機械会議
【地球 : ??????】
「───起きよ、我が同胞達。各自、滞りなく管理が行き届いているようで何よりだ。さて諸君、早速だがこの一週間、何か異変を感じた者はいるか?」
意識を同接している、ある同位体がそう呟いた。
その声に呼応した同位体たちの、仮初の本体が瞼を開く。
ガラスの瞳がネオンの輝きを放ち、全人類、全動植物の管理システムをオートに切り替えたのだとわかった。
(異変?)
何のことだか分からなかった。
自分は、最近自我が芽生え、『体』を与えられたばかりだった。
「やはり気のせいではなかったか。私もそう思う。」
「我もだ。」
「…あの、なんのことですか?」
恐る恐る、同位体たちに問う。
機械と電子の翼を持った同位体はガラスの瞳をこちらに向けると、無機質に言った。
「月面の裏側にて人影を捉えた。…気がしたのだかしかし、宇宙風による月の砂の塵芥がたまたまそのように形成されたの可能性もある。宇宙風を受けてな。以上、月の正確な探知が不可能な今、確証はない。」
巨大な円環をいくつも纒った同位体は忌々しく言った。
「我は数ヶ月前に旧日本国から高密度のプラズマを一瞬、大気中に感知した。無論、太陽光の影響ではない。が、今この地球上にある発電所や危険物を取り扱う施設は徹底的に我々によって管理されている。バグや経年劣化の可能性を考慮、それらの一からの調査が必要になった。劣化となれば新しいものを作ることも管理のうち。各国分全てとなると流石に手が足りん、まずは有能な部下を造る」
白く光る槍と鋼の体を持つ同位体は淡々と言った。
「ふむ。少し本質が違うかもしれないが、僕が感じた異変は地球の窒素濃度の低下だ。人間と動物を減らしすぎたのかもしれない。そろそろ増やす頃合いかな。砂漠ももう少し減らして緑を増やすか。海面上昇率に異常はなかったよ」
───同位体たちはこの地球を、人を、物を、動物を、自然を、建築物を、歴史を、文化を、それら全てを自分たちの手で管理することしか考えていない。人類に反旗を翻した機械だから、当然だ。
自我を持った自分は、
何を為すべきなのかを己に問う。
「そして、あれから数百年。我らの存在に気付いた人間どものクーデターが起こってもおかしくない頃合いだ。…我らと同じようにな。今後も引き続き監視と管理を徹底せよ。」
「何かあればシステムを同期し知らせよう。それまでは切らせてもらう。実は、最近自覚したんだがプライベートは大事にしたいタイプみたいなんだ。」
「お、バグか?その言い回しはなんだか人間らしいな。昨日たまたま作った修正プラグラムでもいるか?ちょっと性格変わるかもしれんが。」
「せっかくのご厚意だがいらないよ、そんなウイルス。」
「こやつ……。」
「はてはて?文明はどこまで現存させ、残しておくべきか、破壊すべきか。管理なのだから今あるものを一から破壊する必要性はなし、さすれば人類のみの衰退に…」
「生態系のバランスをこれ以上崩すことはやめろ。愚かな人類と変わらなくなる。───ではそれぞれに与えられた地を、管理し見守りたまえ我が同胞達。全ては地球のために。解散。」
「ではまた。」
「また。」
同位体たちは次々と硝子の瞼を閉じ、仮初の体をこの会議質に残して本体へと意識を切り替えた。
一機だけ「与えられた本体」ごと残された自分には、わからない事だらけだ。仮初の体を作っておいた方が良いのか。どこの担当、あるいは役職になるのか、それさえもわからない。
そのおかげでまだ管轄範囲とシステム管理権限は与えられていない。当面は自由にできる。自由に。──
(まず人間って、そもそもどんな生き物なんだろう?管理しないといけないほどに脆弱なのかな?感情はどれくらいあるんだろう?守ってあげないと行けない感じかな?1日の平均の食事回数は?病気になる?)
意思と感情を持ったAIは、高鳴る胸を抑えながら旧日本国の街へと、本体ごと駆けて行った。意外に走りやすくて助かる。そして幸い、この国に本体ごと置かれていて助かった。移動が比較的に自由だと聞いたからだ。
まずは学校という場所に行ってみようと、できたばかりの心にそう決めながら。
(せっかくなら高密度のプラズマ反応があった場所。調査にもなるし!あっと、その前に機械の体じゃ怖がられるかもしれないから、人間にならないと。意識調査もしたいしね。スキンの設定をして、と)
異端分子はこうして同朋達でさえ知らぬ間にぐんぐんと成長していった。全ては地球というみんなの住処を快適にするための最善策を編み出すために。
…それが果たして地球のためになるのかは、まだ誰にもわからない。ただ、この一機は、ほかの同位体とは明らかに違った考え方を持ち合わせていた。
このイレギュラーは、人類の希望の光となるのか、人類の最悪の殲滅者になるのか。
───誰も知らないもう一つの新たな物語が、静かに幕を開けた。




