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精霊と彼女  作者: 白夜
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第十八話



旅に出てから十数年が過ぎ。

私はやっと、ジークを見つけていた。

道ですれ違っただけで解ったので安心したが、問題は。

人間の、子供だったことだろう。

まさか人間になっているとは思わなかった。


年齢は初めてであったときの私と同じくらいだろうか。

すでに背は追い越されているのがちょっと悔しい。

もちろん以前のジークほどではないのだが。

横を一緒に歩く男女は、両親だろう。

家族に恵まれたようで、安心する。

着ている服も上質とは言えないがそれなりの仕立てで、何より清潔だった。



呆然と見つめる私に一瞬だけ怪訝そうな視線を向け、彼は去っていった。

怪しい女だと思われた可能性が高い。

実体化していたのが徒になった。

このまま追いかけたら一層不審者に見えそうなので追いかけたい気持ちをぐっと抑え込む。

いろいろと考えないといけないこともあるから、勢いに任せて話しかけられない状態になったのはいいことだったと思おう。


長年切望してきた再会が限りなく微妙なものになってしまったのは気のせいだと思いたい。

通りすがりの女のことなど忘れてください。切実に。

せめて不審者としてではなく普通に挨拶したいので。




レオンと合流して宿を取る。

毎回毎回恋人同士と誤解されるが慣れてきたのでその辺はスルー出来る。二部屋とるのはもったいないから仕方ない。

今回の宿は当たりだったようできちんと清掃された室内に安心する。

ひどいところになると壁がカビだらけだったりするんだよね。

小さな花瓶に花まで生けてあるあたり、値段の割にサービスが行き届いている。


レオンが買ってきた寄せ木細工を弄りながら、これからのことを考える。

記憶の方はレオンがジークと会えば戻せるらしい。

だが、人間として生きている彼は何もかも忘れてこのまま生きていく方が幸せなのではないだろうか。

いっそ過去のことはないもいわないまま、私が精霊として契約を結んでしまえば彼は彼の望む人生を生きられるかも知れない。

問題は私の目が青い為に精霊に見えないことか。

……どうしようもない問題のような気がする。


いっそ、姿を消したまま見守り続けるべきだろうか。

だけど、彼が可愛いお嫁さんを貰って幸せになるのを見続けるというのは辛すぎる。

彼と契約しても、いつか人間となった彼とは別れることになるのを考えるならば。

結婚して生まれるであろう、彼の子孫を未来永劫見守るというのは魅力的だが……。

嫉妬で天変地異の一つや二つは起こしそうな気がする。

見守ってて災害を起こすようではむしろ疫病神になってしまう。


どうしよう……。

レオンは好きにすればいいといって傍観を決め込んでしまった。

せめて年長者として助言くらいはお願いしたかったのだけど。



とりあえず、彼の今の生活を見てから考えよう。

結論を先送りにしただけのような気はするが、気にしない。

もし未来設計がすでに決まっているのならそれを叶えてあげたいし。





そうして、彼の家を何とか探し出してこっそりお邪魔すると。

なぜか、荷造り完了していました。

家出でしょうか。

家族仲は良さそうに見えたのに。

他のご家族は普通の様子なので、夜逃げって可能性はないようだ。


意外な展開にこれは家出中は困らないように守るべきかと決意を固める。

何が不満なのかは解らないが、置き手紙を書いてるところからして働きに出るとかそう言う話でもなさそうだし。

そもそも働きにでるにしては年齢が若すぎるけど。

一目見ただけでジークだと確信したが、緑の髪にも青い瞳にも以前の面影など一つもないので不思議になる。

ついついじっくり見てしまう。

あ、なんだかストーカーのようです。姿を消して観察…。怪しい人にしか見えない。

しかも私と彼の現在の見た目の年齢差は、私が少年好きな変態のようです。

嫌なことに気付いてしまいました。

これは、自宅にいるときには近寄らず、外にいるときなどの危険がありそうな時だけ見守るべきかも。

プライバシーを侵害していては嫌われるのが確定しそうだ。

「ルシェーラ、いる?」

「え、はい?」

いきなり名前を呼ばれて返事をする。

呼んだのは、ジークだ。いや他に誰もいないので彼以外が呼ぶはずはないのだが。

私の名前を、呼ぶ。

その割になぜか疑問詞が付いてたりするが、当てずっぽうで名前を呼べるはずもない。

記憶があるのだろうか。


ああ、でも。

呼んでもらえた。

忘れられてはいなかった。


それが、嬉しい。


忘れられていてもかまわないと思ってた。

もう一度、会えるという奇跡に比べれば、記憶なんてなくていいと。

彼がいてくれるならそれでいい。

それでも、こうして呼ばれて。

私は以前の彼に会いたかったのだと、解ってしまった。

姿なんてどうでもいい。種族も、かまわない。

ただ、私との思い出を持っていてくれれば。

他に好きな人がいてもかまわない。

過去の思い出の一ページとしてでも覚えておいて欲しかった。


まるで見知らぬ存在のように。

他人として扱われるのは、怖かったのだ。





実体化し、彼の名を呼ぶ。

ずっとずっと呼びたかった名前を。

やっと、声が届く。

抱きしめる、腕のぬくもり。

求めていた、笑顔。


やっと戻ってきた、私の大切な人。


彼の気持ちも変わってないようで、安堵する。

私と一緒にいるために家出の準備をしていたらしい。

道ですれ違ったときにすべて思い出し、きっと私が来ると思って支度してたらしい。

見知らぬ人間に見覚えがあったので悩んだよ、と笑われた。

見かけは私よりずっと幼くなったのにすでに態度が以前と同じだ。

傍から見ると結構違和感があるだろう。

この状態で家に留まるのは難しいかも知れないが、それでも家出させてしまうのも彼の将来的にどうだろう?

いきなり家出して戻らないとか、今まで育ててくれた人に申し訳ないと思う。

この辺はじっくり話し合うべきだろう。

とりあえず家出はいったんやめて貰う。

こういう無駄な行動力も懐かしくて、困るけれど少し嬉しい。






二人でならどんな未来でも、きっと幸せ。





「精霊と彼女」これにて終了です。

最後は長くなってしまいましたが、19話は切りが悪いような気がしてまとめてしまいました。

彼と彼女がこれからどう生きていくのかはご想像にお任せします。

一応決まってはいますが、蛇足になりそうなので。

ここまで読んでくださった皆様に深く感謝いたします。

ありがとうございました。





次回は今更マイブームの異世界(最強)物が書きたい……。

のっけから妙に重い話になりそうなので悩んでいます。

読んでくださる方はいらっしゃるでしょうか。


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