番外 mission 2 : to the MARS③
足元に散らばる、火星特有の鉄を含んだ岩、石、砂。それらを長い火挟のようなものを使い、背負った強化プラスチック製の籠にほいほいと入れていく。始めた頃は扱いに慣れず、なかなか籠に入らなくて苦戦していたが、慣れてくると……
(おお…!結構楽しいかも)
俊輔は手応えを感じ始めていた。ふと思い返してみれば、こういう作業は地球にいた頃も経験したことがなかったと気付く。そんな授業とか部活動とか、ましてや課外活動などはカリキュラムにない。…クラスの担任の教師が昔はあったんだよ、と呟いていたのが妙に頭に残っている。
あれ…よくよく考えたら変じゃないか。昔はあったのに今はない?もしかしたら、何かしら問題等があったのかもしれないけど……まさか、高校生活も管理されていたのか…?機械に。
(……うわ、なんか嫌な考えに思い当たってしまった…整理して考えたい…けど今は集中しないと駄目だ、任務中なんだから)
俊輔は別のことを考えようとする思考を制し、力強く火挟を握る。…余談だが、海野少年に飽きられそうだが正直、能力の訓練よりも楽しい。
さて淡々と作業を熟していくうちに、回収物の重みでどんどん背中が重たくなってきた。慎重に籠をおろし、一度思いっきり背伸びをすると、嫌な音が背中から聞こえた気がした。宇宙スーツ越しに背中をさすろうとして…なんということだ。背中まで全然届かなかった。宇宙スーツ、めちゃくちゃ動きにくい。もごもごと腕を伸ばすが、どう頑張っても届きそうにない。ああ、一人で何をやってるんだか……側から見たら滑稽な光景を披露していることだろう……なんだか後ろめたいような恥ずかしいような気持ちになった俊輔は、籠を背負おうと体勢を立て直そうとして、
(……っ!)
視界いっぱいに広がる暗澹とした見慣れた闇に、一瞬だけ、どきりと心臓が強く鼓動した。
(び、びっくりした……暗くて……そうだ、ここは火星だった…随分と、遠いところまで来たんだなあ……いや一時的な滞在だけど………なんか宇宙って、見ていると変な気分になる。何処まで行っても一人、みたいな寂しさが急に……ってまた腰が…!ピキッていっ、あああああ!)
やってしまった───中腰になりながらのこの作業は、日々鍛えているはずの俊輔の腰だろうとお構いなくダメージを与えた。数時間とはいえこの体勢は正直しんどいし、辛い。明日には間違いなく筋肉痛になるであろうことを確信した俊輔は、少しだけ絶望した。
じっと体勢を保つ事数分、とりあえず動ける様にはなった。
(……うん、ゆっくり動こう)
個々で行うこの作業は、人と話す機会がほとんどないに等しかった。回収物を籠に入れて、満タンになったら作業員に渡し、また別の籠に入れる。その繰り返しで、最低限の会話のみ。だが、話さなくて良いのは僥倖だった。無駄に心労が溜まるよりずっといい。
いずれ慣れなくてはならないと、わかってはいるけども。これから先……きっと、話さないといけない人は、沢山いるはずだから。けど今はちょっと……心の中で葛藤しながら、俊輔は籠を再び火挟を手に取った。
(……そういえば、ほかの二人は順調かな)
まだそんなに時間は経っていないけれど、少し心配になってさりげなく周りを見渡す。少し離れたクレーターの端に春戸少年の姿を見つけた。彼は背後に背負った大型吸塵機械で、火星の砂を次々と走りながら回収している。まるで掃除機でもかけるかのように。あれ、さっきまで鉱物を回収していなかったっけ?というかなんか楽しそうな…え、今スキップした…?大丈夫ですか、火星の重力だと気を抜いたらポーンって飛んでいきそうになりますけど…まあ実際は飛んたところで火星の重力でふわっと地面に落ちるだけだけど。
(先輩、順応早すぎるだろ……)
気を取り直して反対の方を見渡す。家部少年が探索車に乗り、おそらく一休みしているところだった。宇宙スーツが一際砂まみれになっている姿から、運悪く小さな砂嵐にでも巻き込まれたのかもしれない。砂を軽く落としながら、他の作業員と話している。というより、一方的に話しかけられているのを、上手くやり過ごしている様に見えた。
(特に問題はなさそうだ…よし、俺も頑張らないと…!)
それから三時間後、午前の作業は特に問題もなく無事に終了した。それぞれ採掘したものを作業員たちに渡し、挨拶を一言二言交わしてから別れる。銀色のラダーを再び登って、洗浄室に入り、暴風で砂を落として宇宙スーツを洗浄機にシュー!…この分なら、明日には綺麗になっているだろう。念の為、持ち込んでいた剥がせる名札、を洗浄機に付けておく。これで間違えて持っていったなどのトラブルは防げるはずだ。
(う、なんか久しぶりにスーツを脱いだからか薄ら寒く感じる)
俊輔は軽く身震いしたが、他の二人の大丈夫そうな様子を確認し、火星用カイロを出すのはやめた。
三人は銀色の部屋からゲール内に入り、一番近い昇降口に乗ると、三階に降りる。その足で守屋に教えてもらった食堂へと向かった。
「……こ、ここだよな」
「間違いなくここだよ……入らないの?」
「や、ちょっと知らない店に入る時って勇気が」
「…まあ、わからなくはないけどさ」
「こんにちはあ、空いてます〜〜?」
「ちょ、春戸先輩…っ!」
「はい、いらっしゃいませー。空いておりますので、お好きな席にお掛けください」
「良かった空いてるって。うん、窓際のあの辺にしようか」
「そうですね。…佐原井って、人見知りするタイプ?」
「…そうなのかも…うん…」
春戸少年のおかげで食堂に入ることができた三人は、見慣れないメニュー表を見ながら、水を運びにきた店員にそれぞれ口頭で注文する。
「…ねえねえ、珍しいね、アナログなんて」
興奮を隠せないといった雰囲気で二人に話しかけてきた春戸少年。話しかけられた家部少年は嫌な顔をせず首を縦に振った。
「そうですね、今の時代に珍しい。端末注文が主流だと思ってました。初めて見ましたよ、紙に注文書いてるの」
「ね」
「た、確かに…!思い返せば地球でもタブレットだった」
「そうだよね、僕も同じ認識だよ…いやあ、不思議だなぁ。火星は一番、最先端の技術が注ぎ込まれているはずなのに、ね」
「開発は進んでいませんけどね。でも先輩、こういうの好きでしょ」
「うん!大好き!なんでも機械なんてつまらないだろう?だから、ああなって、僕らは取り戻しに行くわけだし」
「まあ……まあ、そうですね」
「……」
俊輔は、何も言えなかった。
春戸少年が言いたいことはわかる。機械が、AIが、異常に発達したからこそ地球は、人間は管理される側になってしまった、だから、取り戻そうとしている。全てを。
でも、全てって、何だっけ?時々、自分が何と戦うのか、何をしているのか、よくわからなくなる……──
俊輔が黙ったことで会話が途切れた。それを見計らっていたかのように、フリルの付いたエプロンを身に纏った小柄な女性が、注文した料理を木のテーブルに次々と並べていった。春戸少年が注文した、守屋オススメの火星火山まんじゅうもあった。山を模した様な三角錐のピンク色の生地に、真ん中から火が噴き出していた。火が噴き出していた。
「「!?」」
「うわあ、すごい!これが火星まんじゅうかぁ…真ん中のこれ、溶岩っぽいけど…食べられるのかなぁ」
「え、えっと説明書きによれば、食べられるそうです。数分待って人工溶岩(チョコレート風味)が冷えてから食べた方が良い、って書いてますね。急ぎの場合は、周りの生地をナイフで削りつつ食べるそうです」
「め、面倒くさ…注文しなくてよかった。何がオススメだよあの区長……あ、佐原井ごめん、僕のサンドイッチとって」
「このやたらと具材がマグマ色したやつですねわかります…はい。これ、肉?」
「肉って書いてあった。なんのかはわかんない…人工っぽいけど……一口食べる?」
「た、食べる!食べてみたい」
「あーいいなあ僕にも頂戴、勿論二人にも火山まんじゅうをあげようねぇ」
「チッいいですよ」
「家部くん?!あ、俺の火星丼もシェアしましょう!せっかくですし!」
和気藹々と食事の時間が過ぎていく。色物揃いの火星の食事は、値段の割に量が多めに設定されており、十代の体の三人の腹を満たすことに成功した。見た目は奇天烈なものが多いが味は意外にも美味しいものが多かった。特にサンドイッチ、よくわからん肉とジャリジャリしたスパイス、サクサクした野菜がクセになる。なんだこの味。一生忘れられない。原材料が非常に気になる。俊輔は後で調べようと心に誓った。
あらかた食べ終わったところで、家部少年が徐に席を立った。
「今回は僕が払うから、夜はどっちかよろしく。十八時には午後の仕事も終わるはずだからそれくらいの時間に拠点で集合しない?」
その言葉に二人は同意し、昼の支払いは家部少年持ちとなった。スマートに携帯端末で支払いを済ませ、一度席に戻り荷物を抱え直すと三人で食堂を出る。
「はあ……じゃあ、またあとで……」
「う、うん、夜に拠点で。みんな、無理はしないように…!」
「家部くん、あんまり気負いすぎないでね〜〜」
「あっす……じゃ」
食事中とは打って変わって暗い顔と覇気のない声で昇降口へと足を向けた家部少年を、顔を見合わせて二人で見送る。
「あの、気のせいじゃなければ家部くん、めっちゃ暗かったですよね…?」
「んんー、あの区長と二人きりなのが嫌なのかもよ?なんか胡散臭いしね、あの人」
「え」
「とりあえず僕らも持ち場へ行こうか。あ、佐原井くんも無理しちゃダメだよ〜」
「は、はい。先輩も……」
「ふふ、ありがとう。じゃあまた」
春戸少年の不穏な呟きが気になるが、今はそれよりも午後からの仕事が優先だ。春戸少年の話は夜にでも聞こう。時間があれば。
手を振り合ってから、二人も各自指定された場所へ向けて足を動かした。
(えっ…と、四階の、電算室…)
携帯端末の地図を開き、確認しながら昇降口でさらに地下へと向かい目的地へと辿り着く。地下深くに行くにつれ薄暗く、また、人気も少なくなっていった。三階まではあんなに人で活気に満ちていたのに……四階では数人の作業服に身を包んだ人とすれ違う程度だ。明らかに地下三階までとは違う異様な空気に、俊輔は息を呑んだ。
(…ここだ。うう、緊張する……)
奥へ奥へと進み、『電算室』とプレートが貼り付けられた黒く重厚な扉を、恐る恐るノックする。数秒も経たずに返事がくる。俊輔の肩が跳ね上がった。作業服の男性がぬっと出てきた。
「どうぞ、入ってー」
「し、失礼します!本日午後より」
「ああ聞いてる聞いてる、『雷』の子ね。ちょっと待って自動モードに切り替えて、と……よし、ちょっと隣の部屋に行こうか」
「え、は…はい」
作業服の男性に言葉を遮られ、すぐに隣室へと連れて行かれる。俊輔は早速心が折れそうになった。
大人たちは色々と情報を知っているのだろう、けどこちらは何も知らない。せめて挨拶くらい、させてくれたっていいじゃないか。
……他の大人や事情を知っている人から見たら、俺たちがもう、人間じゃなくて兵器だから、こういう扱い、なのか?
(……もしそうなら、しんどい)
兵器扱い、自分で考えておいてダメージが凄まじい。第三の地球にいた頃は周りもみんなそうだからそこまで気に病んでいなかった。でも、海野くんは何回も言っていた、俺達は兵器、でも正気でいろ、と。
大人達も、そう思っているのだろうか?兵器だから極力関わりたくない?怖いから?何をするかわからない?爆弾みたいなものなのか、俺たちは?…それとも俺が?
(……今はこれ以上考えないようにしないと、なんか駄目かも)
溢れそうになる涙を気合いで堪える。火星に来てから、情緒が不安定だ。任務に、与えられた仕事に支障をきたすわけにはいかない。私情を挟むわけにはいかない。
(……第三の地球に戻ったら、誰かに話を聞いてもらいたいな……湖礼くんとか、海野くんとか、秋山くんとかに………よし、切り替えよう)
さて『電算室』の中は、一面見慣れた銀色であった。俊輔は月の拠点ムーンベースを思い浮かべる。似ているものが多いのだ、彼の場所と。幾つもの大きな操作版に、数多の監視カメラの映像、椅子に腰を掛ける数人のオペレーター、天井ほどにも届きそうな長方形の黒い箱たちと、恐らく冷却装置。オペレーターの一人と、一瞬だけ目が合った。彼は憐憫の眼差しで俊輔を見ていた。
(……そんな目で見るなよ、何なんだよ…)
連れられた電算室の中の隣の部屋は、電算室とは全く様子が違っていた。一面銀色であることは同じだが、大小様々な黒い箱の様なものが、幾つもの線に繋がれて、棚の様なものに並べられている。俊輔は嫌な予感がした。そして嫌な予感ほど当たるものはない。
「今からこの小さな家庭用蓄電池コンテナを、君の『雷』の能力で、雷を電気に変換して充電してもらいます。容量は20kw、とりあえず一時間以内に十個ね」
「え?!き、きろわっと?!ボルトじゃなくて…って、急に言われましても!何が何だかっ…」
「ああ、感覚でやってるんだっけか君は……うん、そうだな、とりあえず普段出してる雷の1/100くらいの出力でやってみて。団体戦の時みたいに力任せにはしないでね。一時間経ったらまたくるから」
「や、やり方がよくわからない…んですが…」
「うん、kw数云々は一旦忘れていいよ。
初めのうちは、小さく細く、直流に、電力を流すイメージで。壊しちゃったら仕方ない。何か問題があったり、トイレ休憩行く時はそこの電話で教えて。
あ、この部屋は防電造りだけど、物は違うから」
「は、はい……」
男はそれだけを言い残し、さっさと電算室へと戻っていった。それを呆然と見送る。
「な、なんだよあの人…説明、よく解らないし…この箱に、雷を電気にして流せば良いんだよな…?雷を電気に…変換……?え??どうやって…?」
とりあえず、ちょうど目の前にある家庭用充電池コンテナに、慎重に両手で触れてみる。冷たい。しかし、充電が全くされていない……その状態が、なんと触れるだけで分かった。もしかして、雷の能力の影響だろうか?
一度目を閉じて、電力の流れを、流す方向を探る。
(直流に…充電口は…ここで、それで、えっと、電気の加減を……いやもうわかるか!!やってみようとにかく!もうどうにでもなれーーーっ!)
俊輔は一度失敗することに決めた。だって、初めてのことで、何もわからない。充電口を掌で包み、雷の出力を言われた様に落として、コンテナに直流を意識して流す。結果はショート、コンテナはボンと派手な音と煙を上げ、完全に沈黙した。煙で咽せる。
(……結構、出力?下げたんだけど……これくらいじゃ壊れるのか……もっと抑える必要が…これめっちゃ気使うやつだ……)
一列に陳列された黒い家庭用蓄電池コンテナをげんなりと見渡す。途方もない作業になりそうな予感がした。しかし、感覚を掴むにはひたすら実践しかない。───とにかく充電し続ける!!壊れようが知るか、きちんと説明しない方だって悪いだろ!
「…よし、次だ次ーーーー!!!」
───あれから一時間後。そっと扉が開いた。
作業員が棚のコンテナのチェックに向かった後ろ姿を、床に転がりながら俊輔は只々見上げていた。
「お疲れ様。あーっと、四個……破壊。ほかは……おお、きちんと充電されてるね、残量が100%になっているし、見たところ、問題ない。うん、素晴らしい。これで少しは慣れてきた?じゃあ、次は……十分くらい休んだら、中型コンテナでやってみよう」
「はあ…ありがとう…ございます」
あれから十個の充電が終わるまで、ひたすらぶっ続けで、繊細なコントロールを意識しつつ、コンテナ達を充電しつつけた。普段とは違う能力の出力の仕方に、始めの頃は立て続けにショートを起こしコンテナを駄目にしてしまった。
(こうじゃない、力任せじゃだめだ、戦いじゃないんだし……もっと水が流れるように、繊細にやらないと。墜とすんじゃなくて、放つのでもなくて……弱く、細く……指先から、そっと……)
が、何事も繰り返せば慣れる…ショートの仕方も、充電の仕方も。細かい作業は、非常に、非常に疲れる。
そして実は一瞬だけ、水を思い浮かべた時に別の人物の顔も浮かんだ。
(…やっぱり、めちゃくちゃコントロール凄かったんだなあ倉良…くん)
…十個終わらせたところで、ちょうど一時間が経過したらしく、先ほどの作業員が部屋に入ってきたというわけだ。今まで戦いに重きを置いており繊細なコントロールをそこまで意識していなかった俊輔にとって、消耗が激しく、満身創痍に近い。
(当たれば良いとか、堕とせば良いとか、壊せばいいとか、それだけじゃいんだ。この能力の使い道は…)
さて、俊輔には聞いておきたいことがあった。眉を顰めて立ち上がり、作業員に向き合う。
「これって、任務なんですよね?」
「そうだよ。君達の能力を底上げしつつ火星のインフラを整える任務だ。もしかして、聞いていない?」
「ざ、ざっくりとしか」
「なるほどね。うーん、最終目標として、地球へ行って機械と戦うのは聞いている?」
「はい」
「君の能力がとても貴重で、君に課せられる仕事量がとてつもなーーーく多いってことは?」
「!??」
確か、前に湖礼少年が『雷の能力はレア』…そのようなことは言っていたけど、それだけだ。仕事量とか、そんな話はしていない。
作業員の男に、ちょっとここ座りなよ、と部屋の隅にあるベンチに誘導され、二人並んで座る。
おそらく大事な話だ。しっかり聞いて情報を集めなくては。俊輔は疲弊している体に鞭を打って話を聞く体勢に入る。
「いいのかなあ、自分から説明して……どうせ誰かかしらが伝えるんだし、いいか。うん。
まず君の『雷』の能力はとても重要、それはわかる?」
「はい。攻撃力というか、破壊力は有るらしいので、前衛で一番初めに仕掛ける役割なのかと、勝手に思いました」
「まあ間違ってはいない。君はまず、地球に降りたら数千から数万、下手したら数億の機械兵やそれに付随するものを、可能な限り同時にショートさせる役なんだ」
「は、はい……はい?すう、おく…?」
「それが君の最初にして、最大限のお仕事、かもね。
君にしかできないし、君次第で最悪の最悪の場合……地球奪還計画は破綻、仲間は死ぬ。そして何百年もかけて紡いできた技術や能力の情報も、機械兵たちに渡ることになる」
「!!!」
言葉が、出ない。
感情が追いつかない。どうしてそんな大事で大変なことを、もっと早く教えてくれなったんだ。どうして。
「お、俺……次第で、みんなが、死ぬ…?しかも、機械兵に情報まで……」
───なんて重荷だ、あまりにも突然明かされた情報に、急に体が石にでもなったかのように強張る。重要なことを、いつの間にか課されていた。というか、背負っていた。
誰もそんなこと言ってなかった、チームメイトだって、名無先生だって。強くなる必要があるとしか…、そんな……自分の行動で全てを決するかもしれないなんて、誰も言っていなかった。
───俊輔があまりにも絶望し瞬時に顔面蒼白になったためか、作業員は声色を少し優しくし、表情を柔らかくして口を開いた。
「でもね、まだ訓練段階だから。背負いすぎない方がいいよ、言ったのは自分だけど。
あーー、つまり、だから今こうして、重要な拠点だけども、最悪何かあっても死人が出にくいこの火星で、訓練という名の任務に当たってるんだよ君達三人ともね」
「……俺、俺にしか、できない……」
「うん、『雷』を使えるのは君と…もう一人しかいないから。でも、火星での生活は重力的な意味で長居すべきじゃない。慣れないうちに人体に異常が出たら任務どころじゃないだろ?だから、三日間のみ」
「…なる、ほど…?」
「何回も言うけど、機械の天敵なんだよ、『雷』は。自分たちにとって、君は切り札ってわけ。…疲れたでしょ、そろそろ……もう少しだけ休憩しようか?」
「…い…いえ……大丈夫です、続けます」
「…そう。繰り返すけど、君は火星に滞在する残り二日間で、ある程度のコントロール力を磨くのが本当の任務だ。でも、無理はせず八時間は睡眠をとるように」
「はい……」
「あーーやっぱ話すの早かったかな。ま、いいや。始めようか」
───本当にとんでもない話を聞いてしまった。もう脳が限界だ、考えることを拒否したい。いや、むしろ考えて考えて思考の海に沈んで、沈みきってから誰かに、チームメイトに、引き上げてほしい。今はとにかく一人じゃないって言って欲しい。会いたい、帰りたい。いつものように訓練して、ご飯を食べて、授業を受けて、笑っていたい。
そんな心とは裏腹に、先ほどの感覚を忘れないうちにコントロールの練習をしたいという体の欲が表情に出ていたのか、作業員は目を丸くしながら立ち上がった。
「やる気、出たんだ、今の話で……。ふうん、次は中型をやってみよう」
「は、はい…」
「容量は500kw、さっきより遥かに多く充電できる。まずは適切な出力とその安定を。一時間以内に五個…いけるね?」
「は、はい…っ!」
「いい返事だね。終わったら連絡して。じゃ、頑張ってね、佐原井くん」
「!はいっ」
作業員はベンチから立ち上がり隣の部屋へ戻る時、初めて俊輔の名前を呼んだ。
(もう、考えたくないけど任務は………ってか名前?!よくわからないけど、少しは認めてもらえたのか…?よし!!中型コンテナ、充電してやる!!)
とにかく今は、やれるだけのことをやるのみ!それしかない!後のことは後から考える!!
半分自暴自棄になりながらも、俊輔は手を中型の黒いコンテナへと向けた。




