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これでおしまい

 


「あの、ミラエと申します。ダーサイン様の婚約者なのですが、もう少しお伺いしてもよろしいでしょうか?嫌な事を思い出させるようで申し訳無いのですが……」

「私はカトリーヌですわ。第三王子、ヘラクロス様の婚約者ですわ。貴女の様子を伺うと噂の真逆です。それにダーサイン様のあの態度からすると貴女が追いかけられている。ならば調査して国王陛下にお伝え致しますわ。このままだと何だか嫌な予感が致します」

「スミレと申します。辺境伯のドーノ様の婚約者ですが…私はこの婚約出来れば破棄したいのです。ですので大変申し訳無いのですが、あの方の粗を探しておりました!教えてくださいませ」

「あ、アイシャと申します……あの公爵家と縁を繋ぐために婚約してますがその……」

「アイシャ様はデートリッヒ様ではなく、その下の弟のイシュタル様を好いておられるのです」

「さ、サクラコ様!それは言ってはなりません!」

「サクラコと申します、騎士団長息子のダイタル様と婚約してますが、あの方に次期騎士団長が務まるとは思えません。むしろ権力に溺れそうなので巻き込まれる前に離脱したいです!」

「ご、ご丁寧にありがとうございます?マリアンヌと申します。私の話しで良ければ聞いて頂けますか?」



 それから怒涛の如くあった事あった事あった事を喋った。

 お茶もお代わりを何杯もし、途中お化粧直しの時間を得て気づけば午後の授業をまるまるサボり、挙句にとっぷりと日が暮れている始末。

 しかもまだ二人目の話が終わった所だった。



「こ、これはもはや犯罪臭しかしませんわね……」

「可愛らしいご令嬢にするにしても度が過ぎますわ…しかもまだ三人分話が残っているなんて」

「すぐ調べましょう。今から動けば全員婚約破棄騒動が持ち上がるわ。私たちの保身と、マリアンヌ様の心身の健康の為にも」

「マリアンヌ様、お辛いでしょうがあと3人分、そして調査期間、耐えて頂けないでしょうか?」

「それは?えっと……?」

「マリアンヌ様が学園を辞めたところで今の話を聞く限りでは間違いなく追って行きますわ。下手すると監禁……」

「ひっ!!え?そこまでですか?!」

「どうにもその予感は消えませんね。五人が結託して囲えば存在が消えても誰も動けず、大人になり要職に彼らが付けば……」

「マリアンヌ様はその中の誰の子とも分からぬ子を授かる事になるでしょうね。あ、ごめんなさい。脅すつもりじゃないのよ?それを回避しましょうというつもりで」

「サクラコ様!うっかり過ぎです!」

「皆様……お優しいですね。わたくしの話しを信じてくださるなんて……わたくし…ううっ」

「泣いてはいけませんわ!」

「あの者達に勘づかれてはダメなのです!」

「くっ……引っ込めました。そうですね、私、頑張る!いえ、頑張りますわ」

「それ程畏まらなくても良くってよ。わたくし達は仲間なのですから」

「そうそう。外面は気を付けなきゃダメだけど、このメンバーだけだったら気にしない」



 サクラコがパーンと景気よくマリアンヌの背中を叩く。



「痛っ!サクラコ様!?」

「とりあえずもう、遅い。伴に寮に帰ろう。何、心配ない。私が部屋まで送ろう」

「そうですわね。隠密が得意なのはサクラコ様。よろしくお願い致しますわ。明日の放課後またここで。それでよろしいですわよね皆様」





 カトリーヌが上手く纏めてこの日は解散となる。

 その日からこの六名の同盟は強固となり、マリアンヌの心の平穏は何とか保たれた。

 もちろんこの婚約者令嬢の名の元に行われる虐めは続いたが、調査期間の後、婚約者令嬢の誰かが一緒にいる事が増えた為、エスカレートはしなかった。

 相変わらず、男達のデートのお誘いの頻度は変わらず隣に他の令嬢がいてもその令嬢を無視してモーションをかける。

 正にストーカーの如く現れるのだ。

 彼女達も手をこまねいていた訳では無い。

 どう見ても彼等は恋に溺れる無能者達。

 元々家の力はあれど本人達にさほど力は無いと読まれ、令嬢達の手によって少しずつマリアンヌから引き剥がしていく。

 イライラが募る男達は権力を傘にミスを犯していく。

 それらは全て婚約者令嬢達の手で保護者に、王家に逐一報告されていた。

 そうして最終決戦の当日、卒業パーティー。




 ・*:..。o○☼*゜・*:..。o○☼*゜・*:..。o○☼*゜




「嫌でございます!私は貴方方とは絶対に死んでも一緒に参りません!大嫌いでございます!!」



 大声で叫んでスッキリしたマリアンヌがいた。



「何度断っても、いらないとお伝えしても必要のない物を大量に送り付け、果ては下着まで!速攻で捨てました!スケスケ、紐パン、大事な所は丸見えのいかがわしい趣味丸出し!わたくしを娼婦とお思いですか?毎日毎日毎日毎日、毎日!!!しつこく追いかけ、身分差があって断れないのをいい事にわたくしの都合は無視して引っ張り回し、一人で、或いは皆様で好き勝手理想の女性をさもわたくしがそうであるかのようにお話しをし、わたくしの逃げ場を塞ぎ、肩や髪に勝手に触れ、腰を抱き……いつ襲われるか恐怖でしかありませんでした!!救って下さったのはカトリーヌ様初め、皆様の婚約者だった方々ですわ!!」

「な、何を」



 マリアンヌの告白に男達は狼狽える。

 好意で良かれと思っていた。

 自分と相思相愛だと思っていた。



「そんなマリアンヌ、あんなに喜んでいたではないか」

「お断りしかしておりません!そりゃ最初の花一輪程度の時はお礼を申し上げました。でも!鍵を掛けたはずの女子寮で部屋中を薔薇の花で埋めつくし、部屋の中に五名もの男性。それぞれにスケスケの下着をプレゼントだと渡された恐怖!それを着て見せろと言われた絶望!カトリーヌ様達が来て下さらなかったら…でわたくしはどうなっていたのでしょうか……陛下!恐れながら申し上げます!もう生理的に無理!気持ち悪いのです!」

「ヘラクロス、そんな事をしたのか?」



 国王が、自分の息子ながら引き気味に訊ねる。

 自分の彼女……いや、妻でもない者に集団で下着を送るとは……

 マリアンヌが気の毒になる。

 好きでもない男に年頃の娘が……しかも断れない身分差……



「父上、違っ、いや、あの私と彼女は相思相愛!」

「大嫌い!」

「物凄く拒否されておるが?」

「いや、あの、妃になれば!」

「なるくらいなら死にます!」

「……はぁ……権力を笠に着ている貴族が増えたことは事実だ。それも自分の息子からとは……どう教育を間違えたのか、誠実にすらなれぬとは」



 国王が首を横に振る。

 そしてサッと手を上げると書状を抱えた男達が国王の元に書類を差し出す。



「既にお前達の婚約者から直訴が上がり徹底的に調べあげている。先ほどマリアンヌ嬢が言っていた事も含めてな」



 国王が深く溜息を吐く。


「ヘラクロス、お前には落胆したぞ。いやお前達全員にだ。彼女達とは既に婚約者解消済だ。使えもしない駒には勿体ない。もちろん彼女達には既に別のまともな婚約者がいる。幸い順調にそれぞれに交流を深めておる。お前達と違ってな」

「そ、それは」



 ヘラクロス達の目が一様に輝く。

 自分達がいかに愚かなのかも分かりもせずに。



「マリアンヌ嬢、そなたの婚約も認めよう。あれはいい男だ」

「父上!それは」

「お前達では無いぞ。お前達は廃嫡とす。各家からすでに承認も得ている」

「な、何故ですか!父上!」

「本当にわかっていないのか?」



 情けない。そう首を振る。

 王の後ろに控えていたそれぞれの両親の顔も青ざめて溜息を零す。



「お前達は修道院送りだ。恩赦はない。宦官にならぬだけマシだと思え」

「な!何故ですか父上!」

「我らが何をしたと!」

「五月蝿!お前達がしたのは犯罪だ。よりによって上に立つべき者が身分差を利用して幼気な少女に纏わり付き彼女の人格を無視して連れ回し挙句、下着姿になれと強要。カトリーヌ嬢達が介入しなければ襲っていてもおかしくない」

「そのような野蛮な事は」

「では聞くが、マリアンヌ嬢の好きな色は?」



 男達が顔を見合わせる。

 国王が続けて問う。



「好きな花は?」

「薔薇だ!」

「違います」

「好きな教科は?食べ物は?菓子は?どうした?答えんのか?」

「答えられる訳はございませんわ。だってマリアンヌ様に一度だって確認した事は無いのですから」

「わたくしたちは答えられますわ」

「色は桜色、花は桜」

「教科は裁縫、食べ物はハンバーグ、お菓子はダックワーズ」

「私達親友ですもの」

「それぞれ道は違えても永遠の友情を誓っております」



 静かに微笑むカトリーヌ達元婚約者令嬢。

 揃いの指輪にはこの国の国花の鈴蘭が刻まれている。

 それは国から保護されているという証でもあった。

 装飾品として国花を身に付けられるのは極一部の貴族だけであった。

 カトリーヌの傍にいや、カトリーヌ達の隣に次々と男性が現れ、親しそうに腰を抱く。



「貴様!私の婚約者だぞ!なっ!?」

「婚約はとっくの昔に破棄済だよヘラクロス。君は馬鹿だねこんないい女を。だから貰ったんだよ。彼女こそ王妃に相応しい」

「兄上……婚約者はマーリン様はどうしたのです!」

「あーあの女はお前達とどっこいどっこいの馬鹿だねぇ。立場を放棄し、教育と勉強をサボった挙句、男に現を抜かし、逃げられてこっちに擦り寄って来たから全部証拠を並べて婚約破棄だよ。なんで他の男の子を王室で育てなくちゃいけないのさ?貴方の子よ!ってキスすらしてないのに出来るわけが無い。彼女は隣国に帰り廃嫡、どこかの後妻として嫁いだという噂だ」

「ラドクリフ様」



 ぽうと頬染めこの国の王太子であるラドクリフをカトリーヌは見つめる。

 ラドクリフもカトリーヌを大切そうに見つめる。

 ラブラブである。

 男達が慌てて元婚約者を見ればそれぞれ自分達より身分が高く既に手に職を持っていたが結婚していなかった所謂、良物件の男達と微笑み合いそこには自分達にはなかった絆がそこには確かにある。

 マリアンヌは?!と急いで見ると、安心仕切った笑顔で男に体を預けている。



「な!マリアンヌ!この売女!」

「俺たちを裏切るというのか!」

「失礼な事言うね。彼女はずっと震えていたんだよ?僕の妹達に保護されるまでね。おっと、たかが伯爵、されど伯爵、廃嫡されて身分無しの君達よりは偉いんだよ?これでも」

「レン様」



 キュッとマリアンヌが身を寄せる。

 彼はサクラコの兄のレン・フィールド。この国の伯爵家とはいえ、裏では諜報部を牛耳る家の者の嫡男。



「いやー本当にラッキーだよね。サクラコのお友達でこんな可愛い子。しかもサララルーラ様の義理とはいえ、お嬢様。お付き合いしたいからモーションかけていいか尋ねたら本気で殺されるかと思いましたよ。サララルーラ様、マリアンヌ嬢を自分の子と同様目に入れても痛くない程可愛がっていますから。あ、君達の事も彼女に報告済ですよ?一応お伝えしますがサララルーラ様のご実家はメイルース伯爵家。王家の懐刀ですよ」



 さらりとレンは毒を零していく。



「あ、ちなみに伯爵家と男爵家の身分差が!って自分達の事はさて置いて吠えられる前に言いますが、ラーク家は子爵になりますよ。ラット様とサララルーラ様の功績は大きいですからね。一昨日既に発表済ですがもしかしてその顔は知らないんですか??」



 サッと男達の顔が青ざめる。貴族足るもの情報に敏感でなくてはならない。

 情報が遅ければその分命取りになるのだ。



「ま、男爵家からだろうが、サララルーラ様が既に伯爵家から男爵家に嫁がれたという前歴を作られたので愛するマリアンヌ様の為に力をつくされたでしょうから、なんの問題もありませんよ。あとはマリアンヌ様が僕を好きになってくれるかどうかだけです。サララルーラ様はマリアンヌ様に望まれたのは一生の苦楽を共に出来る相手と恋愛結婚する事ですからね」

「レン様……私は貴方を尊敬しております。そして、た、多分……好き……」



 ぽぅと頬が桜色に染まりレンを見上げるマリアンヌ。

 美少女の照れ顔は周囲が息を飲む程破壊的に可愛いらしかった。

 レンはそっとマリアンヌの手を持ち上げるとその甲にキスをし、膝まづく。



「私と結婚してくださいますか?一生大事に致します」

「喜んで。わたくしも精一杯勉強をしてフィールド家繁栄のそしてレン様のお力になれるように致しますわ。沢山の子どもに囲まれた素敵な家庭を作りましょうね」

「ああ。君の意向に沿った乳母を雇おう」



 キラキラとハートが飛び交うそんなエフェクトが見えるような気がする甘い空間。

 多分……好き……どころじゃないでしょ!とカトリーヌ達は心の中でツッコむ。

 にしてもと元婚約者達の方をチラりと見れば、顎が外れんばかりに口を開き凝視。

 手などもプルプルと震えている。

 そろそろ正気に返って暴発しそうな気配も漂う。

 国王の方を見遣れば僅かばかり頷いて手を掲げた。



「ヘラクロス達をひったてい!そのままラザルナルザ修道院へ連れて行け。既に先方へは話しがついておる」

「はっ!」



 兵士が整然と隊列を成して学園の広間に入り元婚約者達を囲み引っ立てる。

 それに気付き元婚約者の男達は騒ぎ立てる。



「触るな俺を誰だと思っている!」

「俺は騎士団長の息子だぞ!離せ!」

「蛮族か!お前達に我らに触る権利は無い!」

「五月蝿い!そなたらは既に平民以下の罪人である二度と家名を名乗るでない!」

「父上!」

「はっきり言おう。お前血の繋がりは無い。お前の母は身ごもりながら嫁いで来たのだ。もちろん、今まで1度も肌を重ねた事など無いのにお前の妹弟を身篭る不思議な身体をしておる。当然側室から既に出している。隣国はどうやらラドクリフの件といい二代続けて売女を送り込んできておるから制裁に向けて動いておるわ。母に合わず気付かなかったのか?」

「そ、そんな馬鹿な!」

「血の繋がりを調べる術が無い訳では無いことを知っているだろうに。役に立てばこのまま見逃したものを、自ら墓穴を掘ったのだよ」



 やれやれと首を振ると王は疲れたように肩を落とす。



「二度と顔を見せるな。危険故、最高峰の印を刻んで連れて行け」

「お許しを」

「そんな!」



 口々に許しを乞いながら広間から男達は姿を消した。



「騒がせたな。祝いの再開と言いたいところだが、明日に延期する。明日改めて卒業パーティだ」



 王の一声で全ての客は自分の子を連れて退出する。

 彼等貴族に取ってこの程度よくあるゴシップでしかない。

 家が潰された訳でもなく、単なる余興。

 むしろ浄化でさえある。

 自分の子ども達に教訓の一つとして話されていく。



 マリアンヌ達はその後それぞれの婚約者と結婚し皆立派に家を盛り立てて、甘い甘い家庭を築き幸せに暮らしましたとさ。

 ここからこの王国では貴族の間でも恋愛結婚が進み、家と家の繋がりでも当人同士が心通わせ無ければ離婚するご家庭が増えましたとさ。



「「マリアンヌ!待っていろ!」」

「「俺たちが幸せにしてやる!」」

「ここから出て君を抱きしめる!」

 マリアンヌを諦めきれない男達はとうとう改心しないまま修道院の奥深くで一生を終えたとさ。

 ラドクリフ王太子にに送られた報告書には『済』のマーク。

 何が『済』なのか誰も永久に知ることは無い。




 おしまい





乙女ゲームの逆パターンが書きたかったのですがw

なんかストーカーに追い回される被害者にil||li_| ̄|○ il||li


乙女ゲームの主人公で勝手に好感度が上がったのに自分はそれほどでも無かったら……的な。にしたかったのにおかしいなぁ…...( = =) トオイメ

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