53.未来から愛をこめて
「・・瑠璃子とのコンタクトもこれで終わりか」
ナイーシャが言う。
「本当は関東に帰ろうが、あの光石があるんだから話せるのにね」
「いいのよ、これで。瑠璃子はそう思っているのだから。関東に戻ったら、全く新しい人生が始まる。私たちは邪魔よ。夢を見なくなれば、瑠璃子の中の私たちに関する記憶は、少しずつ消えていくわ。これでいいのよ」
「そうかな・・。残念だな」
ナイーシャが不満そうな声を出す。ラドゥは苦笑する。
「あなたは瑠璃子にずいぶんご執心ね」
「そりゃ、あれだけ僕の魂に会いたくて必死で頑張ってくれてるのを見てしまうとね・・。何かしてあげたかったんだよ」
「そう言えば、だいぶ際どいヒントを瑠璃子に送っていたわね?まだ本人同士が出会っていないのに」
ラドゥがわざと咎めるような目つきでナイーシャをにらむと、彼は肩をすくめて苦笑を返した。
「もちろんダメなことはわかっているよ。でも僕からっていうのは思いつかないようにしておいたから。彼女はただの夢だと思っているはずだ。それに、色味もちょっと変えておいたし。ただ、僕の断片を彼女の心に刻んでおきたかった。完全なるエゴだ。僕もまだまだだな」
「そういうところもかわいいけど」
ラドゥが笑う。
「子供扱いはやめてくれよ。でも、瑠璃子もあの頃の僕に出会ったら、まずそう思うだろうな。あの時は君とだいぶ年が離れていたから」
「そうね。私もあの時そう思ったわ。他にも色々・・あったしね。一度はそれで、そのギャップを乗り越えることができずに終わってしまったわね。どんなに縁があろうと、過去に約束していようと、結局、本人同士のその時の選択に委ねられている。地球は完全なる自由意志の星だから。でもきっと、今の瑠璃子なら大丈夫よ」
ラドゥは遠い目をしながら言った。
「私の魂は、リアの時代、自分がした軽率な口約束が原因で、愛する人を死なせてしまったという罪悪感をずっと抱えたまま生きてきた。もちろん意識できないままに、何より、あなたとの愛を求めているのに、幸せになりそうな自分から遠ざかり、自らを閉じ込めて、自ら罰し続けてきたように思うの。でも瑠璃子は、今回、そんな自分に終止符を打つと決めたのよ」
「そうだね。だから、もう、世間体や一般論に縛られて、自分が不幸になる選択をすることはないはずだ」
「ええ。彼女はようやく自分で自分を閉じ込めていた牢屋から出たのよ。やっと、自由の身になれたのね。その勇気が、リアの過去をも変えて、カーサの呪いまで無効化してしまった。彼女はこれでやっと、自分を許せたんだわ。自分への愛を取り戻せた」
「だから、きっと瑠璃子の時代の僕も今回は変化しているはずだ。全ては繋がっているのだから」
「瑠璃子・・本当にありがとう。あなたの勇気が私の中にまだうっすら残っていた、しつこい罪悪感まで洗い流してくれたのだわ・・」
あまり感情を出さないラドゥが、静かな涙を流していた。ナイーシャが優しく抱き留めて慰める。
「君は全部自分で抱え込んで僕をあまり、頼ってくれなかったけど、それも変わるかもしれないね。今回僕も本当に大きなことを学んだ気がするよ」
「それは何?」
ラドゥが聞く。ナイーシャは笑って
「内緒」
と一言言うと、彼女に口づけ、心の中でつぶやいた。
(片割れと一緒に居られる幸せ、だよ。当たり前のものと思っては罰が当たる。過去の君がこんなにも頑張って僕にたどり着いてくれたんだから。・・瑠璃子、君も幸せにね)




