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訳あり姫。借金のカタに嫁ぎます!

気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (2)再編集版


私は父の眠っている寝台の横に椅子を持ってきて見守る。お願い、また私の前に戻ってきて、と祈りながら。それにしても、と思考が移動する。誰が、父に毒を盛ったのだろうか。父は良心的な公爵で、王の信頼も厚かった。領民も慕っていた。なんら恨みを買う覚えはない。何か、父は隠しているのだろうか? 

確かに今年は不作だった。それで苦心していたのは知っている。それが、何か?

「・・・め。・・・姫っ」

「え・・・。ああ。ウルガー王子」

 いつの間にかウルガーが部屋にいた。

「一晩付き添うのは無理だ。途中で代わろう」

「でもっ・・・」

 涙ぐむ私にウルガーは肩に手を置く。

「体は弱ってしまうかもしれないけれど、命は助かるよ。大丈夫」

「ホントに?」

「ホントに。大丈夫だから。何かあったらエルノーに知らせをよこすから」

 そこまで言われれば意固地に居残れない。彼は父を助けてくれたのだから。

「お願いします」

 軽く頭を下げて部屋を出る。アルバンがいた。

「姫様、大丈夫でございますか?」

「ええ、少し動揺しいるだけよ。お父様が誰かに恨みを買うなんて信じられないもの」

「そうですね。さぁ。少し、食べ物をお腹に入れて眠ってください。公爵がお倒れになったのであれば姫様がこのオットー家の家長です。しっかりするためにも睡眠はおとり下さい」

「わかったわ。姫、ってそういうことなのね」

「姫様?」

「なんでもないわ。一人言。さぁ、何を用意してくれたの?」

「姫様の大好物を料理長が作ってくれましたよ」

「ありがとう。アルバン。早速いただくわ」

 私は食事の用意がされている部屋に向かった。

 翌朝、窓からもれる光で私は目覚めた。そうだった。執事のアルバンは男性。この私の部屋には入ってこない。そして私の母は幼い頃に亡くなり、私はなんでも自分でやってきた。世話係も湯浴みぐらいだ。それ以外は全部自分でやっていた。アルバンが私の目覚める前に置いていった器の水で顔を洗い、服を着替える。私はあの息苦しいコルセットの設定は使っていなかった。普通に着替えられる。髪の毛を梳き、簡単にまとめる。昨日の夜みたいにめかし込むことはめったにない。化粧もしない。お転婆姫の開店だ。

 扉を開けるとウルガーがいた。一瞬、緊張が走る。

「父は。お父様に何か?」

「いや。しばらくこの伏せった状態は続くみたいだ。君が実質この公爵家の跡取りということらしいね。采配を振る人物が君しかいないらしい。それで、俺たちの国に着いてこない? 公爵がああなれば、いずれ噂が広まって領地は取り上げられるよ。君も政争の具にされる。悪いことばかりが起きるよ」

「そんな・・・」

 ウルガーの言っている事は当たり前のことだった。でも、その事実に私は目の前が真っ暗になった。さらにその後、最悪の事態が待っていた事に私はまったく知るよしもなかった。

父の意識はかすかに戻った。けれど、すぐ意識を失う。これでは公爵の仕事がまともに出来ない。確かにこのままでは廃嫡になる。いくら、私が出来たとしてもこの国の主体は男性社会。姫が代わりに政治をするなどもってのほかだった。それでも私は何か出来ないかと父の書斎に行って机の引き出しを片っ端から開けた。そこに出てきたのは借金の証文だった。今年は不作で特に収入源も減って王国へ納める税金も年貢も足りなかった。父は借金して都合つけていたのだ。その事実に愕然とした。そしてその額を数えてさらに頭が真っ白になった。返すあてがない。それほどの額だった。ここを売り払って領地も館も売り払ってやっと使用人の給料をわずかばかり払えるほどだった。

父が倒れたという噂はすぐにでも立つだろう。あの毒を盛られた事件を目撃した人間は多数いる。いちいち口止めすることなどできない。余りにも不特定多数だ。国王が肩代わりしてくれる保証もない。私は借金のカタに売られるだろう。どこぞの馬鹿御曹司の元へ。その事実に背中に冷たい物が走った。

父の書斎で呆然としていたその時、ウルガーが入ってきた。あふれかえっている証文を見る。

「やっぱりね。君の父上の領地を狙っている人物がいそうだね。そうでなければこんなに簡単にお金を貸さないよ。やっぱり、俺の国においで。借金全部返済してあげるから」

「それで借金のカタに私を妾か側室にでもするつもり?」

「いや、正妃にする。どうせ俺は頭にお花の咲いた王子だ。今更、権力闘争もない。それに俺の国の方が医術は高度だ。父君の病を早く治したければ一緒に来るんだね」

「何を考えているの? こんな何もない姫君に」

「ただの気まぐれ。借金のカタにもらった妃というのはなかなかないだろうし。俺は六人兄弟のまん中でいい加減に育ってるから姫のあっけらかんとした性格にもあうよ。どう?」

「どう・・・って。一日考えさせて。って考える余地もないけれど、心づもりが必要だわ」

「それはそうだね。父君が今、君を呼んでいた。早く行けばいい」

「それをどーして早く言わないのっ。借金なんてどーでもいいわ」

 私は廊下を走って父の眠っている所へ行く。

「お父様!」

「ゼルマ・・・。すまない。私の命ももうすぐ消える。お前に全てを残すのはあんまりだ。ウルガー王子と一緒になりなさい。彼ならお前を幸せに出来る」

「何を言っているの? お父様。ちゃんと花婿さんに私を渡す役目があるのよ。孫だった抱いてよ。気弱なことは言わないで。お父様のことは絶対に私が守る。何があっても守るから」

「ゼルマ・・・。苦労をかける」

 そこで父はまた眠りに落ちていく。扉の向こうにウルガーの気配があった。私は決意してその扉を開けたのだった。

私は決心して扉を開ける。

「本当に借金返してくれるの?」

 その言葉は身を売る事を意味していた。私は、かすかな希望だけを持って聞いていた。父と母のような愛ある家庭がいつか築くことができるように、と。どこのだれでもいい。離婚でもなって放り出されて父と母のように、と。そのためなら馬鹿姫を演じてもいい。そう思っていた。

「悪いようにはしないよ。俺も君が好きだからね。その強さと純真なところがね」

 すっ、と手が伸びてきて避けようと思っても避けようがなかった。ここで拒否すれば、借金が残る。

 だけど、ウルガーはただ、私の頭を抱き寄せ、背中をぽんぽん、と叩いてくれた。安堵感が広がる。不思議な事にだきしめられて感じた人のぬくもりにほっとしていた。ぎゅっと瞼を閉じる。涙が出てきそうで。

「大丈夫。大丈夫、だから」

 呪文のようにウルガーは言う。いつしか私はウルガーの胸にすがって泣いていた。

「つらいね。現実は。でも、俺は裏切らない。信用して俺の国に来てくれる酔狂な姫はゼルマだけだ」

「借金のカタにね」

 ぐすぐす、鼻を言わせて言う。

「そんなもの考えなくていいようにしてあげる。俺を信じて。俺のゼルマ」

「どうして、そんなに優しいの?」

 あの舞踏会でどうして声をかけてきたのだろう。身分は同等でも容姿はやはりあの敵国の姫の方が上だった。そして王子はその容姿に見惚れていた。なのに、ウルガーは私を選んだ。何故か解らなかった。

「一目惚れ、って言えば信じる?」

「一目惚れ・・・? まさか、そんな簡単な理由で?」

 私は驚く。

「簡単なようで簡単じゃないんだよ。恋愛ってね。俺もいっぱしのことを言える立場じゃないけれど、王子に一心に惚れていた可愛い純真な君が好きだった」

「今は惚れてないわよ。百年の恋も一気に冷めたもの」

「だから。俺なの。その純真な眼差しを俺のものにしたかったんだよ」

「って。好きじゃないわ。ただの借金返してくれるから行く気になっただけよ?」

「それでもいい。俺には十分すぎる」

 何かウルガー王子の瞳に何かが走った。哀しみ? あれは?

「そういう所も好きだよ。人の心をすぐに図れる君が。そうだな。俺は必要としているのかもしれない。この闇を救う君を」

「闇なんて拾った覚えもないけど?」

「それでいいんだ。それで。ただ、側に君がいてくれるだけでいいんだ」

「ウルガー。何があったの? 闇ってそんなに深いものをどうして持っているの?」

 その質問にウルガーは答えなかった。私を離すと背中を翻す。

「借金返済に行ってくる。君は父君のところにいて」

 追いかけようとして止めた。彼の背中は世界を拒絶していた。一目惚れ、と言った私の存在さえも。

「何があるの? ウルガー」

 私の言葉は遠くで歩いているウルガーには届かなかった。


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