──閑話休題──
少年は風を伴って音となり、駆け出す。
別棟の廊下で、窓の外を見つめる少女に向かって。
「───雪姫!!」
「あ…湖礼。おはよう」
「もうこんばんはだよ!体は大丈夫なの?」
「平気。すぐ帰るから」
「そっか…雪姫が学園に来るなんて珍しいね、何ヶ月ぶりかな。もしかして天候崩れる?」
夕陽が差し込む廊下に二人きり。
一人は帽子を被った、少し嬉しげな湖礼少年。
もう一人は車椅子に乗った、長い黒髪の少女。
「本当に、気分なの。何か起きそうな気がして」
「あ、それ半分は当たってる」
「半分?」
少女の顔が少年に向いた。併せて車椅子が自動で少年の方を向く。
「今日、地球から仲間が来たんだ」
「そう」
「雪姫も仲良くしてあげてほしい!きっと仲良くなれるから!」
「仲良く…なれるかな。こんな、不完成な私と」
「こんな、じゃないよ。君は君、不完成でも何でもない」
「ありがとう。でも、周りからしたら私はただの──だから」
少女の顔に影がかかる。それに呼応するかのように、少女の周りの空間が突如冷気を帯びた。少年は少し身震いしたが、顔に出さなかった。しかし少女はそれに気づき、両の拳を握りしめていた。
「ごめん私、また……帰る。声かけてくれて、ありがと」
「ううん、また学校でね!」
「…じゃ」
車椅子が自動で翻し、廊下の奥へと少女と共に姿を消していく。その姿を見送ってから、少年は音速で元いた教室へ駆けていった。
(雪姫がまさか学校にくるなんて、ほんとびっくりしちゃった!普段は部屋から出てこないのに!シュンスケが来てから、なんだか楽しくなりそうだなあ!)




