――

 かつて郵便会社で写した集合写真。

 アドリアンが控えめに微笑んでいる、あの一枚だ。


 彼の笑顔は決して派手ではなく、

 むしろ不器用で、どこか照れたような表情だった。


 けれど――


 その写真は今、家族の歴史の中に確かに存在していた。


 レーネの子がその写真を指さす。


「ねぇ、この写真はだれ?」


 レーネは微笑んで答える。


「……お母さんのお父さんがそこにいるの…」


 その声には、もう迷いはなかった。


 遠回りと喪失の果てに、ようやく触れることのできた“家族”という形。

 風のように遅れて届いた、父の気配。

 けれどそれは、確かにここにある。


 リビングを夕陽が照らし、写真のガラスの上で光がやさしく揺れていた。



親子4人は長い時を過ぎてこうしてやっと揃って家族になった…



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