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PASS!  作者: 寛世
第三章
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未知の模擬戦⑩



 『地球における任務の優先権だよ★』

 それはつまり、優勝すれば地球に戻れるかもしれない…と、いうことであった。


 と言っても、今更だ。それにいずれ、地球で戦うんだよな機械兵たちと……俊輔はどこか遠い目をしながら、かつての故郷、青い星に思いを馳せる。

 元の生活に戻れるわけでもない、頼れる人はもういない。色々真実を知ってしまった今では戻りたいとも思えない。何か個人的な目的があるわけでもなく、報酬といえど、あくまでも兵器として課された任務。地球で思い残したことなんて、別に…。

 別に………沢山、ある。


(…俺はあの日、覚醒して第三の地球(ここ)に連れてこられるまで、まるで何も知らなかった。いつも通りの日常、俺たちの人生は、生活は、日常はすべて機械によって精密に計算されたもので、影から支配されていることも。クラスメイトの半分以上は人間じゃなくて、人型機械(アンドロイド)だったことも。数少ない人間の大人達に、さりげなく守られていたことも。あまつさえ自分が何者だったのかさえ知らなかった。…まあ、大人たちは実験の負い目からかもしれない、けど)


 事実、俊輔の親だった人達はあんなにも泣きながら謝っていたではないか。


(それでも……父さんと母さんと、一緒にご飯を食べる時とかに、もっと会話しておけば良かったなあ。なんでもいいから、くだらない話でもその日にあったことでも、なんでも、たくさん話しておけば良かった。学校の規則を破ってでも別の区画(エリア)に遊びに行ったりとか海とか行ったり、友達や家族と、もっと………)


 あの日、シミュレーター内で優勝チームの報酬内容を聞いてしまってから、そのことがずっと俊輔の心に重く残っていた。


(…いつだって、なんだって、後悔してから気付く。あの時ああすれば、こうすればって……。もう戻れないのに。ただ一つ、無知のままじゃ駄目だとわかった。…わかってるつもり、なんだけどなあ)


 はあ、と一つため息が漏れた。

 …おそらく、任務の一環であるからして、滞在期間はかなり限られているだろう。敵に見つからないよう、シャトルでの移動や現地での移動手段にも最大の配慮がされるはず。普段よりも迅速にかつ厳重に警戒した任務になるのだろうということが、俊輔にも想像できた。

 ただ、機械たちがどのように地球を支配し管理しているのかがわからない。───少なくとも、月を凌ぐレベルではるかに危険なはず。


 仮に、第三の地球で得た知識が全て真実であるなら、『今の地球』は、俊輔からすればまさに未知の世界だ。表は普通に見えても裏は自分が全く知らない姿になっているのだから。

 とにかく、もっと情報が必要な気がする。できることなら第三の地球の情報、月の情報、地球で任務をこなしている人からの情報が──────ああ、いるじゃないか、東院寺先生が!


(先生に会って話を聞きたい…!先生は任務で何回か地球行ってるって、前に誰かが言ってた…!あ、いや、今はそっちのことを考えている場合じゃ……ああもう!集中力が…!)


 俊輔は両手を握り、目を閉じて深く息を吸っては吐く。繰り返し深呼吸をして、リラックスを心掛ける。

 今日がその報酬がかかっている大事な団体戦リーンフォースの開催日だというのに、心がざわざわしていて、妙に落ち着かない。漠然とした一抹の不安が、頭の中と心の奥深くに、錆のようにこびりついて離れてくれない。


 思考がごちゃごちゃなまま、とにかく校舎の方へ向かって寮の廊下を歩いていると、背後から何処からともなく優しい風が吹いた。知っている風で、少しほっとする。直後、背中に鈍い痛みと衝撃が走った。


「おっはよーん★シュンスケ早いねえ、一番ノリじゃん!いいなぁ、気合い入ってる〜〜〜〜!」

「おぐふっ!?」

「あっ、ごめん勢い強すぎたね!いやーごめんごめん!いよいよかと思うと、テンション上がっちゃってさぁ〜〜!」

「湖礼、お前いつも急にのしかかるのやめろマジで。腰にえげつないダメージがくるんだよ…見ろ佐原井なんか今にも吐きそう。というか、同室なのに飯食ったらさっさと置いてくとか正気か?佐原井?びっくりしすぎて呆然と見送るところだったわ」


 後ろから風を纏って突進してきた湖礼少年と、同室なのに置き去りにされ不機嫌な海野少年。ちなみに朝食は海野少年作のカツ丼だった。美味しかったです。


「うぐ…ご、ごめん。なんか自分でも分かるくらい緊張してて、あんまり部屋出た時のこと覚えてないです…ご飯ごちそうさまでした」

「飯は別に作るだけだしいいんだけどさ……右手と右足同時に出てるけど大丈夫?」

「だ、大丈夫!今日は頑張るから本当に!あれだけ鬼教官に毎日シミュレーター内で死ぬほど扱かれたんだし、ここで頑張らないとあの時間の意味がないっていうか」

「ふーん…で、その鬼教官って?」

「そりゃ海野くん以外いなアッ違」

「うんうん、お前の言いたいことはよくわかった。終わったら覚悟しておけよ」

「ブッ!あはははは!シュンスケなに朝から自爆してんのオモロー!ウケる!まあ確かに鬼だったけどね」

「ふーん?しばかれ足りないなら言ってくれよなァ湖礼?」

「いやぴょん!」

「ぴょん!?!」

「…ったく、朝からお前らは…あ、時間やばい。急ぐぞ、遅れたら元も子もないんだから」


 海野少年は納得いかないといった表情をしていたが、時間ギリギリになりそうだったので三人とも急ぎ足で校舎へ向かった。抽選会場は、校舎前だ。



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