29.私の関西生活再開
「やっぱり再開した・・」
私はホッとしたようながっかりしたような複雑な気分でベッドから体を起こす。
引っ越し先が決まった。やっぱり、春来市になった。半ば予想していたことだったから、もう驚きもなかった。必要書類は関西の方に郵送してくれるという。私は無職なので、部屋を借りるのに保証人が必要とのことで、母方の叔父にお願いした。快く引き受けてくれ、頭が上がらない。
引越日は9月10日に決めた。あと一か月強だ。引越関係の対応はけっこう毎日忙しく、一時帰省の1週間はあっという間に過ぎ去った。久しぶりに実家の家族ともゆっくり話せ、嬉しかった。
両親と妹はこちらに引き上げてくるという私の決断を全面的にバックアップしてくれている。私は恵まれている。一見全部失ったように見える今だけど、実はまだこんなにも恵まれていた。この1週間で私はあらためてそう感じることができた。
そして、いよいよ引越準備を進めるために昨日関西に戻ってきたばかりだけど。実家での1週間、本当に充実していたが、1つだけ気になることがあった。夢だ。例のリアたちの夢を、実家にいる間、嘘のように見なくなっていたのだ。何でだろう?あれだけ毎日見ていたのに。
けれど、昨日又夜行バスで関西の部屋に戻り、疲れが出てちょっと昼寝をしたときに、1週間ぶりに見たのだ。リアの夢を。正確にはリアの身体に入ってリアを生きる夢を。
リアは同僚のアリスに問い詰められて全てを話していた。でもリアがアリスを信頼しているのが伝わってきていたので、そういう友人が傍にいたことにホッとした。リアが今の私と同じように完全な孤独の中にいるのじゃなくて本当によかったと思った。
又夢は始まったけど、もしかしたら、これは、私が関西にいる間じゃないと見られないのか。それって、カーサの魂である山霧がいるのが関西だから?或いは、もしかしたらだけど、リアたちの国は、大古の日本に、しかも関西地方にあった?だからそこに残っているエネルギーが強くて繋がりやすいとか?
山霧は、5000年前この地に生きたカーサの生まれ変わりだから、再び因縁の強いこの土地に生まれ、当時の記憶がより濃く出た行動になっているのかも。だから私もあんなに関西に来るのが嫌だったのかもしれない。
リアの国が超古代の日本・・。あの容姿で?私は思い出してみる。シェインは青い目で銀髪だし、リアは黒い目に髪だけど、顔の彫りは西洋人のように深い。でも2人の同僚とか、周囲の人たちを見ると、そう、例えばアリスはアジア人に近い顔つきだし、他に、浅黒い肌の人もいて、今の日本よりよっぽど国際色豊かな国民性のようだ。超古代の日本はそういう国だったのかもしれない。
5000年前、日本は縄文時代と言われている。そして縄文時代は今より文明が未発達だった時代というのが常識だったけれど、だんだんその定説は覆されてきているとも。私もその見解の方が真実に近いと思っている。
縄文時代はとても豊かな文明のあった時代だったと思う。その時代に、リアたちのような王朝が日本にあったのかもしれないと考えると、なんだかワクワクする。
それにしても・・と又、私は山霧の、カーサの魂に想いを巡らせる。復讐をすることが魂の計画って、それが目的で生まれてくるって・・やっぱり私には想像がつかない。
どれだけ深い闇を抱えているのか。そんな闇を抱えて時空を超えて。そこまで恨まれる原因って本当にリアが拒絶したことだけなのか・・。今の私には答えが出せないことをとりとめもなく考える。
ここから引越日まで正確にあと39日しかないのだから、こんなことやっている暇はない。何しろ完全に1人で全てをやるのだから。助けてくれる人は誰もいない。
実は、こっちに引っ越してくるときは、どうにもやる気がおきず、両親に何回か手伝いにきてもらってようやくなんとかなった。本当に両親がいなかったら、荷物がまとまらず、引越できてなかったと思う。
それぐらい私は身体が動かなかった。荷造りしたくなかった。それも実は、関西に越してからの一連のことを身体が知っていて、嫌がっていたのかもと思うと納得できる。ということは、魂と身体は別の意志を持っているとも言えるのか?身体の記憶は魂の記憶とは少し違う領域にあると聞いたことはある。
とにかく、普段はとても大雑把な私。失敗を防ぐために、まずはこれから一か月強の引っ越し作業期間のタイムスケジュールを作ってそれに従って粛々と実務をこなしていくことにしようと決めた。
*
食料品の買い物から戻り、郵便受けをチェックする。
「あ!来てる!」
途端にさっきまでの疲れが吹き飛んだ現金な私。実家に戻る前に衝撃的な出会いをし、購入に至ったあのスカイブルーの古代ガラスのペンダントが届いたのだ。
急いで自室に戻り、落ち着いたところで、そのオレンジ色の小さな封筒を開く。緩衝材に包まれた小さな包みが出てきた。いつもの包装だ。開いてみる。
「わぁ・・!」
なんだか一目みて胸がいっぱいになり、なぜか泣きそうになった。ネットで見た通り、鮮やかなスカイブルーでシルバーの縁どりが本当に素敵。やっぱり買ったことは間違いではなかったと思える。早速手元にあったシルバーのチェーンに通し、首にかけて鏡でその姿を確かめる。
鏡の中の自分とペンダントを眺めながら、これってやっぱり、リアがもらったラドゥの光石にそっくりだと思う。
「でも、特につけた途端にすごいエネルギーを感じるとかないよね。やっぱりただ似てるだけね。本当の光石なんてわけないもの」
私はエネルギーワークにも興味があり、勉強していたこともあるから、石などエネルギーが強いと言われるものは、時折それを振動などで感じることがある。けれど、今回のこの古代ガラスはすごく・・「静か」だった。何も感じない。というより、感じるのは「沈黙」と「静けさ」という方が正確かもしれない。
これまで買った古代ガラスとは何かが違うような気もする。もしかしたら前に買ったものとこのスカイブルーはエネルギーの質が違うのかもしれない。
それでも、今自分の首にかかっているスカイブルーのガラスのペンダントに、時空を飛び越えて時代の違う人間と繋ぐ力を持っているなんてことまでは、さすがに信じられない。
でもこの色は本当に美しいし、リアとシェインを思い出させるから、やっぱり2人との何等かの繋がりはできたような気はして、私はそれだけでいいやと思うことにして、ごはんを作ろうと立ち上がった。




