086 洞察眼
「スミレはすごいんだぞ!IQがすごく高いんだ」
「ちょっと光、やめてよそういう話は」
誇らしげに胸を張る天城。
加藤はそれを照れ臭そうに諌めるが、効果は無いようだ。
仲間の凄さを気持ち良さそうに語る天城を、須藤が質問で遮る。
「あの、スミレちゃんは何歳なの?」
「ちゃんって、別にいいけど・・・22よ、今年23になる」
「えっ、年上!?」
凛は思わず口からこぼれ出た自分の言葉に驚き、何度も頭を下げた。
「はぁ・・・まぁ実年齢より若く見られる事はいつもの事だからいいけどね。とはいえ、あなたとそんなに変わらないでしょ。そんなに敬う必要は無いわ」
「あ、ありがとうございます・・・?」
「いいのよ。私達はお互いに歩み寄る必要があるでしょ。必要な情報は惜しみ無く開示するつもり。そうじゃない?」
その言葉には、この場にいる全員が同意だ。
言葉には出さないが、それぞれが頷く。
だが意外にも目を丸くしたのは天城だった。
「珍しいな、スミレがそんなこと言うなんて!今までは他のチームと関わりたがらなかったっていうのに」
「あのねぇ、人は選ぶわよ。この人達は大丈夫だと判断したの。私利私欲で動いている訳じゃないもの」
相馬達とは何か違うものを見ているような、見透かしているような加藤だが、それとは裏腹に、相馬達は未だ目の前の二人が信用に足る人物なのかは計りかねている。
「言い切るんだな。確かにこの世界で自分の欲望を満たそうなんて思ってはいないけど」
「分かるわよ、それくらい」
加藤はそう言い切る。
相馬はここまで見透かされるなら、いっそ全てを包み隠さずに言ってしまってもいいかも知れないと思った瞬間に、先程の『情報は惜しみ無く開示するつもり』という言葉が頭をよぎる。
はっとして加藤を見ると、待っていたかのように交差する視線。
(なるほど、この流れになる事を読んでいたってことか。いや、むしろこうなるように話を進めていたのか。この子を相手に会話の主導権を握るのは相当難しいな)
「分かった降参だ。変に警戒しないで腹を割って話そう。何か聞きたい事はあるか?」
「降参?なんにしても腹を割ってとは嬉しいな!ありがとう翔太!」
そこからは5人で惜しみなく情報を交換し合った。
一度胸襟を開いて話し合うと不思議なもので、この日初めて会ったとは思えない程に気を許してしまう。
「なんか、お互いに信じられない話だよねぇ・・・」
須藤がまるで他人事のように率直な感想を口に出したが、気持ちは分かる。
天城達もまた、壮絶な経験を経て今に至っていた。
ハウザーやタマキのような特殊な人物との戦闘こそ無いものの、やはりこの世界で好き勝手にやろうという輩は多いらしい。
相馬達は運良く巻き込まれて来なかったが、派閥のようなものもあり、チーム間での抗争のようなものまであるのだとか。
新井武臣の協力の元、この世界の平穏と、脱出の方法を模索していた。
しかしそこに大きな壁が立ち塞がる。
「今の問題はあの大男、ハウザーだ。タケさんを殺したばかりか、僕らみたいなタケさんに近い人間を狩って回っている」
「目的はおそらくこの世界の維持。だからあいつはこの世界を楽しんでいるチームに手を出す事はないのよ。玲奈が狙われるのは、タケさんと一緒にいたから。きっと思想的にこっち側だと思われているからね」
「なるほど、狙われる心当たりなんて無かったけど、そういうことだったのかぁ。タケさんはなんで私にそこらへん話してくれなかったんだろう」
「それはスミレにも分からないわ。でも予想はできる。聞く限り玲奈の能力は便利すぎるのよ。そしてその性格。初めから事情を知っていたら、敵に突っ込んで行ったんじゃない?あなたを自由にしたら一日として命が保たないわ」
「う・・・そんなことは」
須藤の目は泳ぎに泳ぎまくっていた。
加藤の言う通り、須藤が矢のように敵へ一直線に飛んでいく姿は想像に易い。
初めて会ったというのに、性質をよく理解しているようだ。
加藤はさらに言葉を続ける。
「光が言ったように、まずハウザーという驚異をどうにかしなきゃダメなのよ。この世界のことを解明したくても、現状は身の安全が保障されていない。こうして人数も集まった。また誰かが犠牲になる前に、協力してちょうだい。それと凛、悪いけどあなたの兄の事はその後ね」
「あ・・・はい」
「同時にじゃダメなんですか?こうして人数もいるし・・・!」
「いいんです透くん!私は大丈夫ですから・・・ね?」
真壁が異議を唱えるも、その意見は凛によって遮られる。
当の本人がそう言うのでは、真壁にはそれ以上どうしようもない。
「・・・石上湊を後回しにしなきゃいけない理由はあるのだけれど、説明いる?」
「いいえ、大丈夫です。話の腰を折ってすみませんでした・・・」
真壁にも分かっていた。この時点で石上湊を優先する必要は大してない。
石上湊という人物を推察するに、この世界の危険に巻き込まれるような人間とは思えなかった。どころか、危険をもたらす側の可能性すらある。
「とりあえず少し時間をちょうだい。行動する前にもう少し考える」
「今日は来てくれてありがとうなみんな!あとはスミレを中心に今後どうするか考える。そちらも良い案があったら是非教えてくれ!」
歯切れの良い天城の声を合図に、それから少し言葉を交わすと、この奇妙な会議はお開きとなった。




