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第百話 休日をください

 ここから第五章が始まります。

 第四章で物語が一段落し、これから国家再生の話が続きます。そういうのが好きな方は是非ともブックマークをしてください。(懇願)





 アルカディア革命戦争の終結から1日後の令和11年1月2日。

 戦争は1日も経たずに終わったが、俺の仕事はまだ終わっていなかった。


「配信前に休みをやれるとは言ったが……まさか、俺だけが拘束されることになるとはな」


 皮肉混じりに呟いても、返ってくるのは誰もいない静寂だけだ。


 現在、玲奈は買い物兼視察を兼ねて東京の方に行くらしい。

 涼太に関しては、この冬に発売されたゲームを徹夜でやり込んでおり、今なお部屋に引きこもっている。


 彼らはこの2カ月以上もの期間休みも無しに頑張ってくれたので、今日ばかりは休日を与えたかった。

 そう言った事情で、俺は1人寂しくハプニングの対応に追われているのだ。


「はーぁ。それにしても終戦翌日に動いてくるとはな」


 椅子に深く腰を沈め、視線を斜め上にやる。

 そこにある大型モニターには、衛星からのリアルタイム映像が映し出されていた。


 映像の中心に映っているのは、日本領空を悠々と飛んでいる複数の戦闘機。

 ステルス塗料材のグレー色に身を包み、二つのターボファンエンジンから放出される推力が機体を亜音速で進ませる。


 そして、特に特徴的なのはその『カナード翼』だろう。

 ステルス機でありながら運動性を求めた設計は、明かに中国の瀋陽製J-20ステルス戦闘機だ。


「……ッチ!仕事を増やしやがって。コミ―どもは、こういった時だけ無駄に動きが速い」


 舌打ち一つしながら、こめかみを揉んだ。


 国家として生まれたばかりのアルカディアは、文字通り赤子同然だ。

 国際的な承認はアメリカといくつかの親交国だけ。外交ルートは未整備で、外務省に相当する機関すら今は存在していない。


 そして、国家転覆したことで、自衛隊を含めた国家機関の統制など1日そこらで出来る訳も無い。

 空自をスクランブルで飛ばす事も出来ず、外交的な交渉手段も無い。


 その結果として、中国との交渉どころか、迎撃も容易くは出来ない状況にある。


「……こちらの反応を見ているのか、それとも……単なる示威か」


 いずれにせよ、これは明確な挑発行為と言える。

 そして、嫌な事に中国の無言の意図が、俺には何となく分かってしまう。


 日本とは地政学的に重要な位置にある。

 ランドパワーの二大大国のロシアと中国の頭を押さえるかのように、シーパワーの日本が存在していた。


 しかし、近頃の自民党は中国にべったりで、中国から見てもシーパワーの動きを抑制できる駒になっていたのだ。


 そんな『地政学的緩衝地帯』と言える日本が崩壊した事により、中国が強い危機感を持ったのは言うまでもないだろう。


 そして、その新たな国が宇宙兵器の『アマテラス』を所有し、アメリカとの強いパイプを持っている。

 結果として中国が神経質になるのも無理はない。


 だが……。


「だからと言って、わざわざ領空内を好きに飛んでいい理由にはならない」


 それはそれ、これはこれ、だ。


 中国に理由が在ろうとも、それを汲んでやる必要も無い。

 今現在、中国が領空侵犯をしている事実に変わりは無いのだから。


「『オーディン』聞こえているか?」


 俺が誰もいない室内に声をかけると、静かに機械音声が返ってきた。


『はい、正吾様。ご用件はなんでしょうか?』

「アマテラスを起動させろ」

『……生体認証クリア。回線を接続中……アマテラス起動しました』

「日本上空を飛行している八咫鏡とリンク。現在日本空域内を飛行しているJ-20戦闘機の全てをロックオンしろ」

『了解しました。……全22機のJ-20ステルス戦闘機を認識、ロックオンします。……失敗しました。レーザー照準から画像照準へと切り替えます。……ロックオン成功しました』


 流石は涼太が作り出したAI『オーディン』だ。たった一言で、全てをやってくれる。


「J-20全機の飛行ルートと予想目的地点を出せ」

『了解。中国人民解放軍所属と推定されるJ-20戦闘機、計22機が日本領空に侵入。時速990キロ、高度3,000メートルで飛行中。現在、10機が東京方面に向かって飛行しています。残り12機は、それぞれ4機で連隊飛行で飛んでおり、大阪、名古屋、福岡に向けて飛行しています』


 中国からほど近い5大都市の中の4つを目掛けて飛行しているのか。もしも、爆弾でも落とされた日には、何百人死ぬのかも分からない。


「……J-20の兵装を確認できるか?」

『J-20ステルス戦闘機の兵装は確認できません。ただし、往復距離が4000キロメートルほどありますので、フル兵装は出来ないと考えます。また、画像解析の結果、外部燃料装備がない事からも、フル兵装は無いと考えていいでしょう』

「……なるほどな」


 こう言ったところがAIの優秀な所だ。

 人間以上の精度で、人間以上の速度で、人間以上の答えを返してくれる。


 特に、今みたいな一刻を争う事態の時ほどなおさらに。


「……爆弾を積んでいても、そこまで多くは無い……か。……威嚇の可能性はあるか?」

『高確率で政治的示威飛行と推定されます。ただし、領空侵犯は明白な国際法違反です』


 その回答に、俺は短く鼻を鳴らした。


「はっ!これだからコミ―どもには嫌気がさす。自国で軍事パレードでもしとけよ。……人様に迷惑をかけてはいけないと親に習わなかったのか?」


 なんて、自分を棚に上げながら言いながらも、即座に対応を考える。


「……はぁ、仕方が無い。このまま見過ごすわけにもいかないし、国家である以上は明白な意思表示が必要だな。……オーディン、J-20全機に向けてアマテラスを照射する。初弾は最低出力で威嚇射撃だ。当てるなよ」

『了解しました。全22機のJ-20をロックオン。……座標補正終了。……照準完了しました』


 大型ディスプレイに映し出される、人工衛星からの映像を見る。

 22個に分割された画面全てにJ-20が映し出されており、計算された弾道線が重ねられていく。


『いつでも発射可能です。指示をください』


 そのAI『オーディン』の言葉に、俺は躊躇なく言った。


「撃て」


 俺の放った声と共に、AI『オーディン』は正確に答えた。


 太陽同期軌道上に存在するアマテラスから八咫鏡へと1秒間のレーザーが照射される。


 不可視のレーザーは宇宙空間を光速で飛び、複数の八咫鏡を経由して、日本上空を飛行している八咫鏡がレーザーを受け取った。


 そして、日本上空の八咫鏡は、送信された22個の座標に向けてレーザーを照射する。


 大気中に存在する水分子や塵と反応し、強いプラズマを発生させながら、天のいかずちは2.67ミリ秒(0.00267秒)というあまりにも短い時間で着弾した。


 僅か数メートルを掠めて行ったレーザー光線は、J-20のパイロットから見れば理解できなかっただろう。

 しかし、眼下の巨大な水柱を見れば、いったい何が過ぎ去ったのかを理解しない者はいなかった。 


「さて……これで引いてくれると助かるんだがな」


 俺は祈るように息を吐く。早く休日に戻らせてくれ……と。


 だが、悲しい事に現実はそう甘くはない。


『警告:J-20ステルス戦闘機の全機、飛行継続中。退避行動なし。全機、予定ルートを維持しています』


 AI『オーディン』の無感情な声が、状況の悪化を告げる。

 俺は、無言で天井を見上げた。


「……これで、今日の休日は消し飛んだ……。恨むぞ中国」


 俺は非情な現実を恨みながらも、AI『オーディン』に次なる指示を出した。


「オーディン、先ほどと同じように威嚇射撃。それでも進路を変更しなかった場合、編隊の一番後ろの機体を撃墜しろ」

『……撃墜した場合、中国との関係に障害が起こる可能性があります。……それでもよろしいでしょうか?』

「構わん。どうせこれから内部崩壊していくような国なんだ。構った所でメリットなど些細なものだよ」

『了解しました。再度の威嚇射撃の後、編隊の最後尾機体を撃墜します』


 机の上のマグカップを持ち上げ、冷めきったコーヒーを飲む。


 この2度目の威嚇射撃で退かなかった場合、何人かは確実に死ぬ事になる。

 そうならない事を願うが、コミ―どもの軍隊に撤退など期待できないだろう。


 それは、第二次世界大戦とロシア・ウクライナ戦争が証明している。


『……威嚇射撃まで3、2、1……発射』


 無機質な音声と共に、アマテラスから2度目の閃光が瞬く。

 先ほどと同じように八咫鏡を経由して、J-20戦闘機の間近を通り抜けていった。


「…………やはり……ダメか」


 先ほどと同じように水柱が舞い上がり警告を示したが、J-20戦闘機が進路を変える事は無い。


「……仕方が無いな。オーディン、J-20の撃墜処理を許可する。東京に向かっている部隊は3機落とせ。あとの3つは、1機ずつな」


 流石に3割の戦闘機が落とされれば、コミーどもも戦闘不能と判断せざるを得ないだろう。

 それこそ、これで引き返してくれなければ、J-20を全部落としたのちに報復行動を考えなければならない。


 そうなった場合、休日は夢のまた夢になってしまうだろうが……。


『了解しました。計6機に照準を合わせます。……ロックオン完了しました』

「よし、撃て」


 その言葉と同時に、空がまた光った。

 太陽同期軌道から発射されたレーザーが、八咫鏡を経て6つの光が地表へと降り注ぐ。


 そのレーザーは確実にJ-20の機体中央に着弾し、貫通した。

 高温のレーザーと燃料に引火し、爆発を引き起こす。


 黒煙を上げながら数秒飛んだJ-20は次の瞬間、機体が真っ二つに折れ、尾翼と翼がばらばらに回転しながら空へと散った。


『目標、撃墜を確認。機体は下甑島から約50キロ先の海上にて分解、墜落を確認しました。パイロットの脱出は確認できません』

「……了解。下甑島にこの事の連絡と、海上保安庁に連絡。破片の回収と生存者の確認をしておいてくれ」

『了解しました』


 その返事と共にオーディンは沈黙する。


 今回の件で中国がどう動いてくるのかは分からない。

 しかし、22機のステルス戦闘機の領空侵犯の報復と警告にしては十分なモノだろう。


「はぁ、また仕事が増えたよ。俺に休日がやってくるのは、一体何年後の話なのだろうか?」


 その問いにオーディンは答えてくれなかった。




『カナード翼』

 カナード翼とは、主翼よりも前方に付けられた小さな翼の事。これにより気流を安定させる事で、低速時の安定性に優れるようになる。

 ステルス戦闘機で有名なF-22やF-35と言った西側にはステルス性が下がると言う事で取り付けられていないが、Su-57やJ-20と言った東側諸国の戦闘機によく見られる。


『ランドパワーとシーパワー』

 地政学的用語。この作品で何度か紹介したと思いますが、再度のご紹介をします。

 地政学の定義的には、陸域を支配し、地上軍を中心に領土防衛、制圧、占領能力を重視する国家のこと。(ロシア・中国・ドイツと言った国々)

 逆にシーパワーの国は、海洋覇権により自由な海上交通の確立を重視し、海軍、海上補給、海外基地を重視する国家のこと。(アメリカ・イギリス・日本)


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