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第百四話 国家方針2

ちょっと話が長くて内容が難しいです。

ですが、ここまで読んでくれた皆様ならば、十分理解できるモノだと思っています。




「それでは10分間が経過したので、休憩を終了といたします」


 俺はタイマーを止めながら告げる。

 スマホを操作していた官僚たちは一斉に指を止め、無言でポケットや机にしまい込んだ。


「ここからは、これからのアルカディア政府の方針についてお話しします」


 俺は元々準備していたプロジェクターを起動させる。

 壁に投影された画像には、パワーポイントでまとめられた簡易的な資料が映し出された。


「さて、これからの国家方針を語るうえで、私たちは5つの五大柱を立てました」


 俺はレーザーポインターで指示しながら話を続ける。


「一つ、インフラの再復旧。それに伴い様々なインフラの見直しと計画的構造改革を行います。

 二つ、治安の回復。各都市での暴動や、無法地帯での犯罪者グループの取り締まりと排除を行います。

 三つ、経済の再構築。流通の機能回復と新通貨の普及を行います。

 四つ、国防の強化。敵外国とモンスターの脅威に対して、最大限の防衛力強化を行います。

 五つ、ダンジョンと冒険者・ギルドの運用。我々アルカディアでは、冒険者を一定程度優遇し、冒険者の拡充を急ぎます。彼らはモンスターに対しての国防の観点で有益であり、人材確保・育成を積極的に推進します」


 これらの制作は、日本政府が行ってきた政策と大きく違う。

 故に、官僚たちの顔色は七変化で、5つの国家方針に対して表情を変えていた。


「順番に説明していきましょう」


 しかし、俺が官僚たちに気を使ってやるほどお人好しでも暇人でもない。

 故に、彼らの表情に対して完全なる無視を決め込んだ。


「まず、1つ目のインフラの復旧なのですが、先ほどの質問に遭った通り電力・水道・通信・交通、国家エネルギーを国営化します。

 それを前提としたうえで、インフラの点検をゼネコンを中心とした土木業者に委託し、3月までに状況を把握。それに伴い、集まってきた情報を元に、都市計画を3月10日までに終わらせ、インフラの復旧と再構築を行います。……ここまでで質問のある方はいますか?」


 その言葉に真っ先に手を上げたのは、先ほど質問してきた早瀬さんだった。


「国土交通省の管理局長の早瀬です。この計画の期間についてですが、これはかなり難しいと言わざるを得ません。電気の送電線だけでも実質距離にして100万キロメートルにもなります。配管に関しても同じ100万キロメートルほどあり、50日ほどの時間では調査は極めて困難と言わざるを得ません」


 100万キロと言ってもほとんどの人は実感が持てないだろう。

 しかし、地球が1周4万キロメートルな事を考えれば、配線と配管の総全長は、地球25周×2の地球50周の距離に匹敵する。


 ……まあ、そんな莫大な規模の調査をたかだか50日と言うのは、到底無理な話だわな。


「ええ、早瀬さんのおっしゃる通りです。確かに全長200万キロメートルの調査は難しい。ですが、それはすべてを調査した場合の長さです。物事には優先順位があり優先度があります」


 俺はスライドを動かし、一つのデータを出す。


「そこで私は優先順位を三つに分けました。大規模都市をティア1とし、中核都市をティア2とします。そして、それ以外の限界集落や過疎地はティア3と名づけ、区分しました」


 ポインターで分かりやすいように指し示しながら、解説を続ける。


「インフラに関しては、まず最初にティア1を中心に作業を開始します。この場合、この図のように63.5%が調査対象外となり、100万キロにまで作業を削減できます。その上で、作業が終わった所から順にティア2へと移行していきます。ティア3に関しては、費用対効果の面から調査・整備は行いません」


 だが、それでもティア1とティア2の合わせた総全長距離は180万キロメートルもある。


 しかし、忘れてはならないのは、俺たちには素晴らしき技術者の涼太がいることだ。


「その上で、アルカディアが開発したトンボ型ドローンによって電線を点検します。問題点が発見されれば業者に位置が送信され、業者によって修理が行われます」


 AIとはなんと素晴らしいことかな。


 いちいち人間が確認しなければならない膨大な作業を一瞬にして行える。

 その結果として、人間の数ある資源の中で最も価値のある『時間』と言う資源が最大化されるのは、なんとも素晴らしい。


「これにより電線に掛かる時間が98%に削減されます。そうなれば、あとはティア1配管の61万キロメートルに減るわけです」


 と言ってもまだ地球15周分の距離だが、ここまで減れば現実的な数字と言える。


「作業開始を1月10日からとして、約50日間。その日数で60万キロを割れば、1日あたり1.2万キロの調査を行えばいい計算となります。現在の土木業者を総動員すれば、決して無理な数字ではありません」


 無理では無いが、これが『官僚の鉛筆ナメナメ』な数字な事は分かっている。

 だが、4月までに調査を終わらせなければ、世界融合の後の対応に支障が出る可能性があるのだ。


「……早瀬さん。他に質問は在りますか?」

「はい、あります。確かにそのように分ければ60万キロほどまで削減はできるでしょう。ですが、問題は人員と人材に在ります」

「…………説明を続けてください」


 俺は早瀬が言う質問の意図が掴めない。

 しかし、それでも自分なりに次に続く言葉を予想していたが、早瀬の言葉はそれを上回っていた。


「現実問題として、上下水道・都市ガスを合わせて3500社。動員人数は3万人ほどいます。電気配線会社は約800社。同じく3万人ほどが居ます。……ですが、問題としてこの人数を総括できる人材が、国土交通省にもゼネコン5社にもいません」

「…………え??……は?」


 俺はその言葉を理解することが出来なかった。


 考えても見てほしい。高度経済成長期にインフラ関連に投入された人数は最高で400万人を超える。


 もちろん、1人の人物が全てを統括していた訳では無いが、それでもインフラに関して多大な功績を残した田中角栄だって、数十万人規模の工事を主導していた。


 それから50年。技術も化学も発展した現代において、たかだか6万人の陣頭指揮すら取れないと、早瀬は言っているのだ。

 理解できないのも納得していただけただろうか?


「……早瀬さん。すみませんが、なぜ陣頭指揮が取れる人が居ないのか教えていただけますか?」


 その質問に早瀬は、先ほどわめいていた財務官僚を一度見た後に、こう口にしたのだ。


「……簡単に言えば、投資不足による経験不足でしょうね。1997年からインフラ関連の投資が減った事で、需要が減少しました。それから30年間、大きな工事が極端に減った事で、大規模な陣頭指揮を取れる人材が居なくなってしまったのです」


 それに俺は頭を抱えてしまった。

 まさか……まさか緊縮財政の影響がここまで出ていたとは思ってもみなかったのだ。


「……すみません。ちょっと少し頭を抱える時間を頂いても良いですか?」


 とは言った物の、もうすでに頭は抱えている。

 それほどまでに衝撃的だったのだ。


 『サプライロス型インフレ』


 その用語を俺は聞いたことがあった。


 インフレとは主に2つの要因によって起こる。

 それが『デマンドプル型インフレ』と『コストプッシュ型インフレ』の2つだ。


 デマンドプルとは、需要が供給を上回ることで起こるインフレ。

 コストプッシュとは、外的要因によりコストが上がる事によって起こるインフレ。


 この二つが主なインフレだが、とある経済学者がこういったのだ。


『自国の需要を自国では満たせなくなるインフレの事をサプライロス型インフレである』


 と。


 そして、この現象が良く起こる国が存在するのだ。それを我々は『発展途上国』と呼ぶ。


 技術が無く、道路や橋を作りたくても作れない発展途上国。

 では、今の日本はどうだ?たかだか6万人の陣頭指揮すらとれない国。それは果たして先進国と呼べるのだろうか?


「……早瀬さんありがとうございます。まさか日本がここまで酷くなっていたとは思ってもいませんでした」


 そして、なぜそんな事が起こったのかと言えば、政府の緊縮財政による投資不足が原因だ。


「確かに、これでは財務省の高官を殺せという過激派が出てくるのも納得がいきますね」


 俺は財務省高官を睨みながら言う。

 それに怯える財務官僚だが、直ぐに目線を外して威圧を解いた。


「……しかし、攻めたからって何かが変わる訳でもありません。それより今は解決策を出す方が先決ですね」


 すぐさま思考を切り替える。生産性の無い事に時間を割くだけ無駄なのだ。


「早瀬さん。では、何人程度ならば陣頭指揮を取れる人材がいますか?」

「……そうですね。精々が5000人ほどでしょうか?それ以上となると、数人程度しかいません」


 なるほど……で、あるならば。


「では、5000人を一つのグループとし、その上にグループを纏める人材を置きましょう。そして、最終的な指揮は私が取ります」


 本当は他人に任せるつもりだったインフラ関連の陣頭指揮。

 しかし、誰も出来ないのであれば、寝る間も惜しんで俺がやるしかない。


「それで問題ないですね早瀬さん」

「はい。大丈夫です」


 こうして俺の休日どころか、睡眠時間さえ無くなった事が決定したが、まだまだ会議は続く。


「それでは次に、治安について話します。先ほど遠藤幕僚長が懸念していた治安に関してですが、我々アルカディアでは逮捕にこだわるような甘い事はしません。冒険者が個人で強力な力を振るえる以上、危険因子を放っておけば大惨事につながりかねないからです」


 その言葉に遠藤幕僚長を中心とした『善人』は眉をしかめる。


「そこで先ほど説明しました特殊な弾丸を使い、冒険者を制圧または射殺を許可します。ですが、冒険者へのモラルハザードを抑制する為に、警察官にはボディーカメラの着用を義務化し、発砲時には審議が行われます。……ここまでで質問は在りますか?」


 それに渋い顔を浮かべる遠藤幕僚長だが、手を上げる事はしなかった。


「……では、質問は無しと言うことで、次の話へと移ります」


 俺は次のスライドへと画面を切り替える。


「三つ目。経済の再構築についてです」


 スライドには、3本の柱と書かれたタイトルが大きく書かれており、それは安倍総理の三本の矢を彷彿とさせた。


「皆さまもご存じの通り、2カ月前の円の停止から日本経済は停止しました。経済状況と治安は因果関係にある事から、治安の回復には経済の回復が不可欠であります。そこで、アルカディアでは3つの経済政策を行います」


 次のスライドへと画像を切り替えると、そこには……。


 『1.JGPによる最低保証』

 『2.円の買取による爆発的経済再生』

 『3.製造業・技術開発への無制限投資』


 と書かれていた。


「まず一つ目のJGPによる最低保証ですが、これはJGP(Job Guarantee Program)によりボランティアを政府が雇います。そのボランティアには街の清掃や道路の状態の確認を主に行ってもらいます。これにより、街が綺麗になり治安の回復効果が見込まれるのと、安定的収入を得る事で経済的にも治安の回復効果が見込まれます」


 この政策で何百兆円もの出費が、年何十パーセントものインフレをもたらすだろう。

 しかし、経済を一刻も早く立て直さなければならない現在においては、AED並みの強力なショックを与えなければならない。


「二つ目の円の買取による爆発的経済再生ですが、これにより大企業が所有していた口座残高のマネーを買い取ります。これにより、企業は初期資金を確保することができ、アルカディア経済への一刻も早い経済参入が出来る訳です」


 企業が強くてニューゲーム状態で経済に参加してきたら、この荒廃した経済は一気に活気づくだろう。

 円の停止により売りたくても売れない企業は山ほどあり、最初の運転資金さえあれば復活できる企業は沢山あるのだ。


「そして、最後の三つ目の政策は、製造業・技術開発への無制限投資です。政府が緊縮財政に走ってから30年もの時が経ちました。政府は投資を渋り、民間はデフレで投資しようにもできない。そんな中で生産業は衰退し、インフラの件のように人材すら育たない。それは暗に、政府の投資不足が原因です」


 皆は勘違いをしているかと思うが、株式投資は本物の投資ではない。

 株式投資の正式な名前は『投機』と言う。


 では、資本主義で言う『投資』とはどういった意味でつかわれるのだろうか?


「投資。それは資本主義の根本にある重要な要素です。我々は投資をするからこそ、生産性を上げ、イノベーションを起こせるのです」


 投資とは資本と言う名の『時間』や『資材』・『労働力』に『資金』と言ったものを総合的に指す言葉だ。


 経済学や会計学で、言葉の意味合いが少し違ってくるほどに曖昧な言葉だが、ここで言う投資とは『将来に付加価値を生み出す物であり、イノベーションを起こす物』と定義する。


「そして、現在の人類国家において投資なくして経済成長はありません。それは、30年間も投資を怠ってきた日本政府と、30年間怠ってこなかった中国が、その証明を物語っています」 


 俺がコミ―とバカにする中国だが、俺は決して中国を侮ってはいない。


 中国政府はこの30年以上前から国の投資を怠っていない。それこそ、GDPの20%超と言う莫大な金額を投資に回していた。

 そんな中国とは違い、日本政府はどうだったのかと言うと、GDPの3%ほどの投資のままずっと横ばいだ。


 その結果として、GDPはあっという間に抜かれ、今や4倍もの差が開いてしまっている。


「故に、我々は積極的に民間へと投資します。その第一歩としてインフラの国営化と投資。さらにはJGPにより民間への雇用の創出を行います。さらには、製造業と技術開発に対して無制限の投資と、食料を作る農業、畜産業、そして付加価値を創出できる製造業。これらに資本を集中投下し、生産性を上げていきます」


 これでも十分な経済政策だが、さらに『イノベーション』を加速させる為の一石を投じる。


「そして、それに伴いアルカディアが所有している技術を民間へと開放し、研究開発に取り組む企業には、税制優遇を与えます」


 国連で各国に公開した情報。それを民間へと開放することで、民間内での競争とイノベーションを起こさせる。


「ここまでで質問のある方はいらっしゃいますか?」


 会議室全体を見渡して官僚たちの顔色を窺った。

 しかし、俺が思っていた反対や賛成の反応ではなく、ほとんどの官僚たちは訳も分からない顔をしている。


 この場で理解を示しているのは財務省をはじめとする金融庁官ぐらいだ。

 その一握りの官僚たちも、これまでの方針と真逆の政策に困惑した顔を浮かべるだけだった。


「……質問はなさそうですね。では、次の議題の国防に関して説明していきます」


 とは言った物の、国防に関しては機密情報が殆どを占めている。

 そのせいで、『修正済み』の資料はほとんどが黒塗り状態だ。


「アルカディアの国防には『修正済み』が主に使用される予定です。他にも『修正済み』の…………」


 と言った感じで、説明でありながら全く説明になっていない状態が10分ほど続いた。


「……であります。これら修正済みの文章に関しては国防省だけに開示されるものであるが為に、この説明でご容赦ください」


 このあまりにも酷い説明に、一部の官僚は怒りを通り越して呆れ顔をしている。

 しかし、そんな顔をしているのは老人でありながら非防衛省の人達だ。


 この情報が後々開示される防衛省を始めとした自衛隊の官僚たちは、一切眉を顰める事は無い。

 それどころか、情報管理の大事さをよく知っているがために、所々頷いていた。


「それでは、最後のダンジョンと冒険者・ギルドの運用について説明いたします」


 俺は最後となるスライドを表示させると、疲れ切った体に鞭を撃ち説明を続けた。


「アルカディアでは、冒険者と呼ばれるダンジョン攻略者を優遇しています。これは先ほどの遠藤幕僚長のお話とも通じるのですが、過去に起きた事のあるスタンピードのような現象に対応するには、冒険者が一番有用だからです」


 もう忘れているかと思うが、ダンジョンが現れて1カ月ほど。俺がエルフに転生したときにスタンピードが起こった。

 あれがどういった意図で起こされたのかは分からないが、きっとクソ女神の警告な事だけは分かる。


 それはさておきとして、世界融合後にモンスターが地上を徘徊するような世界になった場合、今現在の警察と自衛隊だけでは絶対に対処できない。


「警察や自衛隊がモンスターに有効な銃弾を使ったとしても、数万体、時には数十万体のモンスターが相手になった場合、対応は不可能でしょう」


 そして、それが5階層のようなジェネラルゴブリン級のモンスターならば、特殊な銃弾も豆鉄砲になってしまう。

 アマテラスを使えばいいのでは?と思う人も居るだろうが、最低出力が6.7テラジュールの超兵器を都心には到底撃てない。


「そこで、冒険者を国家を上げて育成することによって、それ自体が国防に繋がります」


 これからの時代、冒険者が国家を動かす世界になっていく。それはアルカディアだけでは無くすべての国々が、だ。

 その未来が見えているのであれば、その恩恵を一番作れるような下地作りをするのが、俺の役目だ。


「そして、アルカディアでは特殊な準国家的存在として『ギルド』システムが導入されています。これにより多様な価値観が生まれる事は、アルカディア構想を呼んでいる人なら理解できるでしょう。ですが、ギルドの心髄はそこではありません」


 そう言った瞬間に、官僚たちの瞳には『?』マークが浮かぶ。


 それもそうだろう。彼らは高学歴の官僚だ。故に気が付ける訳が無い。

 だが、もしもここに居るのがMMO好きだったり、ゲーマーだったら何となく察せていたことだろう。


「なぜ、アルカディアがギルドと言う国家単位を作ったのか分かりますか?」


 その質問に誰しもが黙り込み、答えを静かに待った。


「……我々アルカディアは、ギルドを考えるにあたり、私たちはもっとミクロな所を考えました。……そうですね遠藤幕僚長、自衛隊にもダンジョン攻略をしている部隊がありましたよね?」

「……特殊部隊を中心とした部隊だな」

「では、その特殊部隊は何人グループでダンジョン内を行動していますか?」


 その質問に遠藤幕僚長は、刹那の時間だけ考えてから答えを口にする。


「……6人だな」

「ええ、そうです。ダンジョンではパーティーと言う特殊なグループを組めます。このパーティー内では経験値が均等に分配される訳ですが、この6人のパーティーが一つの区切りになっているのです」


 そこまで口にしても、官僚の中から俺の真意に気が付いた者はいないようだった。

 だが、それでも優秀な頭脳は少しずつ質問の内容を咀嚼し、一個ずつピースを組み上げていく。


「では、ここで話を戻しましょう。我々はなぜ準国家の事を『ギルド』と名付けたのでしょうか?」


 その質問に答えれる人はこの場には居ない。


「ギルド、それは昔の言葉で『労働組合』と言う意味を持ちます。ですが、それは歴史の話であり、その血脈を受け継いだ現代の用語で『ギルド』と言う言葉が存在します。……遠藤幕僚長、分かりますか?」


 その質問に、意図が全く読めない遠藤幕僚長は、しかめっ面を深めながら答えた。


「……分からん」

「ええ、そうでしょうね。ですが遠藤幕僚長が分からないのも仕方がありません。この言葉は主に若者……特にゲームをしている人の間で使われている用語だからです」


 それ故に、この場に居る官僚たちの殆どが分からないのは仕方がない。


「そして、ゲームを嗜む若者の間では、ギルドと言う言葉は複数のパーティーが集まったグループ。または、パーティーの枠を超えた大規模なグループの事を指します」


 ダンジョンが存在し、パーティーが存在するゲームのような世界。

 そんな世界にふさわしい言葉として準国家に『ギルド』と名付けたのだ。


「そんな意味合いを持つ『ギルド』ですが、ギルドが存在することにより、ある事が出来るようになるのです」


 そして、アルカディア……いや、強力な力を得た個人を管理しなければならない国家にとって、ギルドは極めて重要な役割を果たす。


「……それは『ギルドによる冒険者の統制』です」


 その言葉を聞いてピンと来たのは、若い官僚たちと遠藤幕僚長だけだった。


「ギルドは先ほど言った通り、パーティーと言う小さな単位にまで分割することが出来ます。そして、冒険者のパーティーとは命を預け合う仲なのです。……さて、遠藤幕僚長。それは自衛隊が良く知っているのではないですか?」


 その言葉に、遠藤幕僚長は目を閉じたまま頷いた。


「ああ、その通りだな。寝屋を共にし、命を預け合う関係では、仲良くないとやっていけん」

「ええ、自衛隊の小隊規模ですら仲良くないとやっていけません。しかし、パーティーは6人なのです。もっと仲良くなければならない事は、容易に想像がつくでしょう」


 さらに言えば、共に成長し合いながらダンジョンを攻略するのが冒険者だ。

 自衛隊の小隊とは比較にならない程、命を預け合い共に進んでいく『共同体』なのだ。


「そして、そんなパーティーが所属するギルドにはそれ相応の忠誠心を持っています。なぜならば、彼らが中心となって作り上げる組織であり、彼らが自ら選んだ道だからです」


 そして、これらの前提をもってすれば、頭のいい官僚たちは察し始める。


「このギルドが中間に存在するからこそ、我々政府はギルドを通して冒険者を間接的にコントロールすることが出来るのです。これがギルドシステムの心髄となります」


 国家権力が直接、強大な個人を押さえつけるのではなく、ギルドと言う中間組織を通す。

 その有用性が分からない人物は、この場には居なかった。


「……結局のところ、冒険者という超人的な存在を制御するには、同じ冒険者社会を用いるのが最も現実的……という訳か」


 遠藤幕僚長の何とも言えない声色に、数名の官僚が微妙な顔でうなずいた。


「その通りです。警察でも、自衛隊でもない。冒険者を制御できるのは、冒険者自身を含む共同体だけなのです」


 俺はプロジェクターの電源を切り、会議を締めくくる言葉を口にした。


「……それでは、これにて全ての説明を終えます。インフラ、治安、経済、国防、そしてギルドシステム。どれも未完成で、これから改善を続けなければならないものばかりです。しかし、この五本柱が揃って初めて、アルカディアは『国家』となるのです」


 ……静寂。

 誰一人として、拍手はしていない。


 しかし、誰しもがスイキョウのプレゼンに圧倒されていた。




『官僚の鉛筆ナメナメ』

机上の空論の事。特に現場を知らない官僚に対して使う、揶揄い言葉。


『サプライロス型インフレ』

サプライ。つまり物を生産する能力を失って(ロス)して起こるインフレ。



このギルドシステムの意味なのですが、最初から思いついていた訳では無く、この話を書くにあたり悩みに悩んだ末、出てきたものなのです。

編集していたもなお、自分でも頷いてしまう程の設定だと自負しています。


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― 新着の感想 ―
言われてみれば土木の陣頭指揮が取れる人材がいないのに納得できてしまう。これが一番ある意味悲しいな
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