休憩
「よくやった方じゃね」
「慰めありがとう…」
「いやマジで。初日にしてはよくやったよ」
「ありがとう…」
──飯時だ。とりあえず食いに行くぞ。腹が減ったらなんとやら、思考が鈍るからな。
と、連れてこられた校内の食堂は、それはもう広かった。ドーム型の吹き抜け天井。特段豪華な装飾品はなく、いくつかの木製の丸いのテーブルにこれまた丸みのある椅子があるだけ。いたってシンプルな作りがより木の温かみを感じさせる。お昼時ということもあり、中はそれなりに混んでいた。
耳をすまさなくとも聞こえてくる、当たり障りのない会話。どこで食べる、何を食べると言った、ごくありきたりな日常会話。ああ、生活の音がするなあ。ここにきてやっと、俊輔は湖礼少年と海野少年と赤髪の不良と白衣の名無先生以外の人を目の当たりにすることができた。
(人が、いっぱいいる…!)
「ここのシステムについて説明するから聞けよ、何回も言わねえぞ……そんなに周りが気になるか?」
「う、うん。校舎には、あまり人がいなかったし」
「授業はオンラインでなんとかなるからな……ん。見た感じ、今いるのは、訓練してた奴らかな」
「訓練?」
「そう、能力を磨く訓練。お前もさっき授業受けてただろ?似たようなもんだよ」
「な、なるほど」
「オンライン授業を受ける奴らはさ、訓練以外は用事がない限りは寮から出てこないんだよ」
「え、なんで?」
「寮と街のモールでなんとかなるから。んで本題、食堂のシステムなんだけど……」
(それってつまり、用事や訓練がなければ、学校へ行く必要がない───ってこと?)
前の学校ならば、有り得ないことだった。俊輔はいまいちしっくりこなかったが、海野少年が説明を切り上げたためこれ以上追求するのはやめた。彼はよほど腹が空いているらしく、視線が先程からずっとメニューが記載されているらしいタブレットに注がれている。なんだか申し訳なくなってきた。
「各テーブルに備え付けてある小さなタブレット…これで、まずはメニューを選んで入力。数分後にロボット、運が良ければシェフが食事を届けに来るからそれを食う。皿は下げなくていい。終わり」
「簡単だ」
「だろ?」
「ありがとう、教えてくれて」
「気にすんな。ついでに言っておくと俺らは学費も食費も免除されてるから、気にせず食えよ」
「……」
「俺らは一応学生だが、人間じゃない。兵士みたいなもんだ、だから生活にかかる金は気にする必要がない、なんなら月毎に配給される。人間をやめさせられた俺らへの、せめてもの配慮だとか。人間らしい生活を送るための、娯楽費らしい。休みの日はそれを使ってモールとかで学生らしく遊べばいいんだってさ。要するにメンタルケアだ。変だよなあ、体は兵器、心は人間。ちぐはぐで受け入れたくない。存在が矛盾だ。でも、ここではそう生きる必要がある。もう一度言うが、心を化け物にしろ。そうして守れ、完全に兵器になりたくなければ。
あ、親には一人当たり極秘に二、三千万くらい振り込まれる」
命って軽いよなあ。
海野少年は息を吐く間もなく壊れたレコードのように、淡々と告げる。俊輔は何も言えなかった。海野少年は何か知っている。彼は何を見て、何を感じてきたのだろう。何を伝えようとしているのだろう。今の俊輔には、まだわからないことだらけだった。
ただ、少しだけ安心した。少しだけでも、両親が楽になれば、今はそれで良い。胸が少しだけ、痛んだ気がした。
「俺はとりあえず鳥飯丼。」
「じゃあ、俺は…オムライスにしようかな…」
「んじゃ、一緒に注文するぞ。よし、と」
……前の学校に食堂はなく、また、実家暮らしのためお弁当を持参していた俊輔にとって、初めての食堂での昼食となる。ピピッと小さな音がした。タブレットに文字が表示される。『少々お待ちください』と。
「これからが楽しみだ」
囁くような海野少年の声が聞こえた。




