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【完結】君がいなくなって、ようやく恋だと知った 〜幼馴染を失った彼の後悔〜  作者: 恋せよ恋


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第30話 青空に誓う約束、そして未来へ

 ビビアンが隣国のローゼンタールへと旅立ってから、一年。

 王立学園に残されたユリウスは、見違えるような変貌を遂げていた。


 かつての「誰にでも優しいヒーロー」という甘さは消え、伯爵家の嫡男としての責務を愚直なまでに全うする日々。学園では常に上位の成績を維持し、学園生活の傍ら、実父のもとで次期伯爵としての実務を徐々にこなしていった。


 大人たちは、ジャネットの一件という「手綱」を使ってユリウスを都合よくコントロールしようとしていたが、ユリウスはそのプレッシャーから必死に逃れようと足掻いていた。

 睡眠時間を削って父の執務の補佐に励み、大人の政治の「仕組みと実務」を必死に学んでいく。かつての甘さを捨て、未熟なりにリッチモンド領の内政データや王宮への提出書類を処理してみせるユリウスの執念に、大人たちも「ただの手綱で縛れる器ではないな」と、その本気の覚悟を認めざるを得なくなっていった。


 すべては、海を越えた先で前を向き続けるビビアンに、二度と置いていかれないために。


 だが、二年生の課程を終え、最高学年への進級を間近に控えたある日、ユリウスの元にビビアンからの手紙が届く。

『ローゼンタールでさらに深く学びたい課題が見つかりました。勝手を言いますが、もう一年留学を延長し、私はこちらの学校で卒業を迎えようと思います』


 手紙を読んだユリウスは、目の前が真っ暗になるほどの衝撃に愕然とした。早く彼女に会いたい、許されたいという一心で張り詰めていた糸が切れそうになる。

 しかし、今の彼はもう、己の寂しさだけで周囲を振り回す子供ではなかった。ローゼンタールで自立し、己の道を切り開こうとしているビビアンの輝きを、自分のエゴで曇らせるわけにはいかない。


『……分かった。君の進む道を、僕は全力で応援する。だからビビ、君が戻る頃には、もっと大きな男になってみせるよ』


 ユリウスは寂しさを押し殺し、彼女の挑戦を応援する返事を出した。

 そこからのもう一年は、まさに血の滲むような研鑽の日々だった。同じ最高学年として、海を越えた先で学び続けるビビアンに負けじと、ユリウスもまた学園の授業の傍ら、父の元で次期伯爵としての実務に没頭していく。

 寝る間も惜しんで働き、大人の政治の仕組みに必死に食らいつきながら、ユリウスは次期伯爵としての必要な資質と経験を、学園在学中の身でありながらも貪欲に吸収していった。



 そして、待ち望んだ一年の歳月が流れ、待ちに待ったビビアンの帰国の日。

 王都の港には、まばゆい陽光が降り注いでいた。


 接岸する巨大な商船からタラップを下りてくる乗客の中に、ユリウスはその姿を見つける。二年間という長い研鑽を経て、より知的に、より凛として、大人の気品を纏って美しくなったビビアン。


「ビビ……!」


「ユリウス!」


 駆け寄るビビアンを、ユリウスは確かな力で抱きとめる。


「お帰り、ビビ。本当に……長かったよ」


「ただいま戻りました、ユリウス。……私の我儘を信じて待っていてくれて、本当にありがとう」


互いの体温を確かめ合う二人の元へ、ビビアンのすぐ後ろから、一人の洗練された青年貴族が歩み寄ってきた。ローゼンタール王国のシャンプレン侯爵家次男、パトリックだった。


「感動の再会の邪魔をしてすまないね。君が噂のリッチモンド伯爵令息か。留学先でビビアンの学友だったパトリック・シャンプレンだ。今回は我が国と貴国との新たな通商協定、ビジネスのために同行させてもらった。これからは仕事のパートナーとして、よろしく頼むよ」


ビビアンと親しげに笑い合うパトリックの姿に、ユリウスの胸をかつてのような焦燥と嫉妬がかすめそうになる。だが、今のユリウスは違った。彼は毅然とした大人の態度でパトリックの差し出した手を力強く握り返す。


「歓迎いたします、パトリック侯爵令息。ビビアンから貴方の優秀さは聞いています。我が国としても、ローゼンタールの先進的な技術はぜひ貪欲に学びたい。今後の共同事業では通商窓口として期待していますよ」


その堂々とした男の器、そして一切の動揺を見せない鋭い眼光に、パトリックは感心したように眉を上げた。ビビアンもまた、見違えるほど頼もしく、逞しくなったユリウスの姿を前に、心からの眩しい笑顔を浮かべるのだった。


 パトリックと港で別れ、ドルーマン伯爵邸へと送り届ける馬車の中。隣り合って座るユリウスとビビアンの手は、どちらからともなく、当然のことのように重なり合っている。


「ビビ、来月はいよいよ僕たちの婚約発表だね。実は、両家の婚姻に関する『契約条項』の文面について合意を取り付けておいたんだ」


  ユリウスはあらかじめ座席に置いてあった鞄から、一通の書類を取り出す。

「二人の間に子が生まれた場合、長子はリッチモンド家を継承し、次男をドルーマン伯爵家の正統な後継者とする」、大貴族同士の婚姻において最も懸念されていた後継者問題を、ユリウス自身が大人たちと対等に渡り合い、両家の利害を完璧に一致させる政治的契約として結実させたのだ。


「それから、君がローゼンタールで学んできた『女性の人権改善』の実践だけど……旧シシリー領をその舞台として使ってほしい。まだ新人の僕だけの権限では頼りないかもしれないけれど、伯爵家の実務補佐として、予算と法整備を通すためのあらゆる工作と書類仕事は僕が引き受ける。君はそこで、困っている女性たちの避難施設や職業訓練場、保育施設を思い切り充実させていくといい。君の理想のすべてを、今度は僕がリッチモンド伯爵家当主として支えてみせるよ」


ビビアンは驚きに目を見張ったあと、心からの愛おしさを込めて穏やかに微笑んだ。

かつて、か弱い少女に振り回され、安っぽい偽善に酔っていた頼りない少年は、もうどこにもいない。本物の堅実な内政能力を携え、自分のすべてを支えてくれる最高のパートナー。


「まあ……本当に、いつの間にか頼もしい大人の貴公子になったのね、ユリウス。ええ、嬉しいわ。喜んで、その言葉に甘えさせてもらうわね」


ユリウスはその指先にそっと唇を寄せた。

一度は己の未熟さで泥沼に落ちかけ、傷つけ、それでも死に物狂いの努力で這い上がり、自ら選び直した本来あるべき場所。そこにはただ、愛する人のために動く男と、己の意志でその隣に立つと決めた女の、揺るぎない幸福だけが残っていた。


二人の物語は、ここから本当の意味で始まっていく。


 ハッピーエンド



( のちに二人は三男一女という子宝に恵まれ、契約通りに次男がドルーマン家を継承し、両家の地盤は王国で最も揺るぎないものとなるのだが。それはまだ、少し先の話である)




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