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PASS!  作者: 寛世
第2章
36/53

mission 1 : to the MOON⑧



(ん…?共鳴って、何かと何かの固有なんとか値を同じにして、相殺するみたいなやつだったような…もしかして、共鳴じゃない?)

「よしよし、調子いいなあ〜〜!いぇーーい!」


 俊輔が頭の中で疑問符を浮かべている中、湖礼少年はすぐさま機械の背後に周り、とんっと地を蹴り『風』の能力でふわりと首の上まで浮かび上がった。高く高く、数メートル。羽が生えているのかというくらい軽やかに。おそらくこれは、足場と周囲に風を発生させたんだろうな、と俊輔は思った。人がひとり浮かぶくらいの風量って冷静に考えたらとてつもないのでは…さっき機械を壊した時もだけど…そもそも『風』の能力(アビリティ)の原理ってどうなってるんだ……と、思考の海に片足を突っ込みかけたところで、少年の元気な声で現実に引き戻される。


「白いスイッチ、みーーつけた!はいぽちぽちっとな!」


 二つのスイッチをたたんっと軽快に押すと大型の機械は今度こそ完全に、あっけなく停止する。そこには先程まであった無機質な殺意も恐ろしさもなく、機械は物言わぬオブジェのようにただそこに佇んでいるだけであった。

 それを視覚と聴覚でしっかりと確認してからとんっと地面に降りる。にこにこと笑顔で駆け寄ってきた少年は、実年齢より幾らかこどもに見えた。同じ年齢のはずなのに、ひどく幼く笑う。


(…小さい子どもみたいだなあ)


 ふと俊輔は最近、この少年が自身と本当に同年齢か疑うようになっていた。今みたいに無邪気に笑う彼と、時折冷めた顔で淡々と真実を告げる彼。彼はきっと自分より沢山のことを知っていて、真剣に地球のことを考えている。けれど、なにか地球奪還以外の事を成し遂げようとしているのではないだろうか。

 だが彼は、ここでの初めての頼れる友人だ。初めて第三の地球(ここ)に輸送された時、とても親身になってくれた。そんな友人とも言える存在に不信感を抱くなんて、どうかしている、馬鹿らしい。俊輔は猜疑心を振り払うように、頭を振った。


(なんでだろう、雑念がすごい。集中できていない…ノイズみたいな…)

「ねえ!ねえねえ!シュンスケ、見てたー?!今、ボクが何をしたかわかる?!」

「………」

「おーい!」

「…うわ?!びっくりした、近い近いよ湖礼くん!落ち着いて!えーっと…共鳴?」

「ふっふっふ、惜しい!イイ線いってるけど、実はビミョーに違うんだあ〜〜!あとでこっそり教えてあげる、茂樹っちと、あと同じチームのメンバー以外には秘密にしてちょ★」


 今さらりとなんて言った?


「同じ、なんだって?ちょっと聞き逃しちゃった最近耳遠くてさ」

「まだ若いのに何言ってるの〜〜!これから同じチームになるでしょ?なら隠し事はナシナシ、能力の開示もバンバンするからシクヨロ☆」

「意義あり!いつの間にか湖礼くんのところ入るの確定してる流れではありませんか?!」

「????」

「ミュートしないで『音』の人!プリーズ人権!」

「人じゃないんでありませーん!あはははっ!」


 なんてこった!俺の意思とは!

 湖礼少年は今にも鼻歌を口ずさみそうなくらいご機嫌である。なんてことはない、最初から彼は彼らのチームに入れる気しかなかった、それだけのことだ。俊輔が嫌がろうと保留にしようとどうしても。なんたるゴーイングマイウェイ、強引さ。もしかして海野くん、めちゃくちゃ苦労してるやつでは?今度から少し労わろうと俊輔はこっそり心に決めた。


「さて、ご要望通り緊急停止させましたので、緊急アラートの原因をお聞かせ願えますか。矢田野さん」


 湖礼少年がくるりと踵を返し、氏と向き合う。笑顔は崩さず声のトーンを少し下げ、少し威圧感も出して。先程までとは別人のような切り替えの早さに、こちらまで冷や汗が流れる。

 問われた矢田野氏は、一連の流れを見て安堵している様だった。大型の給水用機械が壊されなかったからだろうか?


「わがままを聞いて頂き、誠に感謝いたします。この件の謝礼については後ほど。原因ですが、機械の暴走です」

「暴走、ですか」

「ええ…ご覧の通り弊社はほぼ無人の植物プラント。食物の生産を主な仕事とし、作業には機械を用いています。人間は私を含め3人のみ、我々は操作やメンテナンス要員ですね。

今回は、給水時間の設定ミスとそれを修正しようとした時の、操作ミスによる多重命令エラーです」

「なるほど、ここにいる貴方が操作をしていたのですね。社長さんでも、操作ミスするんですねえ」

「……あの大型機械は、給水だけの目的で仕入れたのではないのですよ。背中から給水用の別の腕を出せますが、あの両腕はほかの機械が故障、暴走した時に速やかに回収する為のものです。対機械用、ですね」

「…で、貴方の操作ミスによる暴走で、人間である貴方を掴み殺しかけ、緊急アラートが鳴ったと」

「ええ、はい。概ねその通りです」

「どうして嘘をつくんですか?」


 ───空気が凍った。


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