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22.賊の襲撃

野営地に朝が来た朝食もそこそこに、シェインはカーサに出立の挨拶をする。


「殿下。只今より、偵察隊出立致します」


「うむ。頼むぞ」


決まり切った型通りの挨拶を交わし、この時から、主従の2人はしばらく別行動となる。

シェインは、なぜだかわからないもの悲しさを感じながらも、昨夜のうちに声をかけていた2人の先遣隊の仲間の元に行く。


「よぉ、シェイン!じゃあ、そろそろ、行くか」


同僚騎士で一番の親友である、アーサス・ドノヴァンが声をかける。


「あぁ、行こう。2人ともよろしく頼む」


「任せとけ!」


アーサスともう一人、同行するゲネル・イアガルもシェインが信頼している騎士仲間だ。


2人には、説明はできないが、道中特に気を付ける理由があると伝えてある。2人とも、シェインの第六感が優れていることはもう充分知っているので、今回も何も訊くことなく、頷いた。


3人は騎乗し、それぞれ油断なく、辺りに目を配りながら木立の中を進んで行く。

目は休みなく動かしながら、アーサスが話しかけてくる。


「シェイン。ガキの頃、よく、こういう戦争ごっこしなかったか?懐かしいな」


今、そういうことを言うか?とシェインは呆れる。楽しそうですらある。肝が据わっているのだろうが・・。


アーサスはシェインの1歳年下で、平民の出であったが、優れた身体能力を武器に騎士団で頭角を現してきた。貴族だが身分に関係なく、誰にでも公正で態度が変わらないシェインと、陽気で開けっぴろげなアーサスはすぐに心を通わせた。


騎士団とは言え、その出身や事情は多種多様であり、考え方や主義も色々なので、そう簡単に信頼関係は築けないのが普通だ。階級制もあるので、見えないところでの足の引っ張り合いも多い。実はとてもシビアな世界だと、入団してシェインも知った。


けれど、そういう煩わしさというものは、下っ端の方がタチが悪い。だから、なるべく急いで上の階級に上がってしまえばいいのだ。シェインは早々とそう見定め、他の連中には目もくれず、自分の鍛錬に集中してきた。その結果、この若さでは異例の取り立てで、今や王太子の専属騎士という位置にまで上り詰めた。


(だが、その王太子が一番の問題だったけどな・・)


そこまでは読めていなかった。シェインは自嘲する。どこにでも落とし穴はあるものだ。

そう、どこにでも。


ガサッ。突然脇の茂みが揺れた。パッと3人がその方向に馬を向ける。


黒ずくめの装束の賊が3人、飛び出してくる。刀を抜いて切りかかってくる。


シェインたちもすかさず剣を抜く。


「散れ!固まるな!」


シェインが叫ぶ。その間にもシェインは1人切り捨てていた。息をほとんど乱さず、体勢を整え、シェインはアーサスとゲネルを見やる。2人とも剣の腕は一流だ。おそらく問題なく片付けるだろう。


と、その時、何かがシェインの視線を少し離れた木の方に向けさせた。その木の陰に・・人の気配?

矢をつがえている!


咄嗟に剣を持ち直し、戦っているゲネルの傍らに飛び込んで行った。


カチン、と乾いた金属音がして、矢が地面に落ちた。間一髪、シェインが剣で弾いたのだ。

そのまま行けば、ゲネルの胸を貫通しただろう。そのゲネルは賊の1人を馬から落とした所だった。


「シェイン!助かった!」


ゲネルが強ばった顔で、礼を言う。シェインは目で合図をするに留める。

アーサスも、賊を倒した所だった。


「ふぅ!一体これは何だ?シェイン、こいつらが例のタルパか?いや、タルパは海洋民族だよな。それに、連中の攻め込んだ地域とここは微妙に離れている。なんでこんな何もないところで待ち伏せしていた・・?」


「あぁ、確かにおかしい。とにかく、油断せず、先を急ぐぞ」


3人は再び馬を走らせた。


その後は襲撃されることなく、午後早い時間に、目的の海岸地域に到着した。

被害を受けていると言われる地域だが、確かに所々、襲撃されたと思われる民家や商店が

見受けられた。燃やされたり、打ち壊されたりしている家もある。うっすら煙の臭いが残っている。

但し、今は目の届く範囲には賊の気配はなく、不気味に静まり返っていた。


「これはひどいな・・」


アーサスが顔をしかめる。


「全く。とりあえず各家を回って住人たちの安否を確認。必要があれば、街の騎士団に連絡して、保護を要請する」


「了解」


3人は馬を降り、近くの木につなぎ、3方向に散った。


2時間は経っただろうか。気が付けば夕日が沈みかけて辺りが暗くなっていた。ようやく、確認作業は終了した。しかし、3人の表情は晴れなかった。


街の状況が思った以上にひどかった。無事な住人は半分くらいか。あとの半分は殺されたか、連れ去られたようだ。大けがをしている住人もいたので、とにかく、できる応急処置だけ行い、地元の騎士団に連絡をした。家の中は、金品も盗まれているところが多かった。


だが、襲撃は半日前に行われ、一つの街を壊滅させ、賊は引き上げていったようだ。

戻ってくるかはわからない。援軍の偵察隊としてできることはこれが限界だろう。3人は地元の騎士団の好意に甘え、街はずれの出張所を今夜の宿として借りることになった。


ここは普段無人とのことで夜は3人だけで過ごせる。食欲もなかったし、夕食は自分たちが持ってきた保存食を少しかじるだけで終わりにした。


3人とも、心なしか無口だった。めいめいがベッドの上や床の上に寝転がり、物思いに沈んでいた。

アーサスが誰にともなく、口を開く。


「俺、今回の任務ってものを甘く見てた。今回は国同士の大規模戦争とは違うし、正直大したことはないだろうなんて思って来た。でも、戦いに大きいも小さいもないんだよな。それを思い知ったよ。戦争はどんなに小さい物でもこの上なく悲惨だと。俺は騎士として、戦いに勝つためじゃなく、戦いを無くすために働いていくことを、俺は今夜、お前たちの前で誓う」


「アーサス、僕も同じだ。僕もあらためて戦いを無くすために、そして大事な人たちを守るために騎士としての職務を全うすることを誓う」


シェインも心から言った。


「もちろん俺も同じく」


いつもは無口で、あまり雑談には参加しない物静かなゲネルも続いた。皆それぞれ、とても重いが、大事な何かを今日の辛い作業から汲み取ったようだった。


又しばらく沈黙が続いたが、だしぬけにゲネルが又話し出した。


「シェイン・・。今日は危ない所を助けてもらった礼がまだだったな」


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