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31.シェインの素直な欲望と提案

何かが頬やおでこを優しくなでさすっている。冷たくて気持ちいい・・。


リアはゆっくり目を開いた。自分がどこにいるのかわからなかった。私はどうしたの?

開いた目の中に入ってきたのは何より愛しい、会いたかった人の顔だった。


「シェイン・・?」


「リア・・大丈夫か?」


シェインの表情は心配そうで、そして本当に優しい。しかもこの角度でシェインの顔が見えるということは・・リアは又シェインの膝枕で寝ているらしい。


「ここはいつもの・・?」


「そうだよ。池のほとりだ。最初は救護室に連れて行くつもりだったけど、気が変わった。救護室だと、僕はずっとそばにいられないし、こうすることもできないからね」


すました表情を浮かべてシェインは寝ているリアにそっと口づけした。


「ただいま・・リア。会いたかった。心配かけたね。君が倒れたのは僕のせいか?大丈夫か?」


そういうと、今度はすまなそうな顔になった。


「シェイン・・お帰りなさい。大丈夫よ。あなたの無事な顔を見たら安心して力が抜けちゃったのね。本当に嬉しい。帰って来てくれてありがとう」


まだ頭がふらつくが、ゆっくり起きてみる。シェインの顔をちゃんと見たい。彼に支えられながら上半身を起こす。大丈夫そうだ。すかさずシェインが支えてくれる。またこの温もりを感じる日が来るなんて、夢のようだ。


どうやら、ラドゥが教えてくれた過去は無事に回避することができたことを実感する。泣き出すよりも、今しなければいけないことを・・。リアはもうすっかり落ち着いていた。まっすぐ向き合う。


「シェイン、本当によかった。あなたが無事で夢のようだわ。サイファラ公国の海賊襲撃はどうなったの?治まったの?」


「あぁ。僕たちは3週間サイファラで状況確認と、海賊の再襲来に備えていた。だが、どうやら今回はこれ以上来ないようだと判断し、帰還した。とりあえず最悪の危機は脱したよ」


シェインはサラッと言ったが、その後彼が話してくれたことは、そんな軽い話ではなく、かなりの衝撃をリアに与えた。つくづく、彼の無事が奇跡に思え、リアは自分の祈りが聞き届けられたことを感謝した。


「・・話してくれてありがとう、本当によかった。シェイン、大変な任務、お疲れ様。私にも、伝えなきゃいけないことがたくさんあるの」


そうして、ようやく、リアはあの日からの不思議な出来事、光石のこと、ラドゥのこと、それからラドゥに教えられたシェインの今回の危機とリアと、カーサの関係について、全てを伝えられたのだった。



全ての話を聞いたシェインは無言だった。長い事、口を開かなかった。何を考えているのかリアが不安になるほどに。


(信じられないかしら。そうよね・・)


けれど、リアが声をかけようとした時、いつもより低いシェインの声がした。


「そんなことって・・。ごめん、リア、信じないとかじゃないから。ただ、一気に衝撃的な話が入ってきて、消化するのに時間がかかっているだけだ。自分が殺されるはずだったと言われてすぐに受け入れられる人間は少ないだろう?


リアのこの光石が守ってくれたんだな。何度かそれは感じてはいたよ。本当にありがとう。それにしてもカーサにそこまで恨まれていたとはね・・。さすがに堪えるな」


自嘲気味に笑って見せるが、やはり内心の動揺は隠せない。


「そうよね。ごめんなさい。しかも帰って来たばっかりの疲れているところに、

こんな話をして。でももうずっとあなたに伝えたくてたまらなくて」


シェインの苦渋の表情にリアがしょげる。シェインはその様子に口の端を無理やり上げてリアを抱きしめた。


「いいさ。・・僕もリアの声と匂いと感触が欲しくてたまらなかったよ」


「・・?!なんだか意味が違うわよ?」


言葉の響きと同じく、腰や背中をさする手の動きがなんだか怪しげで、

リアは声を上げて飛びのいた。シェインは笑って


「元気でた?よかった」


「からかったのね!」


リアはぷっとふくれる。シェインは苦笑しながら、


「からかってなんかないよ。本心だよ。愛する人が欲しいと思うのは当たり前のことだろう?」


シェインも健康な23歳の成人男性である。それはそうなんだろうけど・・とリアは困惑する。


「でも私たち、今世は肉体的に結ばれることはできないの、わかっているでしょう?」


「わかってる。わかってるよ、リア。大丈夫だ。暴走はしない。これまでずっと自制してきたんだから。知らなかっただろうけどね。リアと一緒にいる時には、君を押し倒さないように自分を抑えるスイッチを入れている」


真面目な顔でシェインは言う。からかっているのよね?リアもそれに乗ることにした。


「じゃあ、私といない時にはそのスイッチ解除しているのね?つまり、・・」


「おい、やめてくれ。僕が君以外の女に興味持つわけがないだろう?・・・リア」


シェインにしては珍しく強い口調で遮り、リアが悪ふざけで返したことに気づいたのだろう。ばつが悪そうな苦笑いを浮かべた。そして、真面目な顔に戻ってリアを抱きしめる。


「君の傍にいられるなら、いくらでも我慢するし、もう慣れたよ」


思わず赤くなってしまう。そうか、私はずっとシェインの気持ちに気づかなかったし、巫女になるって早いうちに決めていたし・・。何だか・・。


「・・ごめんなさい」


「何でリアが謝る?」


「だって私、全然気づかなくて。そんなにシェインに我慢させてるの知らなかったから・・。」


「・・そこを謝られると、すごく複雑な気分だからやめてくれ。気づかれていてもそれはそれで困るし。・・というか、この話、まだ続けるの?」


シェインが、大真面目な顔をして答えたリアに苦笑する。リアも恥ずかしいけど、なんだかだんだんおかしくなってきて2人で笑いだしてしまった。


シェインがこんなことまで隠さずに率直に話してくれる人だったなんて。これまで知らなかった彼をもっともっと見せてほしいと思う。


ひとしきり笑って空気が緩んだ後、シェインは真面目な顔に戻って又話を続けた。


「それで、カーサが僕に、来世で君の魂がわからなくなる術をかけるのを妨害しろって話だけど。そのために、いつ彼が僕に術をかけるのかを知らなければならないっていうんだろ?それって、実際不可能に近いんじゃないかと思う。カーサに実行の主導権を握らせたままならね」


「・・確かに、24時間体制で監視し続けないと無理な話だと思うけど、でも、主導権を握らせたままならって・・どういう意味?」


「こっちから実行させるようにしむけるんだ。こちらが狙った日時に奴が術をかけずにはいられないような状況を作ってやる」


「いい考えだとは思うけど・・そんなことができるの?」


「できるよ。ただし、ちょっとやそっとのことじゃだめだ」


え?シェインが、なんか又、ちょっと悪い顔になってる?リアがちょっと及び腰になったところに、シェインの爆弾が落ちてきた。


「結婚式をしよう、リア」


「はぁ?!」


リアの絶叫が木立に響き渡り周辺の枝で休んでいた鳥たちがびっくりしてバタバタと飛び立った。


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