17.リアの誓い
瞑想でラドゥと話した2日後。リアは、例の池のほとりに向かっていた。
懐には、例のペンダントが入っている。あれからリアは二晩ほとんど寝ずにシェインのための光石のペンダントを麻ひもで編み上げた。何とか完成したので、シェインに渡したい。明日の朝、出陣なので、渡せるのは今日しかないが・・。
シェインは来てくれるだろうか。そして受け取ってくれるだろうか。色々な意味でドキドキしている。
「信じ切るのよ、リア」
ラドゥに言われたことをずっと自分に言い聞かせ続けている。そうしないと、不安で押しつぶされそうだったから。池のほとりに着いたが、シェインはいなかった。
とにかく少し待ってみようと芝生の上に腰を下ろす。そのままシェインを待つつもりだったけれど、二晩もほぼ徹夜だったリアはさすがに眠気に襲われ、そのまま眠り込んでしまった。
*
それからしばらくして、シェインが息を切らしながら姿を現した。出陣前日で準備に追われている中、なんとか皆の目を盗んで抜け出してきた。近づくとリアが眠り込んでいるのが見えた。
「リア・・」
あまり時間はないが、起こしたくない気がして、シェインは傍に腰を下ろし、リアの頭を自分の腿の上にそっと乗せる。そして静かにリアの髪をなでながら、心の中で話しかける。
(僕は君を守るためならこの命も惜しくない。だから覚悟はできているんだよ。大丈夫だよ)
唇に柔らかい何かを感じてリアの意識が戻ってくる。目を開けるとシェインの顔がある。
口づけされたことと、彼の膝枕で寝ていたことの両方に気づき、これ以上ないほど真っ赤になりながら体を起こしたリアに
「おはよう、僕のお姫様」
とシェインが笑いかけ、頬に又軽くその唇を触れた。
「シェイン・・会いたかった」
感情がいっぺんにこみ上げてきたリアは、思わずシェインに抱きついた。それをシェインはしっかり受け止めてくれる。
「リア・・僕もだよ」
ずっとこの腕の中にいたいけど、それはできないことだった。リアは意志の力で何とか身を離す。しっかりしなければ。急いたように話し出した。
「シェイン、渡すものがあるの。お守りよ。私が作ったの。明日持って行ってほしくて」
そう言いながら、懐からルビーのような光石を出して見せる。夕方の柔らかい光の中で、赤い光が美しくきらめいた。
「これを僕に・・?見慣れない石だけど、美しいな・・」
目を見張りながら、シェインは受け取り、それを手に包み込む。
「リアのエネルギーが入っているね?とっても優しいけど力強い愛のエネルギーだ。これを着けていると、リアといつも一緒にいるみたいに感じられるね。嬉しいよ。ありがとう」
シェインはとても喜び、その場ですぐにそのペンダントを着けてくれた。制服の下に着ければ誰にもわからないだろう。リアもホッとして嬉しくなった。しかし、シェインがその後
「やっぱり考えることは同じだな」
と、苦笑しながら、制服のポケットから美しい丸い白い石のついた銀のペンダントを取り出したのを見て、目を丸くする。
「これは僕からリアへのプレゼントだよ。包んでなくて悪いけど。ムーンストーンっていう石だ。もちろん、僕のエネルギーが込めてある。僕が傍にいなくても、これが代わりに君を守ってくれるように」
城下の宝飾店ででも買ってきたのか、そのペンダントの石は丸く磨かれ、枠も機械で加工されている美しいものだった。ムーンストーンという乳白色の小さな石は正に月の光のように淡い光を放っている。
本当にお互いが、全く同じ意図をもって同じような物を用意していたのだ。
「やっぱり、片割れだから通じ合うのかしら。すごく嬉しい。こんなもの、用意する暇もない忙しさのはずなのに。ありがとうシェイン」
シェインがそれをリアの首に手をまわし、着けてくれた。その途端、シェインに抱きしめられた時に似た安心感が広がる。リアにも、このペンダントに彼のエネルギーが入っているのがわかる。
安心感に包まれて自然と身体から力が抜ける。そのリアをシェインが引き寄せて腕の中に閉じ込めた。
シェインの腕の中で落ち着いて初めて、リアは先ほどの彼の言葉の違和感に気づく。
「シェイン、今まで私のことを“お前”って呼んでたのに、さっきは“君”って呼んだ」
「うん。僕らはもう幼馴染みで従兄のお兄ちゃんと妹じゃなく、片割れの恋人同士だろう?呼び方も変えないとね」
笑って片目をつぶってみせるシェイン。今や彼のちょっとした眼差しにも言葉にも、恋人としての深い愛情と気遣いを感じる。これほどの愛情を彼は今までどうやって隠してきたのだろう?女性として扱われて、リアは愛されることの喜びを、幸せを、生まれて初めて知った。
(私は愛されている。最愛の魂の片割れに。)
それだけで本当に十分だと思った。こんな幸せをくれたシェインを必ず守る。リアは密かに又心に誓った。
「本当はその赤い光石がどういうものか、とか他にも話したいことがたくさんあるの。でも今はそんな時間ないから、シェインが帰ってきたら全部話すわ。だから・・きっと無事に帰ってきて。お願い。無茶はしないでね」
リアは涙をどうにかこらえ、それだけ伝えた。
「わかったよ。必ずリアの元に戻ってくるから、待っていて。リアも気を付けていて。」
「うん。私は大丈夫だから、心配しないで」
そして別れの時が近づいてきた。リアが言う。
「この前、シェインがカーサ様に関して言っていたことは多分、全部正しいわ。あの方は、私たちのことをわかって、シェインに嫉妬している。戦場でもあなたに無茶な指令を出してくるかもしれない。どうか、気を付けてね」
シェインはちょっと驚いたようだったが、頷いた。
「わかった。気を付ける。油断はしないよ。・・もう行かなければ」
リアはこらえきれなかった。涙をこぼしながらも向き直ってもう一度強く抱き着いた。シェインも強く抱きしめ返してくれた。そして、
「リア、愛しているよ。いつも、どんな時も僕は君の傍にいることを忘れないで」
と、言って長い口づけを交わした。それは聖なる儀式のようだった。
「私も愛しています。どうか、ご無事で・・シェイン、行ってらっしゃい」
最後は笑顔で送り出したかったリアは、そう言って何とか笑みを浮かべた。
それを見たシェインも小さく微笑んで、
「ああ、行ってくるよ、リア。必ず又ここで会おう」
そう言ってリアの額に唇を触れ、それを最後に、未練を断ち切るように速足で歩きだした。
明日の出陣は夜明け前と聞いている。これが、リアがシェインの姿を見る最後だ。
小さくなる後ろ姿を見送りながら、シェインがくれたムーンストーンを握りしめ、ずっと我慢していた涙をこぼした。




