053 悪夢
「いらないって・・・仲間じゃなかったんですか、あんたら」
「仲間なんてやめてくださいよ。都合が良いから一緒にいただけー」
機械のような喋り方から、間延びしたような、気の抜けた喋り方になっていく。だが口調とは裏腹に、相馬達を見る目は、狙った獲物を逃さまいとする狩人のそれだ。
「このバカには色々教えてあげたのにさー、ちっとも役に立たないんだもん。もういいかなって」
コツンコツンと続けて西岡の頭をつま先で弄ぶ。
ついさっきまで動いていた人間、しかも仲間だったはずが、まるで道端の小石程度の扱い。
それも飽きたのか客席に座ると、脚を組んで相馬達の方に顔を向ける。相変わらずの不気味な笑顔で。
「ショータくんはすごいねぇー。最後に急に元気になったのってどうやったの?新しい能力?」
「あんたは何者なんですか?」
「あはは、無視か。でもいいよ許してあげる。アタシはね、あのコートの男と似たようなもん」
「えっ」
思わぬ返答。あの男とこの女が似ている?
まるで意味が分からない。
「アタシってか、アタシ達はね、この世界がナワバリなの。あんた達より少し詳しくて、少し強い」
「意味が、分かりません」
「あっはは!全部教えてもらえるわけないじゃん!とにかくこういう存在がいるんだよ。この世界に順応して、人間離れした力を使って、目的のために動いている」
(順応している?あのコートの男も?)
長谷川が嘘をついていないとすれば、天災のように思っていたあの男も、相馬達と同じ人間だということが確定する。
だが世界に順応とも言った。それは自分達と何が違うという事なのだろうか。
疑問は尽きないが、何を聞いて良いか分からない。
意味が分からず、助けを求めるように須藤を見ると、何やら考え込んでいた。そして口を開く。
「あなたがこうなるように仕向けたんですか?」
「なわけ!でもまぁー、流れには乗ったよ?従順な秘書キャラしてたしね。バカを唆して、あの年中コート着たデカブツをラスボスみたいなキャラに仕立て上げたのはアタシだけどさー。でも普通に勝てるわきゃないじゃん」
「さっきから意味が分かりません。人間で遊んでるんですか?人が死んだんですよ!?現実にも、戻ってこないんですから・・・!」
「あっは!真面目だなレナちゃんはー。それタケの事言ってる?」
「なんで、それを・・・」
突然出た、思わぬ名前に目を見開く。
長谷川は満面の笑みを浮かべている。
「お、ごめん!今のはカマかけ。あいつはこっちの世界に来ちゃった人と、とにかく繋がりまくってたからね。レナちゃんもそのクチかあ。あいつもねぇー、アタシ達と同じ。この世界に順応したこっち側の人間なの」
「えっ・・・」
「は?」
相馬と須藤が同時に驚愕する。
恩人だと思っていた人間が、コートの男や、この女のような人殺しと同じ?簡単には信じられない。
反応できずに固まっていると、長谷川は大声で笑い出した。
「あっはっはっはっ!サイコーだねその顔!驚いたぁ!?」
「嘘、なんですか?」
「ううん、本当だよ。とは言っても、今あんたらが考えたみたいに仲間って感じじゃない。同業者って感じに近いかなー。しかも同業他社!」
何が面白いのか、言い終わるとまた大声で笑い続ける。
同類のようには言うが、コートの男ほどの威圧感は感じない。だがそれとは別の、この女も関わってはいけない何かだという事を肌で感じる。
「結局何が目的なんですか。あなた達は」
「達って言われても仲間じゃないんだってばー。私の目的は教えてあげる。強力な能力を探すこと」
「西岡は違うんですか?」
「あはっ、あんな筋力バカはいらないよ。殺傷能力なんて武器で補えるでしょ。ちなみにショータくんみたいな能力も便利だけど、そこまで珍しいってわけじゃないからいらないよ」
ひらひらと手を振る。
「今欲しいのはねー、狙った人の近くに行ける能力だね。もうすでにいるらしいんだよ」
背後の須藤を見ようとしてしまったが、なんとか理性で止めることに成功した。
須藤がどんな顔をしているかは分からないが、長谷川からだと相馬の後ろに隠れているので、見えてはいないはず。
なんとか動揺を悟られることはなく、話は続いた。
「ハヤトくんは惜しかったんだよねー。場所までは選べた。でもあれって自分がよく知る場所じゃなきゃダメでさぁ、いまいち使い勝手悪かったんだよー」
「あなたが欲しがる能力も似たような力に聞こえますけどね」
「いやいや、こっちの狙いが人物である以上は、その人の近くでってのがベストなわけ。しかも場所は関係ない。行ったことが無くてもいい。さらにそれ以上の応用も効くらしい。こんな世界とはいえさすがにチートじゃん?」
「その能力は珍しいんですか?」
「そりゃもう激レアよー!アタシね、西岡のとこで色んな能力者を探しまくって、良さそうなやつは引き入れてたのよ。でも一人もいなかったね」
まさか須藤の能力がそんなにも稀有な物とは思っていなかった。
信用できない相手に、手の内を晒したくない一心で秘密にしていただけだが、思わぬ形で命拾いをした。
こんな見るからに危ない女にバレたらどうなるか。
「タケが教えてくれたんだけどさー。でも肝心のそれが誰かまでは教えてくれないの!ひどい!まぁ結局タケは死んだんだけど!あっはっは」
「その能力を手にしてどうするんですか」
「大体わかるでしょ?」
そう言って立てた親指を西岡の死体へ向ける。
(暗殺・・・みたいなことか?)
「ま、今日はここまでにして帰るよ。疲れちゃったし、チームは無くなったし。また能力者探すための手段から探さなきゃいけないし・・・。あ、そういえばあの弱気なトオルくんの裏切りは想定外だったけど、ラッキーだったね彼、最後に勇気を出したおかげで唯一生き残れたわけだからね」
「唯一ってどういうことですか・・・?」
凜が怯えたまま恐る恐る聞くと、長谷川は狂気的な笑顔で答える。
「他はみーんな、殺しちゃった」
まさか、と即座にグラウンドに横たわっているはずの伊藤に顔を向ける。
少し遠いが、伊藤の体の周りには、西岡同様に赤黒い水たまりができているのが見える。
絶句する凜と須藤。
次いでダグアウトの方を見る。さすがに中までは見えないが、ベンチの物陰からはみ出た、動かない足がかすかに見える。伊藤同様に血だまりに倒れている張本の様子が脳裏に浮かぶ。
「現実戻って自首とかされてもつまんないしねー。どうせ動機も手段も証拠も見つからないから、なんてことはないけど、なんとなくうざいしさ」
「なんとなくで、人を二人も・・・?」
「そうだよ。そういうもんなんだって私達は。さて、じゃあまたどこかでね。さっき言った能力見つけたら教えてよねー。じゃあお疲れー」
言うと軽い足取りで大きく跳んだ。相馬に匹敵する跳躍。
足音が数回鳴っただけで、もうスタジアムの壁の向こうに消えていった。
とても追う気にはなれなかった。
改めて客席から全体を見回す。自分達以外の気配は無い。
これは勝利なのか、敗北なのか、もはや何が起きたのかすら理解できない。
「・・・まるで悪い夢だ」
思わず零れた言葉を最後に、意識が途切れた。




