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訳あり姫、借金のカタに嫁ぎます!

異世界恋愛ファンタジーを書くきっかけとなった、初の異世界恋愛ファンタジーです。現在、150話まであります。途中まで、再編集版で4000字程度のものをお届けします。130話ぐらいから千字ぐらいのもともと連載していた長さに戻ります。ユング心理学の降下をテーマにした物語です。物語師という造語も出てきます。無意識と意識の間の出来事を綴ります。今、物語が繰り広げられている舞台は無意識の世界。この世界でどう自己実現を遂げていくか、そんな成長物語でもあります。

婚礼がたびたび延びている姫と王太子の婚礼はいつ挙げられるのでしょう。

気づいたら自分の小説の中で訳あり姫君になっていました (1) 再編集版


ふいに私は気づいた。ここ、私が書いた小説と同じ世界だ。どーいうこと? 書いた世界に入っちゃったの?? あ。あの方は! 遠くの方で王子を見かけた。この人が私の考えた姫君の恋人。このまま行けば、踊りを申し込まれるはず。そしてお互い一目惚れして結婚するのよっ。

 私は、興奮気味になって王子様を見つめていた。

 ところが、ところがよっ。なんと王子様は敵国の姫君に踊りを申し込んでいた。

 おーい。私はー?

 背伸びして一生懸命アピールしていると誰かが肩をつつく。

「俺と踊らない?」

 コイツは! 頭に花が咲いた馬鹿王子! 誰があんたなんかと。つん、とそっぽを向いているのに強引に手を引く。今すぐこの手を振り払って私の王子様のところへ行きたい。

「いいから。いいから。俺と踊ってれば、姫の美しさにみんな見惚れるよ。あの王子様だって」

 ちら。チラ見するとへらへらと笑っていやがる。と、お言葉が悪うございましたわ。へらへらと笑っている、ぐらいにしておこう。

「ホントにホントにみんな見るの?」

「うん」

 向日葵が咲いたようなニコニコ顔。一応、やってみるか。気を引くチャンス到来だわ。

「では。踊りを一曲、お願いいたしますわ」

 そして華麗な円舞曲が始まり、舞踏会は幕を開ける。ちらちら、王子様を見ながら踊っているとドレスの裾を踏んづけられた。

「ちょっと!」

「ごめんごめん。俺、円舞苦手でさー」

 だったら誘うな! 思いっきり拳骨制裁を加えたかったけれど、そこはあれ。王子様が見てくれる方を選ぶ。しかし、一向に見てもらえる気配はない。一曲目が終わった。そして少しテンポの速い円舞曲に変る。クイックワルツよ。ここは見せ場でしょう。華麗に踊ってみせる。周りからほぅ、とため息が出る。見よ。この綺麗な舞踏を。私こそ王子様にふさわしいわ。ふふん、と気を良くして踊っていると曲が終わっていた。次はなんの曲? いつ王子様は見てくれるの? 踊り続けること数時間。王子様は敵国の姫にべた惚れ中。むむ。諦めるのか? 確か、コイツも海の向こうの王子よね。金はこっちの方が持っている。嫁ぎ先を思案していると、向こうで悲鳴が上がった。舞踏会はざわざわして音楽も途切れる。

「ハルベルト様?」

「毒を盛られたか?」

 そんなシナリオはないはず。そして、ハルベルトは私のお父さんのはず。王子の手を振り払って急ぐ。

「お父さん!」

 そこには姫君の父親、ハルベルト・ラオフィ・オットーが倒れていた。

「お父さん! しっかりして」

 抱き起こして膝の上に載せて目を覚まさせようとするけれど、お父さんは意識がない。

「お父さん?」

 どこかの誰かが発した言葉に,こちらの世界ではお父様と呼んでいた事が浮かぶ。とっさに言葉を換える。

「お父様しっかりして!」

「見せて」

 さっきのへたれ王子が真剣な眼差しで近くにいた。

「俺は、医術の心得がある。診せて」

 強引に言われても焦っていた私はほっとした。

「このグラスの酒に毒蛇の毒か」

 近くに割れていたグラスを見て液体をなめる。

「ちょ・・・っ」

 その行動に驚いたけれど、すぐに答えが返ってきた。

「俺は毒慣れしてるから大丈夫。それにこの毒ならこっちの薬があうな」

 彼は、水の入ったグラスを誰からかもらうと白い粉薬を入れる。それを父の唇に持っていく。

「飲んでください。解毒剤です」

 父がうっすら瞼を開けて液体を飲む。すぐに意識が無くなった。

「お父様!」

 起こそうとすると手を止められる。

「何するのっ」

「大丈夫、解毒には本人の体力も必要だから今は眠らせておいた方がいい。君の屋敷はどこ? そこまで送るよ」

「あ。あぁ。この近くの貴族街よ。父は公爵だから王宮に一番近い屋敷よ」

 そこへ人混みをかき分けて王子が来た。

「大丈夫かい? ゼルマ姫」

「ええ。一応は。今宵は場を穢してしまいました。申し訳ありません」

 王子に案外冷たい声で接している自分がいた。今頃来られてもなんにもならないわ。もう、百年の恋も冷めてしまっていた。いつまでもあの姫とお幸せに、ってとこ。

「ええ・・と」

「俺はウルガー・ヘルムート・ユングリングだ。ウルガーでもヘルムートででも姫の好きなように」

「では、ウルガー王子様、お願いできますか?」

「ああ。エルノー、この男性を馬車に乗せる。手伝ってくれ」

「はい。王子」

 中年の男性が言う。

「これは俺の世話係のエルノー。執事も兼ねている。さぁ、行こう」

 二人がかりで大男の父を担ぐとウルガー王子とあたしは舞踏会を出て行った。馬車に乗せる。父はこんこんと眠り続けている。もし、いなくなったら、私一人きりだわ。恐怖におののく。お母様はとっくに亡くなっている、と自分の小説の中なのに勝手に過去が塗り替えられていく。いつしか、私は本当のゼルマ姫になっていた。

「大丈夫だよ。後遺症はあるかもしれないけれど」

「ウルガー王子」

「ウルガー、でいいよ」

「ウルガー、ありがとう。あのままだと私一人きりになるところだったわ」

「姫の涙は見たくないんでね。お花の咲いてる頭でも出来る事があるのさ」

「お花って・・・」

「誰も俺が医術を心得ていると考えている人間はいない。隠しているからね」

 暗闇でも解るぐらい自虐の声と言葉だった。

彼の暗い闇を垣間見たあたしは、どうすればいいのか解らなかった。こんなキャラだった? 自分の中で書いた物語を思い出そうとして思い出せないことに気づいた。私、本当に物語の人間になったの? もう、戻れないの? 家族は? 友達は? でも、もう何一つ思い出せなかった。

「姫?」

 私の異常に気づいたウルガーが我に返ったのか、名を呼ぶ。

「なんでもないわ。ちょとと思い出したことがあっただけ」

 そう言って眠っているこの世界でのたった一人の家族に視線を動かす。さっきは本当に死んでしまったかと怖かった。今も怖い。

「大丈夫。死なないから」

 私の異変は父の事だと勘違いしたウルガーが言う。それについては感謝しなくてはいけないから、素直にありがとう、と言う。

 自分の声が少し震えていることに、自分でも気がついた。やっぱり、父がいなくなることは、私にとって大事件なのだ。

「もう夜も遅いわ。王宮に戻るよりこちらの屋敷に泊まってください。お父様もそちらの方が落ち着くわ」

「では、お言葉に甘えて」

 そこにはさっきの闇を抱えた少年は見事に消えていた。

 この人、何者?

「君も、ね」

「え?」

「なんでもないよ。どうやら着いたようだ。エルノーと一緒に父君は運ぶから、父君の部屋を整えておいて」

 先に降りて、準備をしろという王子に素直に私は従っていた。ただのお花が頭に咲いた王子、というわけではなさそうだった。私の勘違いなのか、思い込みだったのか、彼は今までとは違う面を見せていた。

「君は気にしなくていいよ。俺は俺の感覚でやってるから」

「?」

 疑問符が頭の中を飛び交う。

「君は聡明な姫だね。矛盾を感じている。いずれ解る。とにかく父君が先決だ」

「ええ」

 私は屋敷に戻ると父が倒れたことを執事に言おうと探す。領地から一緒に来ているアルバンがすっと出てきた。。早い帰宅に何を思ったのかも解らないけれど、彼はいつも有能な執事であることは間違いない。

「お父様の部屋を整えて。あと、お二方のお客様を泊めないと行けないの。男性二人よ。急いで客間を整えて」

「はい。姫様」

 アルバンは使用人にすぐに指示を出す。

「ご夕食は?」

 アルバンの問いにあたしは首を振る。

「それどころじゃないの。お父様が倒れたの。その事については箝口令をひくわ。公爵であるお父様が倒れたと聞けばいろいろあるから」

「わかりました。お二人の男性のお食事は?」

「いらないよ。父君の部屋はどこ」

 ウルガーが即答する。さっき医師として動いていた時の眼差しに近い。

「その奥を突き当たって左よ。ウルガー様には今、客間を用意させています。少々お待ちください。私はお父様に付き添うから」

 長い夜が始まった。


お読みくださってありがとうございます。

この話の終わりは決まっていますが、いつたどり着くかわかりません。

思い付くまま書いてきたので。

いつかちゃんと終わりが見えればいい、と思います。

引き続き追いかけて頂けるとありがたいです。

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