第十話
夏の強い日差しは苦手だ。
もっとも、冬の凍るような寒さも決して得意ではない。
暑さも寒さも。些細な変化にさえ耐えきれない脆弱な体。
じわじわと体力を削り落とす暑さの方が、より苦手というだけ。
満足に汗をかくことも出来ず、体温が上がりすぎて倒れたことも数え切れない。
けれど。もう、倒れることはない。
強い日差しのなか、失ってしまった青年の姿を探し回ったが連日の捜索も、疲労こそ積み重なるものの致命的なことにはならなかった。
以前なら確実に倒れていると、自覚出来るほどに身体を酷使しても。
疲れるだけ、で。
自分が健康体なのだと、思い知った。
彼が、どれほど癒しても。他者と同程度の頑健さは得られなかったのに。
いまは、それがある。
生まれ変わったような身体。
それが、どれだけの奇跡なのか。
どれだけの力を費やせば、成し得るのか。
誰を、犠牲に、したのか。
どんなに認めたくなくても、分ってしまう。
側にいない彼。
幸せになれと、告げた。
私の’幸せ’すべてだった人を失って、どうやって幸せになれというのだろう?
どんなに泣いても、涙をぬぐう指はもうない。
呼びかけても、返る優しい声は聞こえない。
ああ。
これが、罰なのだろうか。
彼は長く生きる精霊だから。
最初から私の方が先に死ぬのはわかりきったことだろうと思ってた。
その覚悟は、あるはずだと。
置いていくのを当たり前に思って、彼の悲しみを顧みなかった。
その、罰。
私だけが幸せに終わることを願って、彼を苦しめただけだった。
置いていかれる孤独も絶望も、何一つ知ろうとせずに。
でも、ならばどうすれば良かったのだろう。
死にたくないと、もっと一緒にいたいと泣いていれば良かったのだろうか。
そうやって別れを互いにとって耐え難い傷にしていれば。
きっと、共に果てるくらいの選択しか見いだせなかっただろうに。
それとも彼は、それを望んでくれていたのだろうか。
分るときはないのだろうけど。
それでも少しだけ。
こんな苦しみを彼が感じずにすんで、良かったとおもった。
私が彼に与えるかもしれなかった苦しみなら。……受け入れよう。
痛みも苦しみも、すべてが愛情からもたらされるものなら。
この絶望すべてが、あなたを好きだった証。
あなたを失った世界で、あなたを想っていきましょう。
そんな決心をあざ笑うかのように。
前途は多難どころか五里霧中でも、もう少しマシだったかもしれない程度には、茨の道だった。
どん底だと思ったら、そこに奈落の口が開いてたようです。