39.夫婦の証の指輪
「・・リア」
シェインがいつもの池のほとりにやってきた。時間もいつもと同じ。リアの神殿でのお勤めが終わった夕方。リアは芝生の上に腰を下ろしていて、シェインがすぐ隣に身を寄せて座りながら、リアに口づけする。
シェインは遠征からの帰還以来、挨拶替わりに必ずするようになった。リアもだいぶ慣れてはきたけど、まだやっぱりちょっと恥ずかしい。そんな彼女を愛しそうに見つめ、シェインが言う。
「いよいよ明日だね、僕たちの結婚式」
「そうね。明日の今頃ね。私、なんだか、本当に結婚するような気がしてるわ」
リアが頬を赤くして答える。
「もちろん、本当に結婚するんだよ。そう言っただろう?僕は本気だって」
「わかってるわ、私も本気だもん。そういう意味じゃなくてね、私、明日からまるで現実生活まで、本当にあなたの奥さんで、一緒に暮らし始めるような錯覚を覚えているの。そんな錯覚があるくらい、私今幸せなのよ」
リアの言葉を聞いて思わずシェインはリアを力いっぱい抱きしめた。・・可愛すぎる。自分もどれほどそんな生活を夢見ていることか。それはどうしても今世では叶わない夢だけど、でも、今自分が手にしているものだけでも奇跡としか思えない幸せなのだ。
リアをこの腕に抱きしめることができ、愛を口にするなんて、絶対に叶わないと思っていた。物理的には離れていても心はいつも一緒にいるということを、リアにはどんなときも忘れないでいてほしかった。だから・・。
「リア・・、これ、明日の結婚式で使う物だけど、先に渡しておくよ」
そう言ってシェインは騎士の制服のポケットからあの小箱を取り出し、リアに渡す。
「開けてみて」
リアがそう促されて、ふたを開けると、中には銀の指輪が2つ並んで納まっていた。
2つは全く同じ形だが、大きさが違った。細いその指輪は、一か所で緩くカーブしている。何かがその部分に彫り込まれていて、よく見るとそれは繋がれた2つの手をデザインした指輪であることがわかった。リアは素敵だと思うものの、意味がよくわからずシェインの顔を見る。
「これは・・?」
「いわば、僕たちが「魂の夫婦」だという証だよ。明日の結婚式ではこれを着けて式を挙げよう。そして、できれば、その後もずっと着けていないか。そうすれば、「魂の夫婦」になったことを指輪の嵌った手を目にする度に、思い出せる。見る度に、お互いの指に同じ証があることを想って幸せになれるだろう?」
「シェイン・・」
照れくさそうに赤い顔をして目をそらし気味にしながら、言ってくる彼をかわいいと思ってしまった。もしかしたらシェインは、私と同じくらいにロマンチストなのかもしれない。気持ちはすごく嬉しかった。それにしても・・又疑問が浮かぶ。
「ありがとう。嬉しいわ。素敵な考え。でも、結婚して夫婦の証に指輪を着けるなんて、風習ないわよね?どこからこんなこと思いついたの?」
「前と同じで、ふっと浮かんできたんだよ。指輪を着けた手と指輪のデザインのイメージが瞬間的に何度か来て、「夫婦の証」っていう言葉も。それで後は僕なりに考えてみた」
「それはきっと、瑠璃子からのメッセージよ。私も何度か受け取っているの。結婚式のドレスも彼女にもらったイメージを思い出して作ってみたの。明日のお楽しみね。指輪の風習もきっと、瑠璃子たちの時代のものね。瑠璃子、ありがとう。とても素敵な指輪だわ」
「僕からもありがとう、瑠璃子」
「きっと伝わっているわ。喜びの感覚が湧いてきたから」
シェインが小さい方の指輪を持ち、リアの左手を取る。
「瑠璃子に教えてもらったように着けるよ」
そう言いながらその銀の指輪をリアの薬指に通してくれる。サイズはぴったりだった。
「嬉しい・・!シェインありがとう」
その指輪が嵌められた手に見惚れていると、シェインが自分で、自分の左手に大きい方の指輪を着けようとしているのが目に入る。リアはその指輪を取り上げ、
「あなたには、私が着けてあげるわ」
そして、大きなシェインの左手を支え、薬指にその指輪を通した。シェインも自分の手を眺めてにっこりした。




